34:国土管理局
ここで堅苦しいお話はおしまい!次からはアントワネットとイチャイチャ回になります
「では、これより国土管理局の設立を宣言する!」
国土管理局の設立式はひっそりと行われた。
除幕式には俺やヨーゼフ氏などがスカウトしてきた140名あまりの局員で小トリアノン宮殿で設立に参加しただけだ。
かなりひっそりと設立したわけだ。
なにせ表向きは国勢調査や人口統計の管理などを行うという事になっている。
裏の顔、そして設立した本当の目的はごく一部の人間だけしか知らない。
諜報・破壊工作・外交工作・内偵・革命主義者の逮捕など……。
実際には秘密警察に近い役割を担う準軍事組織だ。
国内専用の防諜組織でもある。
戦前日本の特別高等警察に近い組織だ。
しっかりとした防諜組織を作っておく必要があるのは、フランス革命が勃発した経緯を知れば分かる。
フランス革命が起こった当時のフランスの状況は最悪の一言で片付いてしまう程に悪化の一途をたどっていた。
経済はボロボロ。
おまけにラキ火山や浅間山の大噴火によって北半球で寒冷化が起こり慢性的な食糧不足が数年単位で続いた為、野菜や小麦の価格が高騰した事で多くの国民が飢えで苦しんでいた。
ルイ16世もただボーっとしていたわけじゃない。
経済分野では農業主体の重農主義者ジャック・テュルゴーや、平民出身だが銀行家として大成功をおさめていたジャック・ネッケルを財務長官に任命して経済の立て直しを図ろうとしていたし、1785年から1789年に掛けてはユダヤ人の寛容令や農奴解放など当時としてはかなり開明的な政治判断を下していたりする。
……ここまで聞けばルイ16世も頑張っていたんだなと思うだろう。
そう、彼は頑張っていたんだ。
一昔前の歴史書や漫画だと散々な悪口書かれていたり無能扱いされているけど違うんだよ!!!
しっかり調べれば彼なりに国王として国を立て直す努力をしていたんだ。
……だが!
その努力が報われることは無く、革命によって灰燼に帰してしまった。
彼の足を引っ張った挙句、ルイ16世が断頭台で処刑される要因を作ったのが主に我儘で身勝手な貴族や聖職者たちであった。
代表的な例として、ジャック・ネッケルがルイ16世やアントワネットに質素倹約を勧めて、財政の根本的な立て直しを進めるもアントワネットがかなり厳しめの質素倹約を出されたことに不満を抱き、それにつけ上がった貴族たちが猛反発を相次いで起こして辞職に追い込まれた。
さらに言えば重農主義者のジャック・テュルゴーに至っては農業の自由化を図った次の年が気候変動によって小麦が凶作となってしまい、重農主義の脆い部分が露呈した挙句、これも貴族連中が中心になって辞職に追い込んだ。
そして極めつけが全国三部会を開いた際に、国の財源確保のために貴族や聖職者への課税が審議された際に、彼らが猛反対を起こしたことで国民の大多数が第三身分階級に準じている平民階級者が激怒したのである。
高収入でリッチな生活を送っているくせに税金を払わないとは何事か。
上級国民の免税特権は許されるのか!とヤジが飛んだ際には、彼らは上位階級者としての身分に甘んじて平民階級者の議員に対して酷い暴言を連発した。
「俺は貴族だ、貴様ら第三身分の平民とは違う。つまり借金を抱えている無能な平民がどうなっても俺が知ったことではない。」
「聖職者だけど免税特権無くなったら荘園の経営上手く行かなくなるからお断りします」
「ンンッwww第三身分階級の言う事は戯言ですぞwww」
……等々。
フランス経済が債務返済ができず破産寸前という状況であっても貴族・聖職者の大部分が自分達の自己中心的な、あるいは地位や名誉以上に税金を納めるのを拒絶した結果、平民階級の不平不満が暴発し、バスティーユ襲撃に伴い革命派が大躍進した結果が革命だったんだよなぁ……。
やはり貴族と聖職者クソやん!!!
