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377:分割の王冠

「グレートブリテン王国の権威と威勢は過去のものになってしまった。あの王国に残されたのはどうすることもできない程の衰退的・末期的な窒息状態である」

1780.4.22 フリードリヒ2世 閣僚達とのグレートブリテン王国植民地分割案の際に発した発言

★ ★ ★


1780年5月8日


グレートブリテン王国 エディンバラ城


内戦が終結したグレートブリテン王国ではスコットランドを中心とした北部地域から復興が進められていた。

……が、グレートブリテン王国全土の35%が内戦により何らかの形で建物を含めたインフラ施設が損傷・破壊されており、ロンドンやその周辺を含めれば無人地帯となっている場所も少なくない。

辛うじてスコットランドやスペイン、フランス、ポルトガル、が占領下においていたイングランド南西部が無事であったが、それでもグレートブリテン王国の心臓部を担っていた工業都市マンチェスターや金融・経済都市ロンドンが国民平等政府によって徹底的に破壊されたりした結果、現在グレートブリテン王国の経済力は内戦前の8分の1にまで落ち込んでおり、これが数年以内で回復できる見込みもないのだ。


問題は経済だけではない。

内戦によって多くのグレートブリテン王国の人間が国を離れる決断をした。

亡命や難民等によってヨーロッパ諸国になだれ込み、内戦終結後もグレートブリテン王国に帰還をしようとする者はごくわずかであった。

議会の貴族院や庶民院出身の議員でグレートブリテン王国に残存していたのは僅か53名だけであり、双方ともに議会の維持を図る為に貴族院・庶民院は統合化され、王国統治議院を採択した。


政治的には何とか統一こそしたものの、元の内戦勃発の引き金になった新大陸動乱とそれに伴うジョージ3世の精神錯乱により、国王の後任選定で議会が機能不全状態になった経験もあり、現在グレートブリテン王国に残った人々は政治に関して不信感しか抱いていない。

むしろ自国の政治状況よりもフランスなどの隣国の政治体制を望んでいる声も多く、国家体制を辛うじて繋ぎとめている状態だ。

内戦によって国外に流出したイギリス人の人数は百万人を超えており、技術者や経済界の重鎮など経済を動かす人物が少なくなり経済が鈍化している。

こうした人物の穴埋めには数十年単位で掛かるだろう。


内戦による被害は経済に深刻な影響を及ぼしており、それまでヨーロッパでも有数の通貨であったポンドの価値は大幅に下落、グレートブリテン王国が保有していたロンドンの国立銀行や証券会社が保有していた株式資産も他国に価値があるうちに売り渡されていたか、もしくは紙屑同然となっていた。

それ故に、グレートブリテン王国本国よりも被害がほとんど及んでいないカリブ海やインド植民地地域における通貨価値のほうが高くなるという逆転現象まで生じている。


さらにラキ火山噴火とそれに伴う農作物の不作が回復への大きな足枷になった。

グレートブリテン王国の身近な食糧庫となっていたアイルランドではグレートブリテン王国の内戦に触発されて民衆が蜂起、自由アイルランド共和国が樹立してグレートブリテン王国の軍隊は完全に追い出されてしまった。

これにより、アイルランドで生産されていた農作物が輸入できなくなる。

また、国民平等政府軍による略奪や焦土作戦の一環として穀倉地帯への放火行為なども合わさり、グレートブリテン王国に住んでいる国民への食糧配布ですらままならない状態に陥ったのだ。


「もはや我が国だけでは立ち上がることは出来ぬ……悲しいが、欧州協定機構の提案を受け入れて復興をしていくしかない」


そしてエディンバラ城では国王となったウイリアム・ヘンリーが各国からの提案を渋っていたが、このままでは国民の大半が餓死するか経済難民状態となってより悲惨な状況になるという試算を出されたことによって、泣く泣く提案を受諾するに至ったのだ。

グレートブリテン王国を人で例えるなら、病状悪化により病室のベッドで死にかけている。

数年前まで若々しく、輝いていた青年が今ではミイラのようにやせ細り、体を起こすこともできないぐらいにまで弱っているのだ。

もはや、欧州協定機構の経済救済措置の提案を呑まなければ死に至るのは確実である。


その提案とは、グレートブリテン王国が欧州協定機構に加盟している各国からの融資や復興事業、食糧支援を受け取る代わりに、グレートブリテン王国が保有していた植民地が「担保」として「譲渡」される。

