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340:市場介入

「どれどれ……ん、穀類の価格が上がっているな……」


報告書に目を通していると、やはり穀類の値段が上がり始めていた……。

小麦粉は先週に比べて15パーセント、大麦、そば粉もそれぞれ4パーセント、冬野菜の価格も5パーセント前後値上がり傾向が見受けられる。

数パーセント程度であれば多少は誤差の範囲かもしれないが、小麦粉の値段上昇傾向は些か心配だ。

これに関しては市場介入をして価格上昇を食い止めたほうがいいだろう。


「小麦の値段が上がり始めているな……やはり大方予想通りといったところか……」

「はい、火山が噴火した影響で小麦を中心に穀類の価格が上昇傾向にあります。市場介入は如何致しますか?」

「必要であればネッケル長官の判断で介入を行っても構わない。パンが購入できない事態になればより最悪になるだけだからな」

「では、ネッケル長官と相談の上、できる限り早急に実施いたします」

「ああ、よろしく頼む……」


ハウザーはそういうと、すぐにネッケル長官の元に報告しに行くために部屋から一旦退出した。

何かとハウザーには世話になっているからね……。

歴史上では表に名前が載ることはなく、宮廷に出入りする商人の一人に過ぎなかった彼が、今ではフランスでも重鎮の存在となっている。

最近は白髪も増えてきたし、本人も後任者を決めてから引退しようと考えていると言っている。


(歴史を変えたことで、色々と変わったからなぁ……。歴史IF小説を結構読んだこともあるし、ゲームで改変しまくったけど……やはり、こうして国のトップとして色々やるとスゴイ事になっちゃうもんだなぁ……)


ハウザーをフランス政府の重鎮に採用したことで、ユダヤ系資本がこぞってフランスに流れてきた。

それが今から9年前の話……。

現在、国内にはフランス国籍を取得したユダヤ人やユダヤ系の人たちが多く暮らしている。

優秀な人材の育成に関しても、金融業を中心に彼らが積極的な協力をしてくれたことで、フランスの経済力はみるみるうちに強靭になった。

あとは、このラキ火山の噴火を乗り越えて、グレートブリテン島の戦争を終わらせるだけだ。


「さてと……お昼も過ぎた頃合いだが……今日は控えめの食事としますか」


噴火の影響を考慮して、当面の間は食事は質素なものに変更している。

食材も限られた材料で作ってもらう。

このような状況下で王族や貴族が豪勢な食事をしていたら新聞に取り上げられてバッシングを受けるだろうし、むしろ食事は質素にしていた方が庶民層からの印象もいいだろう。


既に、料理総長が作ってくれた料理がパン籠の中に入っているのだ。

それに合わせて、温かいお湯も用意してくれていたので、そのお湯で紅茶を淹れてからマグカップに注ぎ、パン籠から昼食を取り出す。


「さてと……今日はサンドイッチか……」


簡単な昼食を食べるとしよう。

今日は大麦パンにベーコンエッグが挟まったサンドイッチだ。

カリカリに揚げたベーコンとエッグが、バターで炒めたカブの葉っぱと一緒に大麦パンの間に挟まっている。

小麦に比べたら食感がかなりモチモチとした感じになるが、小麦より大麦のほうが栄養がある上に血糖値の上昇を抑える効果もあるので糖尿病予防や抑制にも効果がある。


「それじゃあいただきます……」


手を合わせてからサンドイッチを食べ始める。

もっちりとした食感の大麦パン……。

小麦と比較すると味や味覚がいけ好かないという声もあるが、俺はこの大麦の味が好きだ。

小麦に比べても価格が安いし、栄養も高い。

大きさも手ごろであり、それでいてサンドイッチ状にしてベーコンとカブの葉っぱと相性がいい。


(……ウホッ!バターで炒めた葉っぱが味わい深い風味を出しているな……それにしても、フランスってあまりカブを食べる習慣がないからカブを毛嫌いしている節もあるんだよねぇ……だって味噌汁の具にすれば美味しいし、小松菜とかアブラナとかもカブの仲間だし……うーむ……カブ普及させようかな……)


