197:近代的軍備(陸軍編)
今回と次回は作者のミリタリー魂が炸裂するので初投稿です。
軍事会議では、国の予算からどれだけの軍事費を支出するかが盛り込まれた。
日本だと自衛隊の防衛費という形で計上されるものだが、一応フランス軍は敵国への侵攻用としての部隊の配備も行われており、軍事費用を見れば景気の向上によって少しばかり余力があるように見える。
しかしながら、国の負債などの返済にも予算を充てている為、既存武器・兵器の改良や新しい発明品の軍事転用などを行って軍事費は若干の微増にとどめられている。
(海洋国家として君臨しているイギリスを全力で叩くには国家予算3年分の軍資金が必要だし、軍事力で真っ向勝負挑んで勝てたとしても破産するんだよなぁ……)
そう、史実のアメリカ独立戦争時にフランスは義勇軍としてアメリカ側を支援していた事が知られている。
数多くの軍人がアメリカで実戦を積んで、無敵と言われたイギリス海軍との戦いで勝利を収めたものの、莫大な借金を抱えてしまった。
その総額は当時の国の借金の総額の3分の1に相当する10億リーブル以上に上ったと言われており、国の借金をドンドン増やしてしまったことで国内経済は負債返済の為に回らなくなり、結果経済破綻してしまったのだ。
戦争に勝利しても経済で敗北したら結果的に大きなマイナスにしかならない。
戦争なんて金と人員を消費してしまう愚行であるとも言える。
だからといって防衛を疎かにしていれば、いざという時に不測の事態を招いてしまう。
そうした事を踏まえた上で、俺はあくまでも敵国からの攻撃を受けた際には自衛戦争のみに徹する事を決めているのだ。
積極的に戦争を仕掛けるような戦闘狂にはなりたくないものだ。
なので、そうした史実でフランスが起こしてしまった失敗の二の舞いは演じたくないので独立戦争への参入はせず、中立を保って植民地州と英国統治領と貿易を行い、アメリカには国土管理局の諜報員を派遣して戦況レポートを提出するようにしている。
戦況結果を見ればどんな戦いをしているのか分かるし、いくら仮想敵国とはいえイギリスと戦争をすればこれまでの経済改革の努力が水泡に帰すことになりかねない。
『あくまでも今は経済優先だ。とはいえ、軍の近代化に向けての改革も進めていかねばならない。そのためにこの軍事会議を招集したのだから』
軍事費も今年度の予算分は既に確保されているが、科学アカデミーで発明された技術もふんだんに取り入れて既存の武器・兵器の改良が行われている真っ最中である。
というわけで、まずは陸軍大臣であるクロード=ルイが説明を行った。
「まず陸軍からは来年度にかけて既存のマスケット銃を新型モデルに改良し、新しい兵器の開発と運用が行われる事になりました。対物擲弾投射機や新型ブランダーバスに関しましては、最終チェック段階に入っております。さらにキュニョー中佐が開発した砲車ですが、前方・側面からの攻撃を防御する鉄板を施した輸送モデルの開発が完了致しました。将来敷設予定の鉄道のレールに合わせて運搬・輸送を担えるように交通関連の方にも便宜を図っております」
「まずは上々といった所だね。対物擲弾投射機とブランダーバスは現物を持ってきたと言っていたが……どこにあるのかね?」
「はっ、こちらで御座います陛下。何分、まだ最終的な運用結果を考慮してデザインなども変更になるとは思いますが、大きな変更はないでしょう」
「ほう……まずこれが対物擲弾投射機か……余裕の大きさだ、これを敵に向けてズドン!とやるわけだね」
クロード=ルイから渡されたのは大人が抱えて持つことができる対物擲弾投射機……。
木彫のグリップを握ってみれば分かるが、現代でいう所のグレネードランチャーに相当する武器であり、構造も殆ど同じの筈だ。
大きな筒状になっており、この中に榴弾・散弾を詰め込んで発射するのだ。
実際に対物擲弾投射機は19世紀前半に配備された武器だが、既存のフリントロック式のマスケット銃を参考に、小型榴弾や散弾を発射するように設計している。
なので近接戦闘になればショットガンの代わりとしても使えるようにしたわけだ。
しかしながら、この武器は兵士全員に配備するわけではない。
メリットデメリットが一長一短でもあるからだ。
「これは中々いい武器だ……だけど全ての兵士に配備されるわけじゃないだろ?」
「その通りです。この武器は扱いが難しい為、熟練した訓練を積んだ擲弾兵に任せております。装填時間も長いです。しかしながら、この対物擲弾投射機は従来の散弾よりも大きい物が使用できるため、近距離戦闘や遮蔽物に隠れた敵を倒すことが出来るようになります」
