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946:開戦

☆ ☆ ☆


1795年9月19日


フランス 国土管理局


トリアノン宮殿を改装して作り上げた国土管理局に赴いているが、ここでは多くの職員が大量の紙を抱えながら電文などを書き込んで現在の情勢を逐一書き込んでいる。

ヨーロッパ諸国でもフランスはライデン瓶通信だけでなく、旗振り信号や発光信号などを通じて情報の伝達速度に関してはかなり早くなっているほうだ。


「カリブ海方面はどうなっている?」

「はっ、8月15日にキューバにて漁船が北米複合産業共同体の私掠船に拿捕されて尋問を受けた事以外は、目立った動きはございません」

「私掠船か……その詳細を教えてもらえないだろうか?」

「はッ!……こちらに資料がございますのでそちらと照らし合わせてご説明致します」


職員が取ってきてくれたのは『カリブ海諸島状況1795』と書かれた報告書であった。

その資料をみながら職員が説明を行ってくれたのだ。

まず主な戦線はメキシコ方面ではあるが、カリブ海諸島沖でも北米複合産業共同体の私掠船による攻撃があったという報告が挙がっている。

私掠船は数では欧州協定機構加盟国の船が多いが、北米複合産業共同体でも小型~中型の船を増産しているため、その影響もあるだろう。


報告によればメキシコでの戦闘が始まってから数日後に、キューバ付近にて漁業をしていた地元のボートが私掠船から突如として攻撃を受け、乗っていたボートの漁師2名が一時捕らえられて、尋問を受けたという。

その際に、尋問を受けた漁師たちに対して『北米複合産業共同体は一か月以内に大艦隊を率いてキューバへの侵攻を行う』という旨を対面で話し、即日中に解放されたという。


一応漁師の人は無事だったとはいえ、至近距離から警告射撃を受けた上でボートに乗り込んできたということもあって、恐ろしい経験をしたとも語っている。

普通に考えれば私掠船の語っていた北米複合産業共同体の艦隊がキューバへの侵攻を行うという発言はブラフであり、あくまでも脅しの名目で行うことが予想されるが、戦争は何が起こるかわからない。


この時代であれば、漁師を拉致した上で殺害しても軍法裁判になったら【敵性国民が抵抗の意思を示したので殺害しました】と言えば御咎めなしだ。

それぐらいの時代に、あえて穏便な形で漁師を返したという事は、ほぼほぼパニックを誘発させてキューバでの危機を煽り、カリブ海諸島での制海権を確保することが目的なのだろう。

そうとしか思えない。


「漁師を捕まえて尋問したそうだが……暴力は振るわなかったのか?」

「尋問をした際に、髪の毛などを掴んだりはしたそうですが、外傷を負わせるような怪我まではさせていないとのことです」

「うーむ……キューバ方面に圧力をかけるつもりであれば、それは間違いではないな……こっちはスペインにとって中南米地域での収益の第三位を誇る地域だ……この地域が陥落すれば、我々フランスも安全にカリブ海の航海ができなくなる……そこを奴らは狙っているのかね?」

「恐らくそれが目的でしょう。フランスがカリブ海諸島での警戒を強めて、メキシコ方面への圧力をかけられないようにするためのブラフ……所謂陽動作戦なのかもしれません……」

「北米複合産業共同体としても、カリブ海諸島での制海権は何としてでも取りたいはずだ。TS-101級の輸送船団を増産してメキシコへの強襲上陸を敢行しようとしている節からして、制海権を確保したい狙いには間違いはないだろう……問題は、本当にこの地域を制圧するために大船団を率いて攻撃を行うかどうかだ……」

「カリブ海諸島の制海権は我々が確保しているのでメキシコ湾方面が心配ですね……ポーランドの増援部隊が到着すれば、心強いといえます」

「おお、ポーランドも参戦してくれているのだな……ありがたいことだ」


カリブ海諸島の制海権は欧州協定機構軍が確保している。

フランス海軍を主軸とした部隊が展開しており、各諸島にもスペインやポルトガル……さらにスウェーデンやポーランド軍も配備が進められている状況だ。


ポーランドはすでにプロイセン王国の傀儡国家から脱却し、独立国家としての地位を維持した上で今回参戦することが決まっている。

戦後賠償としてプロイセン王国から接収した複数の戦列艦で武装しており、これらの戦列艦は戦争中にスウェーデン軍の奇襲攻撃を受けて航行不能になっていた戦闘艦でもある。

この戦列艦を4隻、中型輸送艦12隻からなる船団を派遣し、述べ8千人の兵士を既にカリブ海諸島方面へと航海を続けている。


ポーランドの参戦はとてもありがたい。

ポーランドは独立が確保された代わりに、実質的にプロイセン王国の傀儡国家であったのをフランスが実権をクラクフ共和国政府に移管させた結果、ポーランドは立憲君主制を採用した共和制への移行が完了したのだ。


ポーランド国王は健在ではあるが、あくまでも象徴としての存在に置き換えられ、政治の実権を握るのは評議会であり、これらの評議会の割合は貴族1:聖職者1:平民2からなる議会政治を導入して運用が開始されているのだ。


これはフランス革命時の議会では貴族や聖職者が強い権限を持っていたせいで政治改革案が否決されることが多かった。

結果として、貴族や聖職者たちが案に否決をしまくることで、しびれを切らした平民議員がブチギレて革命政府への移行に進んでしまう要因を作ってしまった事も挙げられる。


それを防ぐために、平民議員の数が貴族や聖職者よりも割合を多く採用し、用意したのである。

ポーランドの場合は平民が議席数が貴族や聖職者の総数と同じであるため、彼らが拒否権を行使しても平民議員が賛成多数であれば議案は可決されるというものだ。


無論、何でもかんでも可決というわけではなく、法改正や評議会議長の解任に関しては全議員の3分の2の議席が必要であったりする。

これは日本などの衆議院での法改正対応を参考にポーランドに実施させた結果でもあるのだ。


まだまだ試験的な取り組みではあるが、これでヨーロッパ諸国での最初の議会制民主主義が取り入れられるようになれば、今後少しずつ変わっていくだろう。

国体が君主制から共和制にしたとしても、国王が象徴として存在することで国家の代表者が国民から選ばれた信任者になるという実例を作るためでもある。


もしフランスが共和制国家に移行する際には、フランス革命の時のような暴力的手段によって政権が転覆されるのではなく、国家元首たる国王が君臨すれど、統治せず……というイギリス式の統治方式になれば、国王の権威や威光も損なわれずに国内外に対して一定の力を発揮することができるのだ。


日本の天皇制も戦後になってから国家の象徴として憲法に明記されたが、国民から厚く信頼されていたこともあって天皇制に対して肯定的な意見を占める割合が高い。

いずれ、フランスもそれと戦後日本のような王族が国家の象徴として扱われるようになり政治の表舞台からいなくなっても、国内外での権威や国家を象徴する存在として君臨できれば、きっとうまくいくだろう。


北米複合産業共同体との戦争は、そうした今後のヨーロッパ諸国の行く末を決める戦いでもあるのだ。

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