188:アメリカ独立戦争
「……で、新大陸のイギリス植民地で大規模な反乱が発生したのか?」
「はい、分かっているだけでもマサチューセッツやケベックで大規模な反乱が発生した模様です。反乱を起こしているのは市民たちのようでして……イギリスの度重なる重課税に耐えられなくなって暴発した事が原因かと思います」
国土管理局内にて、新大陸方面の情報収集を行っていた職員が俺を含めた幹部一同に説明を行っていた。
1774年7月4日の早朝、マサチューセッツのボストン近郊でイギリス軍の兵士が巡回中に暴動を引き起こした犯人を匿っているとして、酪農家の家を強制捜査した際に家の主人が抵抗したために捕縛し、馬に引きずられるように連行している途中に武装した市民と銃撃戦になった事が反乱の発端らしい。
どちらが先に発砲したのかまでは不明だが、この事件によって新大陸において以前から着々と準備をしていた武装した市民で編成された民兵組織とイギリス軍が戦闘状態に陥り、ボストンやケベックは既に民兵によって占拠され、都市にいたイギリス軍は撃破されてしまい制圧されたようだ。
もう一度確認の為に言う。
民兵によってボストン、ケベックに展開していたイギリス軍主力部隊は壊滅。
指揮官たちは味方の安全地帯に退避して行ったという。
指揮官たちがいなくなったイギリス軍は烏合の衆でしかなく、援軍要請もままならない状態となり最終的に民兵に降伏したらしい。
同時多発的に起こしたとなれば、対処も困難だっただろう。
イギリス軍の兵士が少しだけ気の毒に思えてきた。
「民兵によって都市部は占拠されてしまったのか?」
「はい、ウィリアム・ハウ将軍などが率いていたイギリス軍は突発的な奇襲攻撃によって兵力の大部分を喪失したものと推測されます。現在新大陸の各地で起こっている反乱を鎮圧させる為に砦に立てこもって本国から増援を要請しているそうです」
「都市部が占拠されたとなれば、そうするしかないだろうね。しかし、ケベックも占拠されてしまうとは……あの辺りはフランス系の人も多いだろうに……」
ケベックは元々フランスの植民地だった場所だけに、フランスも多かれ少なかれ事に関わってしまうのだ。
元々新大陸においてフランスは多くの植民地を保有していた。
その中でもケベックは多くのフランス人系住民がいる事でも知られているのと同時に、ケベックではフランス語が公共語として存続している。
ケベックには政争に敗れて逃げてきたフランス人などが移住しているらしいが、いずれにしても今回の暴発はアメリカ独立戦争へのトリガーである事には違いない。
ただでさえ厄介な問題だというのに、イギリスは現地の減税措置などを講じるばかりか、むしろボストン暴動事件をきっかけに更なる強制措置を伴う手段に締め付けを強化しまくっていたらしい。
嗜好品である酒やタバコなどをイギリス本国から使用規制制限が行われてしまい、バーなどで提供される酒の価格はここ数か月だけで3倍以上にも達しているという。
また、各種税制も増税を繰り返しており、イギリス側が税金を巻き上げて不満を持った者達を焚きつけているとしか思えない行動を取っているんだよね。
暴動が起きれば起こるほど税を上げたり、暴動を起こした人物だけでなく参加者を捕まえたら即日裁判で裁判を行って死刑判決を出して絞首刑を行ったりと、恐怖を植え付けるつもりでやったらかえって民衆がより反イギリス感情を剥き出しにしてブチ切れるという状態だ。
「……うん、こんなやり方をすれば民衆は民兵の味方になってしまうわな……なぜイギリス側はここまでして強硬な対応をしているんだね?」
「恐らくですが……各植民地において自治区宣言がなされたことが大きいかと思います。直接統治ではなく自治区による間接統治を望む植民地政府がイギリスに対して植民地といえど、自治は有していると反発していました……」
「たしかジョージ3世だろう?彼はかなり植民地に対しては強硬姿勢を取る事で有名だからね……それも相まって人々は離反し、市民が武器を手に取って反乱を起こしたと……」
「それでもジョージ3世の命令は絶対ですから、駐留しているイギリス軍も命令に従って処刑などを行っていた筈です。いずれにしても最近ではジョージ3世の強硬姿勢が根本的な原因であると見ています」
イギリスの現在の王様はジョージ3世だ。
