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974:夜明け前

☆ ☆ ☆


1795年12月16日


朝の4時に目を覚ます。

思っていたよりも目が覚めるのが速かったな。

昨日寝たのは午後10時。

少しばかり早起きしたような感じさ……。

いや、早起きには越したことはないが何しろ目が覚めてしまっている。

脳内のエンジンが始動してしまったような……そんな感じだ。

それでいて、アントワネットは爆睡している上に結構寝相がとんでもないことになっている。


元々そこまで寝相が悪い子ではないのだが、最近お酒が入るようになってから活発になって腕などを絡ませてきて夜戦に何度も突入することもある。

夫婦仲が冷えているわけではないのでそれはありがたいことではあるが、アントワネット曰くお酒の楽しみに嵌っているとのこと。


史実でもアントワネットはシャンパーニュを好んで飲んでいた記述が残っており、特に一本15万円以上もする高級ワインを飲んで楽しんでいたとする記載も残っている。

シャンパーニュは俺も好きだ。

何と言ってもあの炭酸ガスの風味が美味しさを際立ているのがいいのだ。

年がら年中飲むわけではなく、どちらかというと転生前の現代時代に飲んでいた炭酸系のお酒を思い出すからだ。


この時代でもウイスキーに炭酸水注いでレモン果汁を加えればハイボール風味の美味しい酒が飲めるわけだが、これはどうもフランスではあまり呑まれていない。

個人的にはウォッカをベースにカクテルを作ってコーラと併せ持ったコークハイ(ルシアンコーク)と呼ばれている度数の高いコーラの酒が一番すきだったのを思い出した。


(そう考えているとコーラ飲みたいなぁ……でもコーラの作り方って1世紀経過しないとできないんじゃないかなぁ……それにコーラもあれは元々医薬品として開発された飲み物だからなぁ……)


コーラはアメリカの薬剤師が開発した医療品であり、この医療品を発明した薬剤師の家族は彼が亡くなった際にレシピや特許などを含めて現代の日本円で15万円程度の金額で別の人物に売り渡してしまったことは有名な話である。

おまけに発明されてから40年間程は炭酸が入っておらず、今日でいうところの栄養ドリンクみたいな扱いで販売されていたのが、薬剤師の製造工程で炭酸を誤って入れたことで飲んだ人から絶賛されたことで、世界的な飲料に変貌したのである。


コーラは無いにしても、代用として他の炭酸飲料は作れるのでそれに代用しておこう。

ミントとか混ぜて飲むだけでも美味いし、シロップなどは既に発明されているのでこれを元手に国営でジュース工場を生産するという手もあるのだ。

悪くはない上に、人間は甘味が欲しがる生物だ。

しっかりと飲み過ぎなければ身体にもプラスの効果を発揮してくるので、あとでアントワネットと相談してワインだけでなくジュース工場の建設を進めておくか……。


ジュースといえばこの時代だとレモネードあたりが無難だろうか……。

すでに作り方が確立されている上に、大西洋を横断する海軍軍人への報酬としてのラム酒があるわけだし、ラム酒の製造の片手間に作るという手もある。

ただ、レモネードに関しては生産の多くがイタリアや地中海方面、それにメキシコなどが有名であり、原材料の安定供給を鑑みればブドウあたりを絞った上でぶどうジュースにする……という手もある。


いずれにしても、安全で安心して飲めるという事が貴重である上に、衛生管理という概念がまだまだ普及し始めたばかりだ。

ジュース工場を作るにしても、衛生概念などをしっかりとしたうえで、生産に関しても長期保存が可能なように作ることを進めていくのがベストだろう。


(ただ、この時代のレモネードを販売している人達の職を奪わないように差別化をしたほうがいいだろうな……最低でも生産した近場の店とかに置いてブランド品として使用するあたりが妥当かな……)


レモネードに関しても、すでに個人が生産して販売することが出来る。

衛生的にも一定の基準を設けて販売することを義務化しているが、それでも個人の判断で生産して販売している飲料や食品が多いので、保存食として生産されている酸味の強いサワークラウトや、ジャムやラム酒などの保存に適した瓶詰めのものに比べると、劣化の速度は早い。

塩漬けや砂糖漬け、それにアルコールなどの腐食しにいくい飲料や食べ物であれば長期保存できるが、レモネードもぶどうジュースも現代のような冷蔵技術がまだまだ発展していないことを加味するとそこまで生産しても品質が保証される長期保存には適していない。

冬場であれば二週間ぐらいは保存できるかもしれないが、夏場ならすぐに痛んでしまうだろう。


であれば、早期に飲食してもらうことを想定した上で作るのが理想的なので、工場を作ったところで付近の飲食店に出すのが精一杯になるかもしれん。

現地の特産品であればぶどうジュースとかでもいいのだが、レモネードであれば原液を作って各店に販売する方式でやれば国営企業として国庫にもお金が溜まるだろうし、悪い話ではないはずだ。


お酒の話から少し脱線してしまったが、流石に朝早くから酒飲みに入るのは肝臓に負担が掛かってしまうので飲むのは控える。

せめて飲むとしたら紅茶が一番いいだろう。

今は寒い12月真っ只中だし、何よりも紅茶には風邪予防にもなるハーブなども入れておくとフレーバーな感じにもなるからね。

紅茶に関してはマイソール王国経由で入ってくる茶葉が中々美味い上に、グレートブリテン王国内戦後に移譲した農園などをフランスのインド太平洋会社が買い取って生産を推し進めているお陰で高品質な茶葉が入りやすいのも特徴的でもあるのだ。


「そうと決まれば紅茶を早速いただくとするか……湯は既に沸かして熱々の淹れたてがいいね……」


お湯の保温技術に関してはまだ研究が進められている最中だ。

電池によってお湯を沸かすことも考えられているが、先の科学博覧会で展示した電池で沸かせたとしても、せいぜいぬるま湯程度までしか温まらないだろう。


何分現代の湯沸かし器のような高火力ないし電気の力でお湯を沸かす技術というのは20世紀に入ってから本格的に一般普及した代物だ。

19世紀頃には富裕層向けに販売もされていたらしいが、価格がそれこそ庶民の平均年収に匹敵するような超高額製品だったことを鑑みれば、自分で火をくべてからやかんなどに湯を入れて沸かしたほうが手っ取り早いのだ。


暖炉の火を見ながら、いずれこうした暖炉が飾りになる時代がやってきて、ストーブやエアコンなどの暖房機器によって人々が暖を取る時代がやってくると思うと、あの現代で生きてきた時代が懐かしく感じてしまう。

過去の人物に転生したというのに、200年以上先の未来の事が懐かしく感じてしまう。

これが過去に飛ばされた転生者特有の悩みであるとしたら、この時代の人々にとってはなんとも贅沢な悩みになるのではないだろうか……。

そう思いつつ、お湯を温めた俺は茶葉の入った容器にお湯を注ぐのであった。

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