195:お仕事も頑張る
次章でアントワネットが愛したフェルセン君を登場させようと企んでいるので初投稿です
アントワネットとの団欒の食事を済ませたら、俺はそろそろ仕事に行かねばならない。
国王故に仕事は基本的に年中無休だ。
いや、正確に言えば休める日は休めるけど、平日で業務が忙しい場合には休日に会議がずれ込むことがあるのだ。
今日はその会議に出席しなければならないのだ。
勿論休日出勤扱いなので、手当は参加している者たちに支払われる。
一応俺は国家元首だから土日祝日休み関係ないからね。
というか、国民から支持を集めているのは良い事なんだけど、その分俺が政治を引っ張って行かないといけない。
フランス革命を全力で阻止する場合、全力で改革にこの身を捧げないといけないのだ。
愛しのアントワネットとのしばしの別れ(半日程)は辛いが、これも仕事故に行くことを告げる。
「さてと……昼食も済ませたことだし、これから仕事に行ってくるよ」
「本当ですね……夕飯は如何いたしましょうか?」
「そうだね、夕飯時までには戻ってくるよ。もし戻って来なかったら先に夕飯を食べていていいよ」
「分かりました。どうか無理をしないでくださいね?」
「勿論さ、ちゃんとアントワネットとの事を考えて無理はしないよ。ありがとうね~」
「まぁ……ありがとうございます……ちゃんと待っていますからね」
軽ーく頬にキスをしてから席を離れる。
んー、やはり最高すぎるだろコレ。
いってらっしゃいのキスもええけど、やっぱり夫婦って……最高だな!
最近はアントワネットもテレーズを産んでからより一層大人っぽくなってきて……。
なんというか、幾つもの文献でアントワネットは美しかったと言われている理由が分かった気がする。
もうアントワネット無しでは俺の生活は成り立たない。
今日も愛しのアントワネット、そしてテレーズの為に頑張ろうと心にガッツをつけてから大トリアノン宮殿に設置された大会議室に向かう。
大会議室で行う事。
それは、今後のフランスの行動方針を決める為の極めて重要な会議だ。
会議は午後2時から午後7時までを予定している。
国王である俺は国の指導者としてこの会議に参加する義務がある。
さっ、仕事をキチンと済ませてやるべき事をやろう。
キリッと仕事モードに表情を切り替えて大会議室へと足を踏み入れた。
王室で代々と受け継いできた宝石類や東洋の壺など、それなりのインテリアが飾られている。
大会議室なのだが美術品を多く飾っているので少々ハイカラな場所でもある。
「国王陛下がお入りになります!」
大会議室前で待機している守衛が大声で叫ぶ。
ドアを開けて貰うと、見慣れた閣僚たちが起立して頭を下げている。
膝まではつかなくていいようにはしたが、それでも頭を下げて許しを得るまでは下げ続ける。
やはりこうした会議の場でもそうした事は必要不可欠らしい。
決められた席……というか、俺が座る席は既に決まっている。
テーブルに並べられたどの椅子よりも豪勢で、それでいて立派な革で出来ている椅子に座るのだ。
その前に、出席者全員に一言言わないといけない。
「出席ご苦労、全員顔を上げて席に座ってくれ」
席に座ってと言わないと皆座らないのだ。
色々と大変ではあるが、こうして実際にトップになってみると案外すんなりと出来てしまうのだ。
さて、皆の顔を見てみよう。
国土管理局のメンバーだけではなく、軍関係者の姿も多くいる。
そう、この会議では経済・軍事面での今後の進展を決定する重大なものだ。
国家戦略会議というやつでもある。
「これより、今後の経済及び軍事面の方針を定める会議を始める。皆忙しい中、よく集まってくれた事に礼を言う。まだまだ夏真っ只中だ、暑いと会議をしているときでも辛かろう。もし上着を脱ぎたい者がいれば申し出よ。それから、地下で凍らせておいた氷を入れた冷たい水とそば茶を用意した。皆の分を用意したので遠慮なく飲んでくれ」
会議を始める前に、俺は一番上に羽織っていた上着を脱いだ。
大会議室はカーテンを敷いていても日光が丁度背中にダイレクトに当たってしまうので、夏場は凄く暑い。冬は暖かくて気持ちがいいのだが、夏場はマジで辛いと思うぐらいには暑すぎて熱中症になりそうだ。
やはり暑いので服を脱ぐ、勿論一番上に羽織っている上着なので問題ない。
上半身全ての服を脱いだら流石にアレだが、これならルール違反にもならない。
夏用の服も幾つか持ち合わせているとはいえ、部屋の外では上着を着て歩くのは王室のしきたりなのでちょっと辛い。
それにこれだけ暑いと、どうしても夏場は水分補給が大事だ。
そば茶はルチンが入っているから血圧を下げるし、何よりも身体に良い。
この時期はそばの収穫時期でもあるので、旬なお茶でもあるわけだ。
ホントはざるそばを食べたいのだが、このフランスではそば粉をクレープみたいにして肉や焼き魚を包むガレットという方法で食べられているので、麺類として食されていない。
それでいて、日本と貿易を結んでいないのでそばつゆの製造方法が分からないので、今はそば茶で辛抱だ……。
俺がそば茶を飲むと、周りもそれにつられて飲み始める。
「どれ、ちょっと暑いから早速そば茶を一杯貰おうか……やはり夏場はこうした氷で澄んだ地下水で淹れたそば茶をゆっくりと飲むのが一番気持ちがいいんだよね。そう思わないかいクロード=ルイ大臣」
