46:醒めちまったこのパリに…
YOKOHAMAに行った際には必ず中華街で炒飯とギョーザと青島ビールを飲食するので初投稿です
☆ ☆ ☆
「アントワネット~もうすぐ時間切れになるよ~」
「えっ?!ちょ、ちょっとだけ待って頂けますかオーギュスト様!」
「う~ん、どうしようかなぁ~?」
「こっ、この部分をゆっくりと動かせば……」
「ふふふ、バランスが良ければ成功するよ!やってごらん」
「い、行きますわ……」
ーガラガラガラ!!!
「あっ……崩れてしまいましたわ……」
「よし、これで9勝1敗だね!!!」
「オーギュスト様が強すぎますわ!この”積み木組み立て重ねゲーム”はハラハラドキドキしますわ!」
「うんうん、ちょうど工芸品とか作っている人に試作品を作ってもらったんだけど、中々良く出来ているね」
「これでしたら貴族だけでなく庶民の方々にも楽しんで頂けるゲームになりそうですね!」
夕飯後のささやかなひと時をアントワネットと一緒に楽しんでいた。
それは某パーティーゲームとしてロングセラー商品となった棒状の積み木を抜き取って、ドンドンと上に積み上げていく商品を作って貰ったんだ。
試作品を作って欲しいと、パリ市内の木製品を作っている製造工房に依頼すると速攻で納品してもらえたよ……。
というのも、王太子様の依頼であればと職人たちが全力で作ってくれたからだ。
期間1週間の所を、僅か3日間で……しかも完璧にヤスリや装飾などを施された状態で丁寧に細かく作ってくれたオーダーメイド品です。
装飾といっても、フランス中の街の名前を彫ったものなんだけど、それがまた凄い事に文字とかも綺麗に彫っているんだよね。
この時代の彫刻家というのは、貴族や聖職者から仕事を請け負うことがかなりの名誉とされてきた時代ということもあって、俺が注文した所がパリ市内の工房だったものだから職人総出で作ってくれたというわけ。
それでもって、この”積み木組み立て重ねゲーム”の木材ブロックを遊具として普及すれば少しばかりは国の国庫に溜まればいいな~と考えている。
無論、特許出願は出しているので特許申請が通ったら売るつもりだ。
そんでもって売れた分のお金は孤児院などに寄付したり、道路の整備に使ったりと公共の場に使う。
おお、これはWIN-WINな計画になりそうだ!
ーコン、コン、コン……。
アントワネットと盛り上がっていると、居室のドアがノックされる。
そろそろ時刻は夜の10時ぐらいだ。
この時間帯に連絡があるとなれば蝋燭交換か、それとも別の要件だろう。
念のため、要件を聞いておこう。
デュ・バリー夫人が暗殺されて以来、必ず王室関係者の居室に尋ねる際にはノックをし、所属と名前を言うようにする決まりが出来ているのだ。
「どうした?」
「夜分遅くに失礼いたします。王太子殿下、調査班のアンソニーとボーマルシェです。配達の件で報告しに参りました」
「配達の件か……よし、入っていいぞ」
部屋に入ってきたのは若々しい青年アンソニー君と、技術者であり、実業家であり、そして演劇家としても有名なカロン・ド・ボーマルシェ氏だ。
で、なぜ二人が国土管理局にいるのかというとだ……。
実はルイ15世も諜報機関「スクレ・ドゥ・ロワ」を作っていて、ルイ15世が容態の悪化を受けてスクレ・ドゥ・ロワにいた職員の大部分を国土管理局に移籍させたというわけだ。
このスクレ・ドゥ・ロワというのは「王の秘密機関」という秘密を言いふらしているような名前だったので、最初知った時は直球ネーミングセンスで食べていたパンを噴きかけてしまう寸前になったほどだ。
ちなみにこの諜報機関には、かの性別不詳で有名な諜報員……シュヴァリエ・デオン氏も在籍しているのだ。
