40:共同作業って楽しいよね
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1770年9月2日
二度寝したけどおはよう。
早速だが、今日は文明の夜明けを感じる朝となっている。
あぁ~文明の音が鳴ってくるぞ~!!!!
何と言ってもワット氏が開発した蒸気機関のサンプルモデルがパリに到着したんだ!
一応これは英国から直輸入した訳で、その…思ったよりも費用がかさんでしまったんだ。
去年の最新モデルだしね。
入手方法には思いのほか手こずったし、禁断の骨董品トレードをしまくってようやくゲットした代物だ。
でもこれはあくまでも研究用として活用する予定だ。
いきなり実践しろと言われてもまだまだフランスには技術者がいない。
科学者を中心とした技術者の呼び込みを行ってはいるけど、それでも人手が足りていないのが現状だ。
なるべくイギリスと肩を並べるぐらいには産業の基盤を整えておきたいんだ。
基礎をしっかりしておかないとぐらついて倒れてしまっては元も子もない。
というわけで、こうした蒸気機関を使ってフランスが産業革命の波に乗り遅れないようにするぞ。
特に、こうした工業化に伴う産業社会というのは莫大な資金が必要になってくる。
初期投資がそれまでの人力のコストより高くなってしまうので、コストが人力よりも低いことを証明しなければならない。
うーむ、ゲームのようにアイテムや青写真を設置して終わりというわけにはいかないのだ。
大事な時期に革命ばかり起きてしまった事でフランスは欧州でも工業化に遅れ気味だった。
そうした経緯を踏まえても、工業化とそれに伴うインフラ整備は欠かせない。
インフラが整備されていない場所だと運搬に時間もかかるし、何よりも人の通りが制限されてしまう。
そうなってせっかく工業化に成功してもインフラの設備投資が上手く行かないと話にならない。
両方とも内政の基本中の基本ともいえる作業だ。
ふふふ、最近はアントワネットと一緒に作業しているからむしろ楽しいぞ、コレ。
「オーギュスト様、何やらご機嫌ですね」
「あ、やっぱり分かった?」
「ええ、顔に出ておりますよ」
「そうだね……やっぱりアントワネットと一緒に作業しているのが楽しいからつい顔に出てしまうんだ」
「まぁ!私もオーギュスト様と一緒にいると楽しいですよ!」
「おほぉ~!!!嬉しいねぇ!それじゃあこれからドゥンドゥン頑張ろうか!」
「はい!」
「それじゃあ、そっちは何か変えるべき箇所があったら教えてね」
「お任せください!」
ヴェルサイユ宮殿のすぐそばに設置された施設整備課でアントワネットと一緒に行っているのはヴェルサイユ宮殿で新設する手洗い場とトイレ、そして風呂場の見取り図作成だ。
なんでそんなことをしているのかといえば、やはり圧倒的にヴェルサイユ宮殿にトイレが足りていないのが原因なの。
やっぱり今だに中庭の茂みとかに糞尿を捨てちゃう人が多すぎるんだよなぁ……。
その前にトイレの数が少なすぎる、4000人以上が働いている宮殿内だけどここでは王室や大貴族しかトイレを使用できないのだ!
なのでどうしてもトイレに行きたくなったら人のいない物陰でするしかないんだ。
転生して以来、それってどうなのよって思っていたわけ。
働いている人だって男性も女性もいるわけだしね、特に女性のことを考えればトイレの設備は至急に行わないといけないんだ。
なによりも今だに宮殿内でも近くの庭に行けば臭いキツイし。
なのでこの際思い切って宮殿内の衛生環境向上と、労働意欲向上のためにトイレを中心的に手洗い場と風呂場を大規模に増設する事に決めたんだ。
「……で、これは決められた予算内で出来るのかい?」
「はい、これだけの資金があれば大丈夫です」
「そうか……では、予算編成はこのぐらいにしておこうか」
「仰せの通りに……」
施設整備課の課長さんと話し合いを行った結果、費用は幸いにも予算で賄える金額だった。
そしてしっかりと耐久性に優れている便器や浴槽などを購入予定だ。
移動式か設置式かで悩んだが、やはりここは思い切って設置式にしようという事になった。
現在は木の板で塞いだ間に合わせの仮設便所をヴェルサイユ宮殿にいくつか設置しているけど、それでも間に合っていない状態だ。
移動式は利便性が高い代わりに、容器の中に収納できる量がどうしても制限されてしまっている。
おまけに移動式トイレを誤って横転させた暁には異臭まみれになるだろう。
それにだ……。
最初はアントワネットを参加させるつもりはなかったんだが、お風呂の増設工事などをする予定だと伝えると、本人が飛びついて来たんだ。
浴槽を大きなものにしたり、入浴の風習や衛生改善の大切さを身近にしてもらうためだと説明すると、是非とも一緒に作業をしたいと申し出て来たんだ。
博打やら夜遊びするよりはずっといいし、どんな形であれ宮殿内の環境を良くしようとする心意気は大事だよね。
まずは身近な所から、それからどんどんと外に向けていく感じで改革をしていこう。
今日と明日の午前中の作業はヴェルサイユ宮殿の改築案を纏める予定だ。
ざっと試算した結果、合計して約15万リーブルぐらいになるらしい。
宮殿内の改築とはいえ、豪華絢爛な壁画を描くわけじゃないのでこのぐらいの値段で済んだようだ。
あと疑似農村集落「ル・アモー・ドゥ・ラ・レーヌ」も建設するが、これは王立農園実験場として機能するように衛生的に良い状態で1773年までには稼働させる予定でもある。
全部まとめて作ったほうが建設費用もいくらかは安くなるからいいね。
ちなみにリーブルとはフランスで現在流通している通貨のことであり、現代の資産価値で1リーブルが約5千円前後にあたるのだ。
これを現代の日本円に換算すると改築費用に約7億5千万円か……。
ま、まぁ悪臭の源を取り除く費用と思えば安い物だ。
よくわからない芸術品や競馬や博打につぎ込むよりは遥かに健全だ。
あと浴槽だが……。
どちらかといえば大人数で入れる浴場を作る予定だ。
身分問わず宮殿に仕えている人達がリラックスできる場を設ける、意欲向上や意見交換の場として利用すると思えばいい。
俺やアントワネットを支えてくれている人達の福利厚生も兼ねてやっちゃうぞ!
勿論、この改築事業は人々への福利厚生とパリ市内にも公衆トイレなどを普及させるためのデモンストレーションも兼ねた公共事業としてやってもらう。
ゆくゆくは工場や産業などの基礎を作る際にも公共事業として労働者を多く活用していけたらいいかなと考えている。
あ、ちなみにトイレや浴場での不純異性交遊は禁止なのでそこのところだけは守ってもらいたいものだ。
発展場じゃないからな、マジで。
この間も資料室で男女が不純異性交遊していたみたいだから関係者を厳重注意処分にしておいたわ。
二度目は無いよ!
ここで、後ろにいた随行員の人から午前11時になったとの知らせが入った。
「王太子様、あと1時間後に昼食となります」
「あれ、もうそんな時間か……ではまた時間になったらよろしくね」
「かしこまりました……」
ここでの作業が終わったら、昼食を挟んで午後には大貴族との会合がある。
大貴族か……やはり農奴制廃止の件だろうね。
恐らく断固反対の意志でやってくるんじゃないかとは思うが、それでも彼らにはキチンと説明はするつもりだ。
午後の事も考えながら、俺はアントワネットと一緒に作業に打ち込んでいたのであった。




