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296:イギリス

何と言っても今はロンドン革命政府との睨み合いの状態が続いており、砲火を交えなくても対立が続いている状態だ。

ロンドン革命が勃発して半年が経過したが、未だイギリス政府は鎮圧できるどころか敗走に次ぐ敗走を重ねている。

正直言ってイギリスの状況は思っている以上に悪い。

史実以上のアメリカ独立戦争における大敗北が尾を引いてここまで悪化するとはね……。

悪化通り越してイギリスの治安は既に最悪の一途を辿っている。


まずイングランド南部は制圧された上に、既に産業革命発祥の地として名高いバーミンガムが陥落し、かの有名なロイヤル・ホテルは今や反革命思想犯のレッテルを張られた人間の収容所兼処刑場となっているそうだ。

特に、労働者が反乱を起こさないように締め付けようとした企業家や、それに賛同した者を中心に弾劾裁判を起こし、ほぼ死刑が言い渡されているそうだ。

完全にフランス革命の歴史を繰り返しているみたいだ……。


『1777年4月29日製作:国土管理局外地管理部イギリス調査班作成資料より引用』


イギリス情勢やロシアの偽皇帝の反乱なども踏まえた上で、より外部の状況を逐一確認するための部署である外地管理部を新設し、海外の情報などはそちらで管理・調査する方針となった。

なお、この外地管理部はそれぞれエリアごとに異なった組織に分けられており、部署の増設に伴ってパリの旧アデライード派やオルレアン派に属していた元貴族の屋敷で買い手がつかなかった建物を丸ごと買い取ってこれら担当部署ごとの配置先として割り振っている。


それまでは大トリアノン宮殿を中心に諜報機関を置いていたのだが、偽憲兵による毒物混入事件を受けて、万が一革命派によるテロや事件が起きた場合、諜報機関の分散をしていないと攻撃を受けた際に指揮系統が混乱するのではないか?

……というごもっともな意見が上がったので、大トリアノン宮殿にはあくまでも各所からの連絡などを取りまとめる総本部を設置し、それ以外の部署などについては各施設への分散設置を行ったのだ。

それぞれ調査班という名称を用いて活動を行うように改めて指揮系統の再編成を実施。


対ブリテン島、アイルランド方面にはイギリス調査班を、北米方面や南米には新大陸調査班といった形に、各エリアごと……フランスの戦略上重要なヨーロッパ方面には各国に分けた調査班を分担させている。

領邦やイタリア半島のように幾つもの小国家がある場合には地域ごとにまとめて統括する仕組みも構築した。


今、目を通している資料の作成元であるイギリス調査班にも専用の拠点を設けている。彼らの拠点はパリ市内にある酒場も兼ね備えた国営の宿泊施設「repose en paix(日本語訳:安らかに眠る)」だ。

一階と二階は酒場、三階から五階までは宿泊施設となっており、酒場で酔ってもそのまま上の階に行って泊まれることが出来る場所だ……。

なお、その実態はハニートラップや盗聴などを行う場所となっており、全て国土管理局の内務公安部が管理・運営をしている。


一応ながら国土管理局は国の管轄下に置いている組織なので、国営という表現は間違ってはいない。

利用客は富裕層の平民や貴族、各国の外交官などが利用しており、六階が国土管理局内務公安部の事務所であり七階からはイギリス調査班の部屋となっている。

ここでは防諜設備も兼ね備えた仕様に改装した部屋がいくつもあり、国内にある対イギリス拠点となっている。


対革命戦争に向けた準備も進めている中で、この班に関してはデオンが直々に指揮を執っており、彼女は今この部屋からイギリスに残留している国土管理局の諜報員から送られてくる資料を整理して、毎週月曜日と金曜日に俺に資料を届けてくれるのだ。

今もすぐそばでデオンが待機しているぞ……。

なので、早速だがデオンに対して幾つか質問を行った。


「イギリスの現状を見ているが……国土管理局の対英諜報員は場所を移したりしていないのか?」

「現在王室と政治家の上層部の動きを探るためにエディンバラに向かった者と、革命政府の動向を見る為にロンドン各所に点在している酒場や高級娼婦(クルチザンヌ)を雇っているお店で現地協力者を含めて探っております」

「そうか……革命政府のトップであるチャールズ・ハリソンについては何か分かったことはあったかい?」

「今のところ分かっていることは、革命政府の人事権を掌握こそしていても積極的に関与はしていないとされていますね。オックスフォード大学の法学部で教壇に立っていた複数の教授を中心に政治を動かしているそうなので……むしろ反王室、反貴族を色濃く写したような法律を出しているとのことです」