カブは実に無駄のない野菜だ。

球根は食べれるし、葉っぱもこうして炒めたり茹でたりすれば食べれる。

あまりフランスでは好まれていないらしいが、これを期に普及させるのもいいかも。

とはいえ、今から育てるのは時間的にも惜しいので、来年以降になるけどね。


昼食を食べ終えてから、一息つく。

紅茶を一杯……本当の意味でこれからが正念場だ。

今までに培ってきた知識、技術などをすべて動員してフランスで危機を乗り越える。

幸いというべきか、今のフランスは技術力・科学力ともにヨーロッパでも随一だ。

対抗できるのはプロイセンと北米連合あたりぐらいだ。

高圧蒸気機関もすでに試作品が完成し、初期型の生産も始まっている。

史実のフランスよりはステータスでいえばかなり良いほうだ。


おまけに、ジェームズ・ワットといった科学者もグレートブリテン島からフランスに避難させることに成功しているし、既に目星を付けていた科学者・技術者の大半はフランスで科学顧問という形で採用したこともあり、科学・技術分野に関しては補正強化がされているだろう。

あとは……グレートブリテン島の戦いが上半期までに終われば御の字だ。

過激な革命思想を取り潰せば、ここで不安定要素は殆どなくなる。

なくなるはずなんだ。

ふと、紅茶を飲んでいると頭をよぎったのは転生直前にルイ16世から言われた言葉だ。


『巻き込んでしまって申し訳ないのだが……フランス王国を救ってくれないだろうか?私には多くやり残した事がある。それを君に託したい……どうしても……想いが断ち切れないんだ。頼む……』


この言葉が自分の心の中で引っかかるのだ。

ルイ16世が想いを断ち切れないこともそうだが、彼がやり残してしまったであろうことを俺が実行に移している。

奴隷制度の廃止や貴族や聖職者への課税制度導入、また戦争などの武力行使を消極化させて財政の健全化を実現……。


さらに環境状況の改善や寛容令の発布によるプロイセンとの関係改善と、周辺諸国との融和政策。

戦争ではなく経済・科学・技術力に力を注いで生み出している数々の発明品。

平民層への支持の取り付けもしたし、21世紀水準の価値観でできる限りの事はした。

アントワネットと幸せに暮らすということも現在頑張ってやっているが、最近はテレーズやジョセフが誕生したこともあって、彼女と構っている時間は朝と夜になりつつある。


(最近忙しいからなぁ……でも、できる限りアントワネットとの距離を開けずに、しっかりとケアをしないとね……)


アントワネットはよく俺に対して物事を抱え込み過ぎだと叱ってくれるが、実際にはアントワネット自身もストレスなどをため込みやすい性格なのだ。

だから、最低でも週に一回は必ずじっくりと話しをする時間を設けているのだ。


それにしても、ルイ16世はなぜ俺に転生させたんだ?『私には多くやり残した事がある』って呟いていたからなぁ……未練を断ち切るために送り込んだのだろうか?

ルイ16世……。

思えば、HOBFやろうとしてフランスの国旗をクリックしたことで転生劇が始まっちゃったからね。

フランス人ではなく、日本人である俺に転生を任せた理由も不明だが、一体どんな基準で選んだのだろうか?


(いや、これ以上深く考えると目の前の問題から逃げてしまっているように感じてしまうな……つづきはまた今度にしようか)


今はラキ火山の噴火対策が先だ。

昼食も食べたことだし、これからネッケル長官とも会談して話を進めていくべきだろう。

休憩を終えてから、俺は再びデスクワークの仕事に戻ったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついでにルタバガもお願いします(カブに似ていますが、味や匂いはサツマイモぽいらしい)
[良い点] フランスでバターと言えばエシレが有名ですが、他にもフランス菓子を支えている乳製品いろいろありますね。噴火の影響で牧草が心配。
[一言] > うーむ……カブ普及させようかな…… カブラの冬! 100何十年か早いカブラの冬じゃないか!
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