「主に市街地戦や見通しの悪い森での戦いに向いているというわけか、平原の多い場所では些か不利だな」
「はい、平原ではマスケット銃の方が有利に戦えます。なので遮蔽板や盾などを使って投擲する戦い方をしなければなりません。それを考えればこちらのブランダーバスを使用したほうが良いかと存じます」
この対物擲弾投射機の悪いところは、一発の装填時間がマスケット銃の倍掛かる事だ。
安全性や誤爆を防ぐために、この対物擲弾投射機は装填に1分を要する。
マスケット銃の装填時間は新兵で1分程、熟練兵でも20秒程掛かるものだ。
現代のアサルトライフルなどの銃弾は、既に実包の中に雷管というものが組み込まれているので、これに撃鉄によって衝撃を加える事で弾丸をそのまま発射する事が出来る。
しかし、まだこの時代にはそんな立派なものはないので、一発ずつ弾込めをしなければならない。
この弾込め作業は慎重にやらないと暴発を招く上に、雨の日(特にスコールが酷い時)などは火薬が点火せずに不発する事が多かった。
1分で2~3発装填し発射できる武器と、1分で1発装填できる武器とではそれだけ扱い方も違うのだ。
なのでこの対物擲弾投射機は集団戦闘が起こった際の切り札として使用する扱いになるだろう。
もう一方のブランダーバスは、この対物擲弾投射機より扱いやすいので新兵向きとも言える。
「……で、既存の古い銃を解体し、部品を新調し銃身を短くしてから銃口を広げたこの銃がブランダーバスなんだね?」
「はい、主に狩猟向けに作られている銃でございます。前国王陛下も鹿狩りの際にご使用なさっておりました」
「ほぅ、爺さんがねぇ……確かに、これだけ銃口が広ければ弾も拡散するし、狩猟用を軍用に転換する事も容易だしね。実際にマスケット銃よりもこっちのブランダーバスのほうが拡散性と火力にも優れているからね。城内戦闘など近接戦闘になればなるほどこの銃の有効性は高まるだろう」
「仰る通りです。近接戦闘ではこの銃に勝るものはありません」
もう一方の武器であるブランダーバスは、現代におけるショットガンの前身ともいえる銃であり、銃口が口を広げたようになっているのが特徴的だ。
マスケット銃が精度を高めている銃であるならば、このブランダーバスは弾丸の拡散性に優れている銃だ。
これらのブランダーバスは対物擲弾投射機と同じように、近接戦闘や見通しの悪い森で使用すると効果的に戦える武器だ。
これらの武器の開発を進めた理由は、市街地戦になった際にマスケット銃よりも取り回しが効き、尚且つ制圧力の高い武器を揃えていたほうが良いと思ったからだ。
フランス革命の際に、大半はパリ市街地で戦闘が勃発したという事もある。
市街地で暴動やテロ攻撃が起こった際に、マスケット銃だけでは制圧力に欠けてしまうし、だからといって大砲をむやみやたらにぶっ放す事も出来ない。
なので、そうした事態になった際には対物擲弾投射機とブランダーバスによる圧倒的な近接火力攻撃を持って制圧することを目指している。
それを実現できる証拠は新大陸からもたらされている。
「ボストンでの反乱も、ブランダーバスが大活躍だったみたいだからね。市街地戦でマスケット銃で編成されたイギリス軍兵士は拡散性に優れているブランダーバスで武装した民兵によって多くが犠牲になっていたよね?」
「はい、軍の工廠や市街地中心部の行政機関の制圧戦に用いられたようです。マスケット銃よりも安価で多くの民兵に行き渡っていたこともあり、近接戦闘に持ち込まれた際にはマスケット銃で武装したイギリス軍の兵士も成すすべなく斃れたそうです」
「市街地戦……特に室内戦闘では拡散性が高い武器ほど強い……」
ブランダーバスの有効性なども立証されているとなれば、新型のブランダーバスの量産を行うのが妥当とも言える。
新型は銃身を短くして、室内や近接戦闘に特化するように改良を施すようにしている。
また、先の戦闘結果を踏まえた上で海軍の護衛装備品として納入も決定している。
「陸軍からは重大な報告は以上です。またブランダーバスは陸軍だけではなく海軍でも導入する事が決定しております。そこでロシャンボー海軍大臣より、海軍における新造艦隊についてのご説明がございます。ロシャンボー大臣、よろしくお願いいたします」
「分かりました。では、次に海軍の報告に参ります」
クロード=ルイからの説明が終わり、それと入れ替わるようにロシャンボー海軍大臣から新造艦隊についての説明が始まったのであった。




