241:煌めくシャンパン
★ ☆ ★
ささやかなクリスマスパーティー……。
オーギュスト様が日々の労いを兼ねて行っています。
いつもの国土管理局のメンバーだけでなく、召使い長や料理総長といった裏方仕事を行っている人達を呼んでシャンパンを振る舞っているのです。
シャンパンを一口、口の中に入れるだけで気泡が弾け飛んでいくのです。
最高級品だけあってのどごしもまろやかで美味しいですわ。
「ささっ、料理も楽しんで!子牛のヒレ肉を使ったステーキもあるぞ!」
「陛下、是非ともこちらのジャガイモを使った料理もご堪能下さい。こちらは以前陛下が教えて下さったポテトチップスにコンソメ風味の味付けを行ったものです」
「おおっ、コンソメポテトチップスとは……!一口頂いていいかね?」
「どうぞどうぞ!宜しければテレーズ様にもお一つ!」
「ありがとう、ほらテレーズ……ポテトチップスだぞ~!食べてごらん」
横を振り向くと、オーギュスト様が以前厨房を使って作っていたポテトチップスを料理総長がアレンジして作ったコンソメの味付けをしたものを出しております。
オーギュスト様とテレーズがそれぞれ一口、ぱくりと食べると二人とも目を輝かせて「これはすごい旨い!」と絶賛しておりました。
最近は厨房に立つこともあまりなくなってしまいましたが、テレーズがもう少し大きくなったら皆で一緒に料理を作るのもいいかもしれないですわ。
微笑ましい光景を見ていると、オーギュスト様がこちらに気が付いてポテトチップスを持ってきてくれたのです。
「アントワネット~出来立てほやほやのポテトチップスだけど食べてみるかい?コンソメの風味があって美味しいよ!」
「よろしいのですか?」
「勿論だとも!皆にそれぞれ配るのもいいかなと思ってね」
「まぁ……ではお一つ頂きますね」
私はポテトチップスを手に取ってポリポリと噛んでみました。
するとどうでしょう……。
一口目で既にコンソメの味付けが口の中に広がっていくではありませんか!
あっさりとした塩味もいいですが、このコンソメ味のようなこってりとした味付けもいいですね!
なんでも、ブイヨンスープを一旦粉末化してから取り出した味付けらしく、塩の味付けよりも値段も手間も掛かるとの事です。
労費に見合う味わい……といえばいいのでしょうか。
オーギュスト様がポテトチップスを勧めているお陰で、ポテトチップスがポリポリと消費されていきます。
もうちょっと食べたいと思いましたが、皆様への労いを兼ねたパーティーなので我儘を言ってはいけません。
「ほぉ、これがコンソメ味のポテトチップスですか……最近巷では塩味のポテトチップスが売りだされておりますからね。この味はかなり美味しいです」
「食べれば食べる程、この味付けと食感の虜になりそうですわね。カラッと油で揚げているので美味しいですわ」
「このコンソメ味のポテトチップスを王室御用達……いや、ヴェルサイユ宮殿限定の商品として販売するのはいかがでしょうか?」
「うむ……確かにこれだけ美味しければ数量限定で販売したほうがいいですな。こんなに美味しいのであれば来賓向けのお菓子としても好評になるでしょう」
皆がコンソメ味のポテトチップスを食べております。
お皿に盛りつけられていたポテトチップスの山はあっという間に平らになってしまっておりました。
皆さんから大好評ですね……。
後で、料理総長にお願いしてもっと作ってもらうように……いえ、明日のおやつに出してもらえるようにお願い致しましょう。
「王妃様、何かあれば申し出て下さい。何時でも準備は出来ておりますから」
「ありがとう、でも今はその必要はないわ。オーギュスト様が張り切っていますからね。一通り皆さんには声掛けはしましたから、ここで少々待ちましょう。テレーズを見ていてくれるかしら?」
「かしこまりました」
乳母の一人が心配そうに話しかけてきました。
確かにパーティーではオーギュスト様が張り切って皆さんに積極的に話しかけていますからね。
私も先程皆さんに声掛けをしたり、軽い談話を行っていましたが、オーギュスト様の方に注目が行っていますね。
決して私が周りから取り残されているわけではありません。
オーギュスト様がパーティーを開き、取り仕切り、皆さんを労う為のパーティーです。
私の為のパーティーではないのですから。
我儘を言ったりして困らせてはいけませんのよ?
