55:最愛王崩御
今日は何となく2連続投稿をしたい気分なのでお昼に初投稿です。
ルイ15世が崩御した。
崩御の合図は、次の新しい王の誕生の瞬間でもある。
ルイ15世陛下崩御に伴い、自動的に王権が俺に移った。
名実ともにこれからは王太子殿下ではなく国王陛下と呼ばれるようになるだろう。
宮殿内は慌ただしく動き始めている。
「各地の公示人に知らせよ。国王陛下崩御、新たに王太子殿下が国王陛下に即位したと」
「葬儀の手配はいかがいたしましょうか?」
「まだ清めと死者への弔いを行わなければならない。それにどんなに早くても来年の1月5日までは埋葬してはならぬと司祭様が申しておられた……」
「なぜですか?」
「カトリック教会曰く、人員やら大聖職者を呼んで国葬の準備を行わなければならないとのことらしいが……それにしても二週間近くはどこにご遺体を安置すればよいのやら……」
ルイ15世の遺体は現在王の寝室に安置されているが、近いうちに別の場所に運ばれるだろう。
昨日会ったときには既に腐臭が漂っていたので臭いの問題もあるが、これから棺などを調達して亡骸を安置してくれる教会を探さなくてはならないし、俺も国葬に参加しなければならない。
この転生したルイ・オーギュストとは祖父の関係だからだ。
彼に世話になった人間として、葬儀ぐらいはしっかりとやるべきだよね。
(ルイ15世の国葬か……どのぐらいの規模になる事やら……)
豪華絢爛な棺や馬車を使ってサン=ドニ大聖堂に向かう計画らしいが、あまり大々的にやると国民が反発する恐れがある。
というのも、ルイ15世の経済政策や軍事手腕がめっぽう駄目だったこともあって、国民からは疎まれているんだ。
某フランス革命漫画とかでも「国費を湯水の如く使っていた国王が死んだ!やったぜ!」みたいなノリで書かれているぐらいだし。
国民からの評価は正直言ってあまりよろしくないのが現状である。
だから国葬はするけど、その分質素倹約でいこうと思う。
究極の葬儀費節減として以前テレビで取り上げられていた発泡スチロール製の棺にして氷を敷き詰めれば水産品みたいな輸送方法になるかもしれないが、流石にそんな事はできないし第一発泡スチロールはまだ発明すらしていないものだ。
そこまではケチりませんよ。
というか、発泡スチロール製の棺桶とか燃やした時にダイオキシンが出て有害物質だらけになると思うんだけどね……。
「大聖堂で国葬を行うにしても、予め参列者のリストを組んでおく必要があるな……」
葬儀の参列者リストを作り、ルイ15世と関りの深かった人を中心に行う感じでいいかな。
国葬だけど参加は自由って方式でいいと思うの。
あとはフランス全土で来年の1月15日までは喪に服す。
サン=ドニ大聖堂には現在デュ・バリー夫人が埋葬されている。
彼女の墓の隣にルイ15世を埋葬するように指示は出してある。
せめて、命を守って亡くなった夫人の隣に埋葬したほうがルイ15世も心残りは少なくなるだろうと思ったからだ。
修道院に収監されているヴィクトワールとソフィーにも国王の死は伝えるように命じた。
一応は親子だし、それにせめてもの慰めというかルイ15世の髪の毛をちょいと切ってから小さい箱に詰めて渡すように指示を出した。
今日ぐらいには届いているんじゃないかな。
叔母上として、そして彼女とはもう二度とかかわる事がないだろうからこれが最後の孝行だろう。
形見として大事に取っておいてね。
遺体も、冬場だから腐敗を起こしにくいかもしれないが、死臭が漏れないように棺は頑丈なものを使うように指示を出してある。
割とあの臭いはキツイ……。
臭いが外に漏れないようにしているけど、既に部屋に臭いが染みついているようなので、壁紙の張替もしなければならないだろう。
最愛王ルイ15世…永遠の眠りにつく……。
実の娘に襲撃され、その時に出来た傷によって病気が誘発されて死亡したと歴史書に記されるだろうね。
『フランスの未来を頼んだぞ……』
フランスの未来。
ルイ15世が俺たちに語っていた遺言。
そう、これから起こるかもしれない革命を全力で阻止するために行動をしなければならない。
アントワネットと幸せに暮らす為に必要なこと。
未来への展望……。
それを実行に移すために準備を進めてきた。
既に政敵になり得る人物の大半を追放したりしているので、大方問題はない。
気を付ける点といえば、英国やプロイセン王国からの干渉行為だろうか。
史実ではフランス革命の起こった原因というのが、啓蒙思想を発展させた社会主義思想がパリの知識階級者に広がっていたのと、全国的に農作物が不足だったことから食糧危機による混乱とそれに便乗した革命家達による一種のテロリズムによってもたらされた。
当初、民衆は革命を歓迎して既存の政治体制の打破と階級を通さずに行える社会秩序を受け入れてフランス革命を起こす。
しかし、このフランス革命は革命側からしてみれば成功かもしれないが、国家戦略を語る上では失敗だったと断言しなければいけない。
何故か?
それはルイ16世やアントワネット妃など国家元首や王党派の者達が弁論を与えられずに革命側の都合のいい裁判で死刑判決が下されて処刑されただけでなく、無実の学者や貴族・果ては一般市民までもが革命にとって脅威と見なされて、裁判では否決せずに有罪が横行した。
その為刑務所内では革命派の監守による私刑で命を落とした者、暴徒化した民衆に見せしめの為に晒されて性的暴行などを受けた上で無残な死を遂げた女性もいる。
そうした経緯もあってかフランスの国歌である「ラ・マルセイエーズ」はそうした血で塗られた革命を美化し賛歌されたものだ。
国王であるルイ16世を処刑したことを賛美し、あまりにも歌詞が物騒過ぎて内容がえげつないのでスポーツ大会などでフランスの国歌斉唱時にも歌わない選手がいる程だ。
その為歌詞改変運動が起きるぐらいに有名である。
歌詞を作った人には、もうちょっとマイルドなものが出来なかったのかと思いたい。
滅茶苦茶好戦的な国歌になってしまったじゃないか……。
フランス革命のあと……フランスはナポレオンの手腕によって「結果的」に持ち直した。
もしナポレオンが現れなかったらフランス国内の政治体制はぐちゃぐちゃになって内戦に発展し、混乱に乗じてベルギーやスペイン、プロイセンによって分割統治されていたかもしれない。
それだけに革命というものは善悪を判断せずに何でもかんでも罪に決めつけて殺してしまうという恐ろしい効果を孕んでいるんだ。
(仮に革命勢力が英国やプロイセンから干渉されてきたとしたらマズイことになりそうだな…周辺国との貿易も大事だけど、革命だけはやっちゃダメだ)
革命をされるぐらいなら大規模な改革を行って国民の支持を得る事が先決だ。
そうすれば最悪、貴族や聖職者が反乱を起こしても国民の支持を受けている俺たちが鎮圧のための正当化を行う事が出来る。
資金面が整い次第、そうした軍事面も整備を進めて行かないとね。
「さて、やる事だらけだ……これからが忙しくなるぞ……」
これからが正念場だ。
新たに国王として任を受けた俺は様々な課題に着手することになる。