つまり、売りに出されることになったのだ。


それまでカリブ海やインド洋で莫大な利益をもたらしていた植民地経済政策であったが、今回の内戦により植民地を支配している総督や貿易会社からはグレートブリテン王国を見限る動きが相次いでおり、カリブ海での島々ではグレートブリテン王国の統治を拒否する動きが加速しており、植民地軍の兵士などが反英感情などに基づいて殺害される事件も起こっている。


最も、逃げ延びた国民平等政府の残党や新市民政府論のシンパなどがヴァージン諸島などに移住し、行政機関の乗っ取りなどを図っている。

そうした者達を逮捕するのではなく、むしろ利用するために匿っている場所すらあったのだ。

こうした事態になっても対応が後手に回っている現状を踏まえて、ヘンリー国王は扱いきれない自国の植民地を手放す決断をしたのである。


「ああ、ついにこの日が来たか……」

「陛下……大変残念ではありますが……我が国にはこれらの植民地を維持する軍隊も予算もございません。何とか穏便に売却して利益を出せる土地を売却して資金を集めるしかありません」

「きっとフレデリックが正気であったなら、私を殴ってでも止めていたかもしれないが……これを止めたら今度こそ王国は滅びるな……」

「はい……さぁ陛下、こちらにサインをお願い致します……」


ヘンリー国王は泣く泣くサインに応じる。

かつて友であったプロイセン王国とは、内戦時の対応を巡って関係が悪化。

また欧州各国ではグレートブリテン王国の内戦に大規模介入した事による軍事費や新市民政府論をはじめとする王政廃止、階級打倒を掲げた過激思想の浸透の防止、これらの摘発や取締りに膨大な費用などを要することになってしまったこともあり、その最大の当事者であるグレートブリテン王国が提案を突っぱねることもできなくなっていた。


内戦時に生じた損害や、戦後の復興を各国が平等に取り計らうように主張したフランス王国やスウェーデンに対し、プロイセン王国は出兵した各国軍のうち、戦績が多い国から植民地の分割を行うように主張した。

1か月に及ぶ議論と討論が繰り広げられて、グレートブリテン王国の外交関係者は双方の主張を調整しながら如何にして植民地をパイのように切り分けるかに苦労した。


結果的に、プロイセン王国が当初主張していたインドへの分割参入に対し、各国から大きな反発を受けたこともあり、やむなくインド方面への統治権確保を断念した。

代わりに利益の高いカリブ海諸島の統治権を獲得し、衰退したグレートブリテン王国に代わって新しい統治者としてプロイセン王国の国旗を掲げることになった。


インド方面は元々のフランス領インドのポンディシェリに加えグレートブリテン王国の統治領をフランス東インド会社が統治することになるも、フランスはマイソール王国との関係悪化を避けるために、現地インド人を雇用して西洋式の国家運営を行い、数十年の租借地とした後にマイソール王国に返すつもりらしい。


その他の地域はスウェーデンやポルトガル、スペインなど欧州協定機構加盟国により分割され、ここにグレートブリテン王国が植民地戦争からの脱落と、欧州の軍事・経済大国からの衰退が誰の目から見ても明らかになった。


条約締結の翌日には「エディンバラ条約」と名付けられたグレートブリテン王国保有の植民地分割条約は、後の欧州各国のパワーバランスを一変させるものに変貌するのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 史実のイギリスの悪行を思うと、これでかえって平和になるかもしれませんね。 あとは北米&ポリニャックだ。
[気になる点] 《何とか穏便に売却して利益を出せる土地を売却して資金を集めるしかありません》 は「売却して」が重なっているので、 《何とか穏便に売却して利益を出せる土地から資金を集めるしかありません》…
[気になる点] 世界史に悪名を轟かす火付け盗賊イギリスがいなくなったとなると、グレートゲームは起きないのかなではロシアの南下政策は歯止めが効かなくなるのかとか、スエズ運河はわりとあっさり開通するかもと…
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