右手に持っているシャンパンの気泡が気になりましたので折角ですので飲み切ってしまいましょう。
「ぐびっ……ぐびっ……ふぅ~っ、シャンパンの味が沁みますわね……」
「アントワネット様、おかわりをご希望なさいますか?」
「そうね……では一杯お願いできるかしら?」
「かしこまりました……どうぞ」
「ありがとう」
シャンパンのグラスを一杯空けてしまったので、おかわりをお願いしました。
美味しいとついついおかわりを頼んでしまうのです。
私も誰かとお話しようとか思いましたが、皆楽しそうに相手とお話していましたね。
間に割り込んで話すのは失礼ですので、私は傍にいたテレーズの様子を見ておりました。
……そしてテレーズが椅子に座ってアーモンドミルクを飲みながらご満悦に笑っております。
本当にいい子ですね。
傍に乳母がいるとはいえ、ちゃんと座っているのは良い事です
私はテーブルの傍にあった椅子に座り、テレーズを褒めました。
「テレーズ、いい子ですね。ゆっくりと飲むのですよ」
「うん!」
「よしよし……」
テレーズと一緒に椅子に座っていますが、こうしてパーティーを眺めているだけでも楽しいです。
アーモンドミルクを飲み、柔らかいお肉やお野菜を美味しそうに食べているテレーズ。
料理総長が丹精込めて作った料理ですので、味わって食べているのでしょう。
微笑ましい光景をそばで眺めていると、ランバル公妃とルイーズ・マリー夫人が近づいてきました。
私の事を気に掛けたのか、少し心配そうな顔をしてきたのです。
「アントワネット様、お傍に座ってもよろしいですか?」
「ええ、いいですよランバル公妃。パーティーを楽しんでいるかしら?」
「勿論です。色々と陛下やアントワネット様には良くしてもらっておりますから……普段あまり話す機会のない方々とお話するのは楽しいですよ」
「ふふっ、ルイーズ・マリー夫人。それは良かったわ。私なら大丈夫、さっきまで色んな人と会話をしてきたから……ちょっと休憩がてらテレーズがアーモンドミルクを飲んでいるのを見守っているのよ」
「そうでしたか、テレーズ様も美味しそうにアーモンドミルクを飲みますね!」
「ええ、ちゃんと座って飲んでいるから私としても嬉しいのよ。それにしてもこうしているとなんだか不思議ね……こうしてパーティーを開いてみんなで楽しく過ごすのは……慎ましくも微笑ましくていいわね」
私はランバル公妃とルイーズ・マリー夫人に言いました。
楽しいパーティーというのは、雰囲気が和やかなのです。
ほんわかとしていると言えばいいのでしょうか。
ここにずっといたいと思うのです。
雰囲気を味わっているだけでも良いものです。
今日の主役はオーギュスト様であり、皆さんなのですから。
私がしゃしゃり出る幕はありません。
強いて言えば、皆さんに声掛けをして見守るぐらいですわ。
「皆さんが楽しそうにしているのを眺めていると、ここに来て良かったと実感しますわ……あの日からそう思っていました……」
あの日……夫婦として結婚した日です。
オーギュスト様と出会った時は上手く出来るかどうか緊張していてガチガチでしたけど、オーギュスト様の手紙を読んでホッとして式に臨むことが出来たあの日……。
結婚式が行われた日は今でも忘れない一日です。
こうして夫であるオーギュスト様や、閣僚の方々とも良好な関係を持てた事で、フランスに嫁いで良かったと思うのです。
母様も喜んでおりましたから。
その時のことが鉄砲水のようにドバドバと思い出してきました。
「……結婚式の事を思い出すわ……私とオーギュスト様が出会った最初の日を……オーギュスト様からの手紙で全てが変わったのですから……もし、あの日がうまくいかなかったら……私はここにいなかったかもしれません」
「確か……アントワネット様は陛下とお会いしたのは結婚式当日でしたね」
「本来ならコンピエーニュの森で面会する予定だったんですけど……事情が変わったので本番で面会する事になったのよ。あの時、おじぃ……いえ、ルイ15世陛下が熱を出したとかで急遽取りやめになったから……」
面会予定だったコンピエーニュの森に到着した際に、おじいさまが熱を出して面会取りやめになってしまった事で、結婚式本番でオーギュスト様と会うことになったのです。
その時にオーギュスト様と会っていたらどうなっていたでしょうか?
今と殆ど変わっていなかったかもしれませんし、もしかしたら大きく運命が変わっていたのかもしれません。
未来への展望を語っていたオーギュスト様。
結婚する前から「未来」を見据えて次々と問題に切り込んで行ったのです。
私との結婚も、未来の為に……フランスを立て直す為に行ったのでしょう。
私は知らなかったのですが、オーギュスト様は結婚する一か月前に性格が大きく変わったと言われているようです。
今は外向的ですが、昔は内向的で物静かな人だったと伺っております。
何か変わるきっかけがあったのでしょうか?
折角なので今度思い切って聞いてみましょうか。
まだ知らないオーギュスト様の事が知りたいのです。
(今度……思い切って聞いてみましょうか……)




