902:台湾交易(下)
高砂族のスカウトは容易なものではなかった。
最初は攻められたと勘違いした彼らから矢を放たれたりもしたが、何度か交渉を行っていくうちに理解を示してくれた。
白兵戦の能力が高い彼らをスカウトした理由は、来るべきフランス本国が北米複合産業共同体との決戦に望むからだ。
オランプ総督は、高砂族などで編成された新規フランス山岳兵連隊の観兵式に参加した後、秘書官から本土からの直通便から連絡があったことを告げられる。
「総督、本土から高砂族などの先住民で構成された部隊を編成し、スペイン領のヌエバ・エスパーニャに輸送するようにとの指示がありました」
「それに関しては既に行っております、幸い高砂族などの先住民から延べ1500人程が参加することが決まりましたわ」
「よく彼らも承諾してくれましたね……主戦場が中南米地域になる故にリスクも高いですが……」
「むしろ、この熱帯の気候である地域で住み慣れている上に、彼らは単独でも戦闘を得意とする人達ですからね……彼らの文化や風習などを尊重させた上で、志願兵を募りましたから」
志願兵の多くが18歳から30歳の若い世代であった。
彼らの多くが外の世界を見てみたいという好奇心と、戦場で戦って男を磨き上げるという武勲を建てることを目標としていたのだ。
一人あたり50リーブルの前金と、村にも協力金を支給して安全な飲料水が飲めるように井戸を設置したり、医薬品や食料品などと交換して暮らしに困らないように支援を行った。
中には協力を拒否した集落や部族もいたが、彼らの意見を尊重してその集落や部族への嫌がらせ行為などは絶対にしないように厳命したのだ。
何故ならそれはルイ16世からの命令であり、相手との尊重を思いやることが異文化交流をする上で重要であると書かれていたからである。
「自分達のテリトリーを侵害せず、またそれに見合った報酬を渡すことを確約したことも大きいでしょうね……」
「しかし、国王陛下はよく高砂族の事もお調べになられておりましたね」
「ええ……国王陛下からの書簡に書いてありましたからね、どこで情報を仕入れていたのかは謎ですが……古くからあった書物から得たのでしょうかね?」
「サルマナザールの台湾誌ではないことは確かですな」
「ええ、あれだって全部出鱈目な話でも本人がアドリブで乗り切っていたのよ?それでも陛下の情報に関しては正確性においては本当に恐ろしい程に当たっていますわね……」
「例の国土管理局が調べたのかもしれませんね」
「ええ、国土の地理や地形の情報収集だけでなく、政治的な情報を集めているとされている情報局でもありますからね……ただ、国土管理局についてはあまり表立って言わない事ですよ。無暗に話をすればどこで耳があるかわかりませんからね」
「そうでしたね……以後気を付けます」
会話の中でオランプが指摘した「台湾誌」とは、百年近く前にフランス人が台湾に住んでいたと嘘をついて成りすましていた実在した詐欺師の話である。
このサルマナザールという人物は自身の考えた台湾に関して「独自の言語」や「文化や風習」までも矛盾が生じないようにアドリブで演じ切るというハッタリをかますのが上手い人物であったことから、長らく嘘であることが分からなかったとされている。
しかも、彼はそのアドリブを活かして「台湾人」であると詐称してオックスフォード大学にて教鞭を振るう地位にまで成り上がる上に、学生や他の学者から怪しまれても話術や発表済みの台湾誌からの論文から直ぐに反論をしたため、しばらく嘘と見抜けなかったのだ。
無論、こうした嘘でも東洋学などを研究しに行っている専門家と対面すればバレてしまうものであり、イエスズ会やニュートンも彼の発言や内容を疑問視しており、台湾誌を発表して7年後には嘘と見抜いた学者に問い詰められて白状したのである。
これが歴史的にも有名な偽書であり、怪文書であり、7年ちかく人々を騙し続けたことが出来たサルマナザールの才能でもあったのだ。
そんなサルマナザールの広めた台湾誌は19世紀に入っても偽書であるにも関わらず東洋人の行動などを「大体はこんな感じだったんじゃないか?」とする人々の意識に埋め込んでしまうことに半分成功してしまっているため、当時の東洋人に対するイメージなども彼の空想などの一部から受け継いでしまった部分もあると言われている。
しかし、今回は違う。
ルイ16世が直々に高砂族などの台湾の先住民の中に戦闘を得意とする者達がいることを文書で記載しており、彼らを味方につけて説得し、2月までに最大1500名ほどの先住民から構成された密林戦闘に特化した山岳部隊の輸送を依頼してきたのだ。
最初は国王陛下いえど、この事をなぜ考えているのか疑問視していたオランプであったが、その真意が中南米地域における北米複合産業共同体との戦争を意識してのことであり、スペインやポルトガルの植民地を奪い取ろうとする北米複合産業共同体への牽制も兼ねて執り行うことだと知り、台湾でも山岳地帯にある密林地域で生活をしている先住民の多くが、戦闘なども優れていることを知っていたのだ。
そして各地で志願兵を招集することを目標としており、特に中南米地域の密林戦闘を想定親した際に、台湾先住民の中でも密林戦闘を得意とする彼らの能力を見出したのだ。
これを見出したのは他でもないルイ16世であり、彼が前世の記憶で日本統治時代において高砂族などの台湾先住民からなる兵士達の南方戦線での戦いが有名であったことを知っていたからだ。
この時代においても、彼らの戦闘能力は卓越しており、自給自足などをしながら密林で暮らすことに長けていた事も相まって戦闘のプロフェッショナルであった。
一時期は台湾に入植した清王朝の人間の集落を襲撃して、首を狩っていく……という光景も見られたこともあったが、それは過去の話である。
根気よく彼らを説得した結果、テリトリーを侵害しないことを条件に、複数人の若者を戦闘員として出すことを承諾してくれたのである。
「高砂族などをはじめとした複数の部族や集落が納得をしてくれて最大目標の人数を達成できたのは喜ばしいことですね」
「陛下は最低でも30名程度集まれば有り難いと書いてありましたが、ここまで志願兵が来るとは予想外でしたわね……」
「意外にも外の世界に憧れを抱いている若者が多いという事でもありますね」
「そうですね、それに……彼らとて同じ人間であり、一部の差別主義者が言うような野人などではありませんからね。独自の文化を持ち、それを尊重することが異文化交流に必要な事なのですから」
見返りとして、酒や肉などの嗜好品であったり、彼らが儀式的に行っているものなどを妨害しないことを条件に、フランス軍台湾先住民部隊として編成することが決定されたのである。
この部隊編成は全軍からみたら小規模かもしれないが、中南米地域における密林地帯での戦闘においては欠かせない存在となるのである。
オランプ総督の手腕によって台湾の先住民で構成された「青龍山岳連隊」は、2月3日に青龍を出航し、スペイン領であるメキシコへと旅立つのであった。