チャールズ・ハリソンはあくまでも見せかけのトップ……ではないにしろ、オックスフォード大学の教授達が政治を動かしているようだとデオンは話す。

確かに、年齢も俺とあまり変わっていないからね。

若すぎて不安なので、民主主義的体制も名目上取り付けて教授連中を政治の歯車にさせたのかな……。

まぁ、何にも政治に詳しくない奴に任せるよりはいいかもしれない。

革命政府が作った政府指針目標も、中々頭のネジが吹き飛んだような内容になっているのでしっかりと見ておこう。


『1777年度 ロンドン国民平等政府 政府指針目標』


・革命政府において平民層や貧困層の為の所得向上計画を推し進める為に、接収した資金や工場、鉱山を通じて労働者を蒸気機関のように循環させるように働かせて経済を回す。


・犯罪者や貴族、王族関係者、革命に反対する市民についてはロンドン郊外の複数の要塞を再教育訓練所に改装した上で教育を行い、新市民政府の一員となれるように行動させる。


・また革命政府に同調し、決められた資産の相続を許した貴族を除いて、囚われた貴族の家族などは全て処刑する。15歳未満の子供に関しては平等思想に染まるための再教育訓練所で教育的指導を行う。


・革命政府は王室を認めない。ロンドンにある王室の資産は全て接収し、貧困層の為に平等に分割する。


再教育訓練所という物騒なワードが出てきたが、これは革命家が好んでやりやすいやり方だ。

それに法律家や教授というのは理想主義を重んじる人間が多いからね。

反王室、反貴族の法律を出したのもそうした意図があったに違いない。

ここまでガチガチにやっている人ほど、反動も凄いものだ。


さぞかしチャールズ・ハリソンも溜め込んでいるであろうフラストレーションを吐き出す為に、いかがわしい行為などのスキャンダルが無いか尋ねる。

古今東西、政治家を陥れるには本人の失言よりも女性関係のスキャンダルのほうが効果的だと言われているからね。

何かあればそうした外交工作も兼ねて広めようと思ったのだ。


「これだけの厳しい政府指針目標を掲げる程だ……チャールズ・ハリソンに関してはスキャンダルとかないのかね?」

「いえ……革命政府の複数の高官に関しては情報を得ることが出来ましたが、残念ながらチャールズ・ハリソンは殆ど性に関しては無関心ではないかと言われておりますね……これといって女性との交際もなく、かと言って男色家であるという噂すら流れていないので……」

「そうなのか……」

「むしろ、彼にとって性欲よりも新市民政府論を広げようとする心意気のほうに力を入れているのでしょう。バーミンガムを占領した国民平等軍は、内部の手引きによって行われましたから……」


曰く、バーミンガム周辺の有力者や知識人が集うルナー・ソサエティという交流団体の中にジョゼフ・プリーストリーという哲学兼科学者がいたそうだが、彼は熱心なキリスト教徒でありながら革命政府の行動を支持していたという。

そんなルナーは、同じ知識人を説得した上でロンドン革命政府の伏兵を手引きして市内に潜伏させてから、一斉蜂起を起こしてバーミンガムの守りを固めていたイギリス軍守備隊の背後を突く形で街を占領したようだ。


「ルナーの手引きでバーミンガム陥落か……もはやイギリスはどこにいても安全ではないのかもしれないな」

「ええ、イギリス王室もかなり揉めているみたいですし、最悪あと半年でイギリス全土が革命勢力の手に渡ってしまうかもしれません」

「……フランスとしても見過ごせない話だな……でも、プロイセンや領邦はあまり介入したくないんだろう?」

「新大陸での失態もありますからね……これ以上イギリスの内政問題には関わりたくないという意思が強く現れております。プロイセン調査班とも協力して動向を探ってまいります」

「うむ、よろしく頼む」


新大陸での戦争ではプロイセン、領邦の双方から離反者が出たことによって戦線が完全に瓦解した。

つまりその二の舞を恐れているのだろう。

しかも内戦に介入した場合、プロイセンや領邦、それにフランスやスペインといった多国籍軍による介入も行うべきなのだが、イギリス側から参戦要請は来ていないので、介入したくても介入が難しいのだ。

もはやイギリスの崩壊も、既に秒読み段階に入っているのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうせすぐにハリなんとかと教授陣でゲバるんだろうな。
[一言] チャールズ・ハリソンが表に出なさすぎるな。 ポル・ポトのようなやつかな? 結局革命政府は、殺して盗んで配ってるだけで、何も生み出して無いですね。 史実のフランスでは、 革命→議会政治→新貴…
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