「はい、ヴェルサイユの水はとても美味です。口の中に入れるだけで私も元気になりそうです。それに……ほんの少しだけしょっぱいような気がしますが……塩を入れているのですか?」
「ハハハッ、鋭いね。その通りだ!プロバンス地方で採れた岩塩を少々加えるように命じている。暑さで身体がやられてしまわないようにする為に入れているんだ」
「暑さ対策というわけですね……」
「そうだ、先月の陸軍士官でテストした結果でもあったように、只の水を飲ませた兵士よりも塩を少し入れた水を飲んだ兵士のほうが運動した後にバテずに結果良好であっただろう?」
「ええ、あの結果には驚きました……塩をほんの少しでも入れた方が良い結果になるとは思いませんでした……」
この時代はまだ夏場の気温が現代に比べて2度ほど低かったこともあり、真夏日が一週間続いて起こることはあまりない。
それでも熱中症と思われる症状を出して倒れる兵士や囚人がチラホラいるという話を聞いて、塩分入りのお茶や水を軍や刑務所にいる労働刑に処せられている受刑者に処方させたら、熱中症で倒れる兵士や囚人がグンと減ったんだ。
ちょっとした熱中症対策だったのだが、これの効果が証明されたので大々的にウケてあれよあれよという間に実施されることになった。
沢山汗を流す野外の作業場にいる土木工事関係者などからは、夏バテ防止にとっても良いとお墨付きまで貰ってしまう。
そうした甲斐もあってか、岩塩を使ったスープや飲み物販売の売上が好調らしい。
因みにそうした塩分摂取はいいが、取り過ぎたりビールやワインなどのアルコール飲料を飲み過ぎると逆に臓器に負荷を掛けてしまうので程々にするように釘だけは刺しておいた。
「うん、このそば茶も苦味がありますがまろやかで飲みやすいですね」
「ええ、私はこのそば茶を飲んでから身体の調子が良くなりましたよ」
「それは良かったなネッケル、最初俺と会ったときに比べたらだいぶ顔色も良くなっている感じがするぞ」
「はい、ありがとうございます。それに陛下が痩せた土地でも育つそばの栽培を大々的に推奨されてから、山岳地帯を中心にそば栽培が広がっております。草木灰を活用した肥料方法によって大麦の生産も拡充しておりますので、前年比で15%の穀物の生産量増加と合わせて地域の雇用も伸びております」
「おお、雇用も良くなっているのか……それは大変結構な事だ。経済状況を示す報告書を見せてもらってもいいかな?」
「はい、報告書の詳細はこちらにございます」
……と、こんな感じで最初は堅苦しくなく和やかな空気で少しずつ会議を進めさせていく。
あまり緊張していると疲れてしまうもの。
このぐらいが丁度いい、悲報だったり宣戦布告されたとかそうした重々しい事態以外の時は、リラックスしながら仕事をするのが一番身体にも精神的にも良いのだから。
まずハウザーから渡された報告書を読みながら、経済状況について語ることにした。
「皆にも報告書は渡ったな?では、経済状況について詳しく報告を頼む。ハウザー財務長官」
「はっ、こちらの報告書にも記載致しましたが、今年の上半期までの経済成長率は前年比と比べて7.4%上昇致しました。フランスの市場経済は去年の同じ時期に比べて1.2%上昇しましたので、フランス史においても類を見ない安定した好景気が続いております。さらに去年の1773年度から順次稼働を始めた各種工場に関する今年の上半期までの収益は、想定よりも5~20%程上がっておりました。全体で9.6%の収益の上方修正となります」
「市場経済は好景気……それでいて工場稼働による収益も約1割アップか……これはヴェルサイユやパリだけではなく、フランス全体で景気が良くなっていると認識して問題ないのだな?」
「はい、その認識で間違いございません。これも陛下が推し進めて下さったブルボンの改革の賜物であります。私もこの報告書を作っている時、これ程までに改革の効力が強いものだとは良い意味で想定外でございました」
「ああ、正直俺もビックリしているよ……自分で改革案練っておいて言うのも何だがな……それにしても凄まじい……」
経済状況の指標を示す数字が並んでいる。
コンドルセ侯爵が定義していた視覚化された各経済状況を示す数値を使った報告書では、1770年から1774年6月末までの状況がグラフ化されており、誰の目から見ても明らかと言ってもいいほどに経済状況は良くなっていた。
国庫に至っては支出のしすぎで穴があったら入りたいほどに赤字まみれだった状態が、今では政治の健全化やろくでもない貴族・聖職者を追放したりした事で、支出よりも収入のほうが圧倒的に多くなっている。
このままの調子でいけば10年ぐらいでルイ15世が沢山抱え込んだ負債をチャラにできるだろう。
あの爺さんホント負債残し過ぎだ!全く……色男だったけど、金に関しては完全にダメでしたね。
1770年……俺が転生した年の上半期は控え目に言って国庫は火の車の状態だったし、経済状況も芳しくなかった。
ブルボンの改革をルイ15世から国王代理の権限を貰ってから着手して、ようやく4年目で実を結んで成果として現れている。
しみじみと実感しながらも、今後の経済活動に関するハウザーの説明を聞いていたのであった。




