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267:待機準備命令

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

というわけで本年度初投稿です。

プランGBの待機準備命令を下すと、皆は固唾と息を呑んでいた……。

プランGB……GBはグレートブリテンの略称であり、その内容は国土管理局で議論されて実施されない事を祈りつつ、もしもの時の為に法案整備や軍のシステムなどを見直した上で独立戦争時の1775年にひっそりと成立させた在英フランス人、並びにイギリスでもフランス寄りの王族関係者や貴族、企業家のブリテン島脱出計画である。

万が一新市民政府論を支持する政治団体や軍人たちによるクーデターが発生した場合、イギリスに駐在している政府職員や諜報員、貴族などが人質として囚われてしまう可能性がある。

もしそうなって裁判になって死刑にでもされたら、こちらとしてもたまったものではない。


「これをやらないと在英フランス人にも被害が及ぶからな……まずは大使クラスの人材の即時引き揚げ……それに合わせて予めリストアップしたイギリス国内にいる親フランス派の政治家や発明家や技術者、企業家といった産業に欠かせない人材の保護も優先的に頼む。特に王族関係者……それと発明家ではジェームズ・ワット氏の保護を頼むぞ。ハウザー、国土管理局の人員を今から動員するとなればどのぐらいでイギリスに派遣できる?」

「はい、今からですと遅くても1週間以内には第一便の派遣が行えます」

「では、第一便の出発を頼む。先も言ったように王族関係者やジェームズ・ワット氏と接触して、彼らをフランスに【避難】させるように促して欲しい。クーデターや内戦といった混乱が起これば保護するのも難しくなるからね、接触できる機会は今ぐらいだ。もし我が国への保護並びに亡命を申し出たらすぐに連れてくるように」

「わかりました。早急に手配を致します」

「国民にもイギリスへの渡航制限令を出して巻き込まれないようにしなければならないな……それと先程述べた以外の保護リストの作成が出来上がっているはずだが……どこにある?」

「はっ!こちらにございます!」


ジェームズ・ワット……。産業革命を巻き起こした蒸気機関の生みの親である彼の保護はフランスの最重要事項に含まれている。

発明家であると同時に、彼は多くの特許を取得している。

つまり、彼をフランスに招いて……うまくいけば亡命という形でフランスに蒸気機関の特許関係を優遇してもらえるだろう。

それに、フランス科学アカデミーでは彼と個人的な交流をしている科学者も少なからず見受けられる。

国防の機密情報に入らない程度だが、手紙でのやり取りを交わしており、科学者たちから真っ先に保護してほしいと頼まれているのだ。


俺もそれに関しては激しく同意しているので問題なく王族関係者と同じレベルで保護を優先させた形となる。

やはり人類史・科学史の偉大な一ページを記したほどの人物をみすみす逃すわけにはいかない。

彼を逃したり失ったりすれば、それこそ人類にとって大きな損失となり得るからだ。

科学者は他に沢山いるから別にいいだろう?と考えているような人間がいればぶっ飛ばしておくレベルでジェームズ・ワットに関しては最優先で保護を……!


(イギリス人で最優先でフランスが保護すべき人物は王族関係者に科学者……技術者に企業家……それに現地のスパイか……デオン氏は大丈夫だとしてもそれ以外の人に関してはどうだろうか……リストだけで200名以上いるわけだし、リスク分散を考えると一隻の船に対して30~40人ぐらいの搭乗が無難かな……?ん?この科学者は……!)


あともう一人、科学者で保護するべきリスト表で重要な人物がいる。

HOBFでも特殊なイベントが発動しないと雇用できない人物ではあるが、その分科学力が上がるとされている公式チート呼ばわりされている人だ。

普段から人間嫌いで、父親の遺産を手にすると実験の為に使って没頭し、ほぼ引きこもりレベルで家に籠っていながら次々と重大な発明や発見をしてしまう。

しかしその実験や発明の大部分を公の場に公開せずに死後になってから公開されると再評価され、公表していたら人類の科学技術が数十年早まったと言われるレベルの変人科学者ヘンリー・キャヴェンディッシュがいるのだ。


「ヘンリー・キャヴェンディッシュ……!彼は人嫌いで有名だが……彼は多くの資産を持っていると同時に優れた科学知識を持っている学者だ……彼も保護したいのだが……これは出来そうか?」

「うーむ、難しいですね……彼と接触しようと試みた者もおりますが、あくまでもイギリス王立協会での科学発表会でしか公の場に姿を見せないので接触をするには少々時間が掛かりそうです」

