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95:海豚の刃

転生者はどす黒いので初投稿です

「私は女大公陛下の言う通りだと思います。オーストリアに下地を作ってから行うべきかと進言致します」

「そうか……根拠を聞かせてもらってもいいかな?」

「ハッ、まず我が国で農奴解放が実現できたのは保守派を一掃したから出来たんです。もし従来の保守派が居座っていたら改革は妥協したものになっていたでしょうね……」


保守派……というよりも反改革派として名乗りを挙げていたオルレアン家を中心とした貴族・聖職者連中を黙らせることが出来た事で、史実よりもスムーズにかつスピーディーに改革を実行に移すことが可能になっただけだ。


「妥協か……去年の金塊公爵事件で一掃されたのだろう?それが出来なかったらという事か?」

「ええ、反改革派の筆頭貴族であったオルレアン家から禁制品……そしてイギリスから金塊を受け取っていたことが判明したので庶民にも分かるように取り潰す事ができましたが……もし、そうした証拠の品が出なかった場合は妥協案として段階的な改革を実施するつもりでした……」


実際のところ、オルレアン家への潜入捜査が失敗に終わっていた場合は、妥協点なども模索して改革の修正なども考えていたほどだ。

仮想敵国であるイギリスの禁制品を所持していたのが分かったから逮捕と反改革派への牽制を行う事が出来た。


もし、それが無理だった場合。

強行して改革を行えば暗殺や国内で挙兵する可能性も否定できなかった。

史実におけるフランス革命の逆で、貴族・聖職者連合による内戦という事態もあり得たのだ。

そうなれば改革なんてやっている場合ではなくなり、プロイセンやイギリスがオルレアン家を筆頭とする反乱軍に加わっていれば……今、この場で王として座ってはいないだろう。


そこで同時進行で進めていたのが、保守派・反改革派による改革妨害に備えての別プランの発案というものであった。

このプランでは、表向きは短期的に貴族・聖職者優遇措置を設けるように見せかけて、長期的には貴族・聖職者の力を弱めて平民・農奴の権利拡大を担うものだ。


「短期的で影響力のある改革が実行に移せない場合に、王族関係者を中心に国家の改革を行うべく企画されたものです。短期的に見ればデメリットのようで長期的にはメリットを発揮し、改革を実行させるためのプラン……通称”海豚いるかやいば”という暗号名(コードネーム)で進められていました」

「海豚の刃?それはどういうものだ?」

「国内における宣伝工作ですよ。それも他の者に気づかれないように諜報機関を中心とした工作員を使い、草の根運動を広げて一般庶民に改革への理解を深めさせるというもので、国民の大多数に改革に反対する貴族・聖職者によって王の政治が妨げられていると訴えるものです」

「しかし、それでは反改革派の貴族・聖職者から反発は必須だぞ」

「ええ、そこが狙いです。国王が市民の生活の擁立を確約させてから庶民の不満を一気に反改革派の貴族・聖職者に対してぶつけた上で、大義名分の元で粛清させる事が目的ですから」

「!?」


ヨーゼフ2世は驚いた様子で俺を見ている。

早い話が”海豚の刃”という計画では改革に反対している貴族・聖職者連中には、表向きは協調しつつも裏で宣伝工作を徹底させて庶民による包囲網を形成させようとしているからだ。


勿論、史実で革命が発生した経緯を考えれば、反改革派の貴族・聖職者側の反発で改革がとん挫しているので、そうなる前に庶民に改革が出来ないのは反改革派の貴族・聖職者による許し難い妨害によるものだと宣伝工作を行うのだ。


メディアや大学などで啓蒙主義に浸っている若い連中を中心に、国内の改革を進めようとしている国王が妨害によって庶民や農奴の地位・生活の向上が阻まれていると謳えば国民の大部分は国王を支持し、反対に反改革派の貴族・聖職者連中を恨むだろう。


その恨みを利用して()()()時期を境に、一気に反改革派の貴族・聖職者連中の一掃を行うというものだ。

ある時期というのは、ラキ火山の噴火による大規模な気候変動時を狙うつもりであった。


「この計画を発動させるタイミングとしては、全国で大規模な飢饉が起きているタイミングで起こすべきでしょう。その際に王族関係者は質素な食事を取ることが求められます。反対に、反改革派には小麦や果物など贅沢な食事を与えていればいいのです」

「……つまり、王族が庶民の苦難を共に歩んでいる時にも拘らず、反改革派はこれに従わないばかりか贅沢三昧の暮らしをしていたと触れ回るわけか……」

「その通りです。新聞社などを使うのが特に効果的です。私はそうした情報をマスメディアと呼んでいるのですが、これらを通じて識字を理解している者に伝え、文字が読めない人でも会話によって広げるのです。そうした情報というのはいつしか拡大していき、やがては国王を支持する者達で溢れていき、反改革派は折れていくでしょう。勿論、支持者を納得させる政治手腕も必要になりますがね」


マスメディアの活用はいつの時代も同じだ。

日本でも戦前から新聞の世論というものが強く政治に影響を及ぼした結果、世論に後押しされた軍部によって米国との開戦に踏み切ったのだ。

マスメディアの影響は甘く見てはいけない。


逆に言ってしまえば、マスメディアのからくりさえ分かれば強力な味方となるのだ。

各個人がインターネットなどの情報媒体を持つようになる20世紀後半になるまでは、新聞や公布人が一番の影響力を持つ宣伝機関となるのだから。

メディアを掌握した者が国の最高権限を握る。

その事を説明すると、ヨーゼフ2世の額から汗が浮かび上がってくる。

汗をハンカチで拭いてヨーゼフ2世は尋ねる。


「……その、海豚の刃というのは貴殿が考案したのか?」

「ええ、私が考案しました。勿論、色々と調べたりはしましたが……」

「そうか……いやはや、貴殿は俺より10歳以上も若いのにそこまで頭が回るとはな……本当にフランスと同盟を結んで大正解だった」


”フランスと同盟を結んで大正解だった”

ヨーゼフ2世の恐らく本心だろう。

俺自身も、国家経営シミュレーションゲームでこうした事を学んだんだけどね。

君主論などを読み返してから、国家の掌握なども理解すると尚更国家運営というものは難しいものだとつくづく思う。

それからしばらく海豚の刃について話し合い、ヨーゼフ2世はオーストリアにおける改革は海豚の刃を参考に行う事にしたようであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「ハッ」ってどういうこと何でしょうか?立場としては対等なはずなのになぜ下手に出るんでしょうか?このままだといつか外交で失敗しそうだなー
[良い点] 新聞統制も知らないお馬鹿
[気になる点] 主人公フランス国王ですよね…?同盟国の国王相手に「ハッ」なんて軍人みたいな言葉使うのかな
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