……と、ここだけで切り落としてはいけない。
無論、貴族や聖職者の中でも経済状況の悪化で税金を取り立てる必要性を認識していた人たちもいる。
革命一か月前にはテニスコートの誓いに参加した貴族・聖職者も少なからずいたしね。
んで、文字通り革命が起きて国王陛下諸共処刑されてそれで万事解決とはいかなかった。
俺が知っている歴史では、フランス革命が勃発した際に革命を支持している人々は都市部だけで、田舎の農民達はそこまで革命運動を支持していなかったのだ。
彼ら農民からしてみれば都市部における革命騒動よりも、明日の食事と農業の仕事のほうが大事だったのだ。
そして彼らはキリスト教……それもカトリック系と深い結びつきがあった。
政権の実権を握った革命政府は革命戦争に参加させるために農民から男子を強引に徴兵しようとしたため、これに教会が猛反発して各地で反乱を起こしたんだ。
ヴァンデの反乱もそうした革命政府の横暴なやり方に反対したことで巻き起こったのだ。
それに激怒した革命派は教会や反発していた農民を異端者とみなして各地で虐殺を繰り広げることになる。
特に恐ろしいのは革命政府の思想を真に受けた民衆による暴力であった。
教会に対しては聖職者の殺害や建物への放火だけにとどまらず、貴重な文化財を燃やしたりするのを正当化する有様で、あまりの酷さに革命政府から「こいつら蛮族じゃね?」と言われる始末。
おまけにこうした過激な革命派は教会を反革命派だとレッテル貼りつけて文化破壊を推進したのだ。
この反革命派狩りによって中世ヨーロッパ時代のフランスの貴重な文献資料がいくつも消失するという歴史学的観点からみても最悪な事態となるほどだ。
後の共産主義革命が起きた国でもそうだったが、革命が勃発する時は大勢の知識階級者が命を落とし、文化的に価値のあるものを取り壊す傾向が強いのだ。
中学校や高校で習った歴史書だと、フランス革命は圧制者から解放した素晴らしい行いだ!マジ最高!みたいな論調で書かれているが、実際の所は反対派の粛清と宗教的文化の破壊を伴う恐ろしい時代でもあったのだ。
やはり革命はクソだってハッキリわかるんだね。
だから俺は革命を全力で阻止するのだ。
ナポレオンが登場して活躍した時がフランスの絶頂期であり、それ以降はコロコロと坂をくだっていくような状態が続いたんだ。
革命を阻止しなければフランスはこれから先、基本的にドイツにタコ殴りにされる運命しかないのだ。
普仏戦争ではフランスはプロイセン(後のドイツ帝国)にボロ負けしたし。
第一次世界大戦ではパリ目前まで迫られた挙句、若年層が死にまくった為に人口構成比がいびつになり、マジノ線作っておけばドイツ来ないやろと第二次世界大戦当初楽観視していたら道路国家経由であっという間にパリが陥落して降伏するし……。
そして近年ではむやみやたらに難民を受け入れた結果、過激派のテロや犯罪が目に見えるレベルで横行して極右政党が大躍進するほどに情勢不安になっている有様だよ!!!
これはひどい!
なのでこれからのフランスが、そうした事にならないようにしっかりと打つべき手は打っておく。
改革を速やかに実行し、フランスを豊かにしていきたい。
勿論、改革に伴う法整備などもしっかりと進めるのも大事だ。
個人的にはイギリスや日本のような立憲君主制へ移行するためのプロセスをとってもいいと考えている。
ただ、そうした移行へのプロセスにはかなり年月も掛かる上に革命派が便乗して体制打倒に向けた動きをしてしまう危険性もはらんでいる。
うーむ、一概に良し悪しは決めれないぞコレ……。
設立式が終わって将来の目標の道筋がようやく定まろうとしていた時であった。
「オーギュスト様、そろそろお昼になる頃ではありませんか?」
アントワネットが俺に問いかけてきた。
気がつけばもう時刻は午後1時を回っている。
うぉっ?!時間かなり進んだな!!!
道理でお腹が減ってくるわけだ。
さて、ひとっきり硬い話はここまでにしておこう。
今からアントワネットとの食事を楽しむぞぉ!!!
俺の心の中で仕事とプライベートの切り替えモードが発動した瞬間であった。
参考文献:教養としての「フランス史」の読み方
出版社:株式会社PHP研究所
著者:福井憲彦
初版:2019年10月8日




