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962:仙台の戦い(中)

和賀善左衛門が決起を起こすことが出来たのは、彼の父親による影響力もさることながら、彼自身が熱心な地域愛を持っていたことが起因している。

奥六郡にある寺院のみならず神社にも多額の寄付金を送っており、これらの宗教関係者から絶大な支持を得ていたのだ。


彼は父を通じて奥六郡の寺院や神社の住職や神主に事情を説明し、来るべき日が来た際には盛岡城にて決起を起こし、和賀善左衛門の手引きを使って盛岡城を乗っ取る算段を建てた。

謹慎を解かれた和賀善左衛門は実家に戻り、父に計画の旨を伝える。


「父上……兄上の件もありますが、今の鉄門組は大局を見ておりません……このままではいずれ幕府軍に呑まれてしまうでしょう……」

「やはりか……善左衛門も知っていると思うが奥六郡にも兵士の徴用を促す御触書が来ているのじゃ。畑仕事しかしていない農民に銃を持たせたとしても、欧州の武器や兵器で武装している新鋭の軍隊が出てくれば、余程戦術が上手く出来なけりゃ負けるな……」

「では……今こそ立ち上がりますか?」

「いや、今はまずい。まだ兵力を確保しとらん。お前がしっかりと寺院や神社に寄付をしてくれたお陰で、彼らも決起に賛同するように手筈を整えている。仮にやるとしたら盛岡城の守備兵力が必要最小限の150人を下回った時、それから若松城が陥落する時を見計らって行うのじゃ」


この時の盛岡城は、従来よりも守備兵力が少なく、多くの兵士が公武幕府軍との戦闘のために仙台や若松方面に南下を開始していた時期でもあったのだ。

そのため、鉄門組の戦況が悪化して敗色濃厚になった頃合いを見計らって背後からの一撃を加える作戦となったのである。


1795年10月1日に阿武隈半蔵が若松城で戦死したとの第一報を受けた和賀善左衛門の行動は早かった。

戦死の報が誤報ではないことを確認すると、彼は馬を駆けて真っ先に奥六郡の実家に戻り、父に戦況が悪化して若松城が陥落した事と、阿武隈半蔵が戦死した事を告げた。


「父上!若松城が陥落し、阿武隈半蔵様が討死なさいました……」

「阿武隈半蔵様が……そうか、いよいよ時は来たようじゃな。善左衛門、これより鉄門組への決起を起こす。失敗すれば我ら一族郎党処刑されるかもしれぬが、それでも覚悟の上じゃな?」

「はい、阿武隈半蔵様亡き今……鉄門組の理念も形骸化しております。このまま腐っていくよりもバッサリと切り落としてしまったほうが世の為かと……」

「……よしっ、これより盛岡城を占領するぞ……決起に参加する者達を集めてまいろうか……」


すぐに父と共に寺院や神社関係者を集めて決起への賛同者を募り、奥六郡の同士や僧兵など述べ1500名が連名を連ねて決起を起こしたのである。

これは事前の根回しがあったとはいえ、一週間で作業を完了させた和賀善左衛門は幕府軍に捕らえられた際に切腹も覚悟の上で全責任は自分にあると言いながら決起賛同者にこう宣言した。


『鉄門組に未来なし、阿武隈半蔵様もすでに戦死なされた。このままでは徹底的に破壊された奥六郡や盛岡で幕府への反乱者という汚名を延々と言われる日々を過ごすよりも……鉄門組への反旗を示し、我々の正義を鉄門組、幕府軍双方に見せつけるのだ!』