といってもデオン氏はロンドンにあるフランス大使から嫌がらせ行為を受けた上に毒を盛られそうになったと訴えてまだイギリスから帰国していないけどね。
フランスに帰ってきたらしっかり出迎えておこう。
色々と彼、いや彼女とは話をしてみたいからね。
スパイの活動内容とか凄く気になるし。
でだ、カロン・ド・ボーマルシェ氏はルイ15世やアデライード達から大層気に入られていたが、アデライードがデュ・バリー夫人を殺した挙句、ルイ15世に重症を負わせた事で三ヶ月ほど心身的な休養が必要と診断されて自宅療養を終えて復帰してもらったばかりだ。
ボーマルシェ氏は時間の進み具合が正確な時計を20代前半で発明したりするなど、彼には多彩な才能があることで有名だ。
諜報活動もやっているので、現在の国土管理局の諜報活動などはボーマルシェ氏などの意見を参考に密かに、それでいて着実に行われているんだ。
そして今、配達の件……フィリップ2世失脚の為のプロセスが完了したことを告げる内容でもあった。
小トリアノン宮殿はまだ大丈夫だが、この部屋の防諜がいつも完璧であるという保障は無いのだ。
なので、誰かに聞かれてもいいように隠語を交えながら会話をする。
アンソニー君とボーマルシェ氏の二人を部屋に招き入れて内容を詳しく聞く。
「この遅くに配達の件が来たという事は……手筈は整ったという事かね?」
「はい、配達の荷物は無事に受け取ってくれたようです。あとは殿下からのご承認を頂ければ万事手筈通りに荷物の開封準備を致します」
「そうだねぇ……あの荷物を受け取った相手はどんな顔をしていた?アンソニー君」
「はっ、嬉しそうに荷物を受け取っておりました。クリスマスプレゼントを手に取る子供のようでした」
「成程ね……ボーマルシェ氏、クリスマスには少しばかり早いけど開封するようにお願いするよ」
「かしこまりました」
「それからアンソニー君、荷物の運搬……ご苦労様です。君のお陰でこちらは大助かりしています、ありがとう」
「いえ、こちらこそ殿下のお役に立てて何よりでございます!」
深々と二人は頭を下げる。
荷物……偽の改革案をフィリップ2世の部下に渡してくれたようだ。
フィリップ2世さんよぉ……農奴やユダヤ人の事を卑しい身分扱いしたのは良くなかったな。
あとさらっと国王陛下侮辱していたしな。
というか、改革を潰すために色々と根回し工作しているのはこちらでも知っているんですよ?
アントワネットが傍にいるから口に出さないけど、史実で彼女の悪口ばかり言い放ち、それでいて奥さんほったらかして愛人に入り浸っているような人にはお仕置きが必要ですね。
さぁ……反改革派貴族解体ショーの幕開けだぜ……。
俺はフィリップ2世やオルレアン公など反改革派に一先ず激震の意味を込めて釘をさす。
その釘は大きくて重いものだ。
これで彼らもその身を代償に理解してくれるといいけどね。
二人が居室から去った後、アントワネットは少し心配そうに俺を見てきた。
「どうしたんだいアントワネット?」
「オーギュスト様、その……明日のパリ市内の天気はどうなるのでしょうか?」
「……そうだねぇ……少し荒れそうだね。でも荒れるのは一時的だろう。すぐに治まるよ、大丈夫。彼らは万全の体制で臨んでいるよ」
「そうですか……でも、少し荒れるのは怖いですね……」
「おいで、アントワネット……今日は少し早めに寝よう」
「……はい!」
アントワネットも事情を察してか不安になったのだろう。
俺はアントワネットと一緒にベッドの中に潜り込む。
蝋燭の火が部屋を照らしている中で、アントワネットの身体の温もりを感じながら、国土管理局として初の大規模な作戦の報告を待つことにしたのであった。
吉報期待して待ってるぜ!
そうさ…俺は…転生者…誰かがそう教えてくれた…