「彼の場合はフランスで最新鋭の設備が整った研究室を与えるといった条件を付け加えれば乗ってくれるかもしれない。特にフランスで改良が進められている科学技術の情報を小出しで教えるだけでも話を聞いてくれるはずだ……彼の保護に関してはアンソニーとジャンヌの二人に任せよう」

「では、二人には至急ヘンリー・キャヴェンディッシュ氏の保護を行うように通達致します」


科学者を中心に保護や亡命を手助けする必要は大いにある。

というのもフランス革命時にも多くの貴族や王族だけでなく科学者なども革命政府によって囚われて、そのうち放免された者を除けば人民裁判に近い形で冤罪を擦り付けられて財産を没収されて獄中生活を余儀なくされたり、ギロチン刑を受けて首を跳ね飛ばされて死んでいった人が多いからだ。

それだけでなく、王党派であると認定された人を中心に革命政府に邁進して狂乱状態となった市民により虐殺された人もいる。


……ランバル公妃が有名だろう。

彼女は史実だと男性に囲まれて暴行された末に剣で斬首され、頭部を槍で串刺しにした後に、民衆が槍で刺したランバル公妃をアントワネットが囚われている牢獄に向かって掲げて「次はお前だ!アントワネット!」と叫んだとする文献もある……。

某漫画でも主人公が思いを寄せていたヒロインが狂気に毒された人々によって斬首して串刺しにされるという衝撃的なシーンがあったが、あのような状態がフランス革命時には日常茶飯事だったようだ。


あんなに美人でアントワネットを最後までかばっていた人に対する惨たらしい仕打ち……おまけに現代でも遺体はバラバラだったうえに革命時の混乱で紛失したという。

その出来事を聞いた身としては、狂乱と狂気に満たされた人間ほど恐ろしいものはいない。

転生して史実を変えてしまったことで起こった「赤い雨事件」の時のアデライードも心が狂気に満たされて完全に精神がおかしくなってしまった。

そんな殺人すら躊躇せずに行える『無敵の人』が数百人、数千人……いや、下手をしたら万人単位で虐殺に加担してしまうような事態になれば、もはや交渉すらできなくなってしまうだろう。


フランス革命によって、旧体制側の人間に対して殺害を含めて何をやっても許されるのだ!という世紀末的なモラルハザードが起こり、革命騒動が治まるまでは狂気は止まらない。

フランス革命だけではなく、動乱や騒乱の国や時代ではそうした行為が「異常」ではなく「当たり前」の光景に見えてしまうのが恐ろしい。

既にイギリス兵に関しては痛い目に遭っているので尚更その危機感が強い。


新大陸ではイギリスに対して二等市民扱いをされるぐらい本国人から屈辱を受けていた民間人による積もりに積もった恨みが最悪の形で発散された事によって、民兵組織や正規軍の到着を待たずして捕縛したイギリス兵を私刑にして殺害したケースが後を絶たなかったそうだ。

私刑方法を詳細に記した報告書を読んだ時は、思わず読まなければよかったと後悔するぐらいに残忍な方法でイギリス兵を民衆が殺しているのだ。


そして今、民衆が支配体制に反旗を翻してすべてをリセットしようとする動きがイギリスで活発化しているのだ。

貴族制や王政の廃止だけでなく、市民による市民のための政治……現代で例えるなら無政府主義アナーキズム思想に近いこの新市民政府論に則って市民が過激な排斥行動に移る可能性が高いのだ。

戦争に負けただけにとどまらず、経済的……政治的にも停滞期にあるイギリスで起これば……やがては周辺国に波及しかねない。

もしそうなった時に初動が遅れたら、周辺国に革命的な運動が活発化して手遅れになってしまうかもしれない。


そうなる前に、対外戦争を含めた準備命令を下した。

戦争はしたくないし、好き好んでやりたいとは思わない。

しかし、だからといって放置しておくのもいけないのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] キャヴェンディッシュに、女性を会わせたら、ダメエェェ!! ジャンヌみたいないかにも女性的な女性なんて、彼の女性アレルギー暴発待ったなしじゃないですか。 引き籠りレベルカンストの対人恐怖症に…
[良い点] 初めまして あなた様の書いている小説が面白くて勉強になります それにこのまま完結までゆっくり焦らず、自分のペースで投稿していってください [気になる点] 近代免疫学の父と呼ばれたジェンナ…
[一言] この調子だとフランス革命ならぬイギリス革命勃発ですかね。 史実のフランスにはナポレオンが登場して国をまとめましたが、イギリスにはそのようなことが出来る人物が出てくるのやら…
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