鉄門組の税の徴収が悪化していることは誰の目からみても明白であった。

浅間山大噴火の際に税の徴税を見直し、必要最低限の税のみを取り入れるようにした最初期の鉄門組はもう居ないのだ。

戦費の捻出ができなくなり、やり繰りすらも幕府時代の藩に残されていた金銀などを使っていたが、既に都市部では底をつきかけていたのだ。


その裏を突くようにして起こったのが『盛岡の変』であった。

10月4日の深夜……。

火縄銃150挺、日本刀500本、そのほか竹槍や鎌などで武装した決起軍は盛岡城付近にたどり着いた。

これらの火縄銃は元々奥六郡の村々で管理されていたものであり、猪や熊などの害獣対策などで使われることが許された狩猟用の火縄銃であった。


各村で届出さえあれば所持が認められる認可制であったことも相まって、奥六郡では鉄門組の支配体制下になると猪や熊などを狩猟目的で狩る風習が出来上がったのである。

さらに城内などから放出された火縄銃などを買いあさっていたことも相まって、奥六郡は盛岡周辺では相応の銃を保有している地域コミュニティでもあったのだ。


そして和賀善左衛門は戦に参加した事のある者達を選び抜いてから、手勢100名を正々堂々と盛岡城に入城したのだ。

1500人が同時に入るのは流石に不自然だ。

武家の中でも多くの兵士が入るにしても善左衛門では100名が限界であった。

鉄門組幹部ということもあり最初の部隊は難なく通過したが、後続の者達が入ってくるにつれて門番の顔は険しくなる。


「おい、ありゃ御坊様たちじゃねぇか……?」

「ホントだ、宗派は分からんが……僧兵を連れてくるなんて聞いた事がねぇや」

「にしても数が多いな……深夜に一体なぜこれほどの人を?」

「和賀様!彼らは一体何用でここに参られたのですか?!」


これらの人々は何事かと門番の足軽に言われた和賀善左衛門。

彼は何事もなかったかのように振る舞うように語った。


「若松城が間者の手によって陥落させられたかもしれぬ以上、兵士の数を増やして固めておくのが筋だろう。彼らは盛岡城を守るためにやってきた奥六郡の徴用兵だ」

「徴用兵……すると、彼らは盛岡城防衛のために?」

「そうだとも、盛岡城の守りを固めるために志願してくれたのだ。決して無碍なことはするな。それから……盛岡城内にて曲者が出た際には戦闘になるかもしれん。逃げようとする輩がいないように最後の一人が入り終えたら門を閉じよ」

「はっ……!」


若干の違和感を引きずりながらも、和賀善左衛門の言う通りに門番の兵士は言う通りに門を閉じた。

その閉じる音を合図に、和賀善左衛門の兵士たちは白色の鉢巻を頭に巻き付けて日本刀で武装した兵士たちが斬り込みを仕掛けたのである。

寝静まった城内にいるのは僅かな手勢と鉄門組の幹部であり城主の新庄三郎たちであった。

当直の者は、日本刀を抜刀してくる複数の兵士を見る間もなく、すぐに制圧されてしまったのだ。

これは深夜帯ということもあり、夜間見回りをしている者も限られた人数で行っていたことで反撃が出来る者がいなかったのである。


新庄三郎の寝ている部屋に押し掛けると、彼は女を抱いて酒を嗜んでいたのである。

突然襖が開かれて日本刀を持った武装集団が押し掛けたことで、彼は完全に混乱していたのだ。

無理もない。

本来ならすぐに警護の者が駆けつけるが、すでに警護をするべき兵士達は無力化されてしまったのだ。

こうなっては新庄三郎はどうすることも出来ないのだ。

和賀善左衛門が顔を出すと、新庄三郎は状況を悟り顔を真っ赤にして怒鳴った。


「和賀善左衛門!これはどういう事だ!」

「新庄三郎様……盛岡城を、いえ……故郷を守るためにご無礼を働きます。御免!」


日本刀を振りかざし、新庄三郎に斬りつける。

そして後続の兵士達も次々と日本刀で斬りかかったため、新庄三郎の上半身はズタズタに引き裂かれたのであった。

こうして、和賀善左衛門らは盛岡城を乗っ取ることに成功したのである。

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