このジョージ3世は国民からの人気も高かった王様なのだが、彼は先天性の病を抱えていたと言われている。
今日のドラキュラ伝説のモデルにもなった病……日光を浴びると皮膚が焼けたように荒れてしまい、肝不全などの症状を引き起こすポルフィリン病を患っていたのではないかとされている。
あるいは、人一倍国をより良くしようと努力するあまり躁病状態になっているのかもしれない。
ジョージ3世は質素倹約で生真面目な性格であったと言われているが、七年戦争時には内閣を纏めるのにかなり苦労を強いる事になったという。
ここ最近の新大陸植民地の猛反発によって、彼の指揮コントロールに不調が来されて、感情的な行動に出ている可能性が高い。
なので、職員にジョージ3世の健康不安説を取り上げてそのような噂が流れていないか尋ねた。
「ここ数年以内で……ジョージ3世が病を患っているという噂は聞かないのか?もしくは感情が不安定になっているとか……」
「はっ、去年の12月頃から今年の3月頃までは頭痛や暴言が酷くなったという噂がロンドンで流れております。いずれもイギリス政府は噂を否定しておりますが……ここ半年の間にイギリスではジョージ3世の推薦を受けていた議員やノース首相に近い官僚からは、その噂が真実であるとデオン氏から報告が上がっております」
「うむ……もしかしたらジョージ3世は心の病を患っているかもしれないな……引き続きジョージ3世の調査を行ってくれ。もしかしたらかなりデカい山場になるかもしれないぞ。イギリスのデオン氏には引き続き調査を命じておきなさい」
ジョージ3世が仮にそうした心の病を患っていた場合。
国王の独断で、もしくはノース首相に制止されてもなるべく意見を修正されないように植民地への抑圧的な行動を強引に進めていたのだろう。
であればここ最近のアメリカでの動乱も納得いく。
さらに言えば、ノース首相も植民地への強硬的姿勢を強めている事でも有名なので、恐らくはジョージ3世が推し進めていた対新大陸植民地政策に、強引な方法で対処する事を進言したのかもしれない。
「いずれにしても、今回の新大陸での暴動……いや、反乱によってイギリスは大西洋を渡って鎮圧しなければならない事態になったな。複数の都市が占拠されたとなれば新大陸で起こった民兵組織の反乱規模はかなり大きいみたいだし、新大陸方面の諜報収集は当面の間……最優先事項として扱おう、皆もそれで構わないか?」
「はい、陛下の仰せの通りに……」
「ハウザー、新大陸方面の諜報員を増員することは可能か?」
「はっ、それに関しては可能でございます。しかしながら……戦闘が長期化すれば潜入も難しくなるでしょう。イギリス海軍の臨検も厳しくなる事が予想されますから、今のうちに新大陸方面の都市部に諜報員を潜入させておくのが得策かと思います」
「では、遅くても来月の後半までには諜報員を新大陸方面に派遣しよう。民間企業に偽装したダミー会社を経由して食料品・医薬品の類を販売する。勿論、現地において戦端を開いたりするのはこれまで通り御法度とする。重要な情報提供者や協力者については万が一の時は匿ってやるように……それで異存はないな?」
誰からも異存は挙がらなかったので、基本的な諜報方針はこれで決定した。
一つはイギリスの政府中枢を探り、ジョージ3世ないしノース首相の動向を逐一探る事。
もう一つは植民地……アメリカで反乱を起こした民兵組織の調査と諜報を進めることであった。
史実ではケベックが反乱を起こした記録はないし、アメリカ大陸北部を制圧しようとしたもののアメリカ側の作戦ミスと攻勢限界によって失敗に終わっている。
諜報に関してはこれまで以上に新大陸方面に注視する事となったのだ。
「さて、これで方針は取り決めたし……後はやるべき事をするだけだな……」
「陛下!王妃様が……」
「どうした?何かあったのか?」
「たった今、王妃様が破水をなさったそうです……ランバル公妃が直ぐにお伝えするようにとの事で……」
「分かった、今すぐ行こうか……」
会議も終わり、再び執務室での作業を再開している最中に、アントワネットが破水したとの知らせが舞い込んできた。
やはり仕事は早々進みそうにないなコレは……アントワネットが破水したとなれば出産が近いんだ。
執務を中断し、急いで俺はアントワネットの元に駆け付けたのであった。




