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178:BNR-33 V-Spec

★ ★ ★


同日 ブルボン宮殿 高等職員待機所


待機所でオーギュストやアントワネットの衣装やスピーチの最終調整が行われているが、職員たちも例外ではない。

調整をしているのは裏方仕事の職員だけではなく、王国……ひいては国王であるルイ16世の安全を守る国土管理局の職員たちも動員しているのだ。

その中でも、ブルボン宮殿の護衛・警備を一任されたジョセフ・サン・ジョルジュは問題の解決に向けて部下に指示を出していた。


「一般参加者の数は予想よりも多い。だが、参加者の身分証明書の確認と宮殿への持ち込みが禁止されているものを持ちこませないように厳重にチェックを怠るなよ……」

「室長!宮殿前の広場に集まっている一般参加者の収容は如何致しますか?」

「……流石に万人単位を収容できるわけじゃないからな。例によって陛下から申し付けられた通りに抽選方式に切り替えるように伝達を入れるように」

「では、抽選に落ちた人には粗品や次回入場ができるように優遇券の配布を行うように手配いたします」

「そうしてくれ」


国王陛下と王妃を守る為に、国土管理局管轄下の内国特務捜査室が中心となって警備を任されている。

ボストン暴動事件の犯人捜しの際にはイギリスと協力していた関係もあってか、彼らの捜査のやり方は王国の管轄下にある組織でも一番のやり方で行うという。

その長に納まっているのが、ジョセフ・サン・ジョルジュであった。


サン=ドマングで発生した大命叛逆事件での解決を評価され、表向きは国勢調査に携わる国土管理局の契約職員という肩書で雇われていると世間一般で言われているが……実際にはスパイ・諜報機関としての国土管理局の歯車でも、王国内部の捜査を任されている内国特務捜査室の室長に任命されているのだ。

まだ29歳という若さで室長クラスに就けたのは、彼の潜伏的な作戦指揮能力を見越したルイ16世からの直々の採用という事もあるが、一番の理由は肌や身分を区分する事なく能力・実力で採用する事になったのが主な要因である。


『……改革で必要な事は、その実効性を国内外に強く示すことだ。……容姿や肌の色合いで全ての物事を決めるのは愚かな行いだ。私はそのような風習や偏見をこの国から無くすように努力したいと願っている。ジョセフ・サン・ジョルジュ……君にはこの意味がよく解っている筈だ』


国土管理局にスカウトされ、サン=ドマングでの任務を終えてルイ16世から表彰状を手渡された際に、対面で語られた内容である。

混血ムラートであったジョセフは、フランス本国に赴いた際に肌の事で揶揄われたり、人々から中傷の類の行いをされてきたのだ。

それらを跳ね除けてオーケストラのメンバーにまで昇り詰めて、それなりの地位を勝ち取ったジョセフだが、有名な歌手から偏見などを理由に演奏を取りやめになるなど不遇な境遇に立たされていたこともあったのだ。


『君は立派な目をしている……そう、私よりも立派で力強い目だ。どんなに辛い日々も跳ね除けて今日まで頑張ってきた事だろう。それだけの心の強さがあるならば、この改革で必要な障壁を壊してくれる一種の起爆剤としてより大きな地位に就かせたいと考えているんだ』


起爆剤……それがジョセフをはじめとしたムラートやプロテスタント、ユダヤ人などを政府の重役に正式に配属させる事であった。

国内外で宗教や人種に関係なく有能な人物をスカウトし、政府の中枢に取り入れるスタイルは周辺諸国を驚愕させたのである。


特に、ルイ14世の統治時代にフォンテーヌブローの勅命によってプロテスタント派が迫害を受け、技術者を中心に諸外国に流出させてしまった手痛い経験を基に、国王が自ら偏見を捨てて対応した事で国内に残留していた数少ないプロテスタント派の住民は勿論のこと、プロイセン王国やオランダ、イギリスに亡命したプロテスタント派のフランス系市民から歓迎されたのである。


『ルイ14世はフランスを欧州の大国にのし上げた功績者だが、同時に国内のプロテスタント派……ユグノーを迫害した事で、国内の主力産業を衰退させてしまった事もまた事実である。私は国王として、正式に迫害を受けたユグノーの人々にこの場をお借りして謝罪したい。また、フランスから諸外国に亡命した人々の子孫については、フランスに戻る意思があれば何時でも戻ってきて構わない』


1773年10月に掲載されたフランスの新聞では、プロテスタント派を迫害するきっかけになったフォンテーヌブローの勅命を国王自ら謝罪し、今後は「対立」ではなく「共存共栄」の道を模索すると宣言した事で、フランスへの帰国者などを支援する組織を立ち上げたりもしている。


そしてブルボンの改革という異名に因んでか、このブルボン宮殿で行われる見本市も、欧州諸国との融和ムードを演出させる目的の一つでもあった。

何よりも運営の警備責任者としてジョセフを就かせたのも、フランスが改革によって開かれた国家として世界に向けてPRする事は国家戦略の一つとして用いられているのであった。


ジョセフからしてみれば、音楽関係の仕事を本業としていながらも、こうして警備の責任者として仕事を行うことに対して胸の高鳴りを感じていた。

以前まではムラートである自分に対してネガティブな感情を押し殺して仕事などをしていたが、ルイ16世のブルボンの改革によって、周囲の環境が良くなっていっているのを目の当たりにしている。


(本当に……あの御方は行うことが大胆だが、同時に凄腕でもあるな……)


国土管理局のメンバーになって以来、ジョセフはルイ16世に関連する資料や話を上司や同僚と行う事があるが、その中でもブルボンの改革草案がルイ16世一人で行ったものである事を知って驚愕した。

当時、まだルイ16世は王太子でありルイ15世が存命の時に草案を練り、国土管理局の創設者の一人であるハウザーなどを集めて改革案を提示した事実。

ジョセフはルイ16世がそれまで噂などで言われていた内気で無口な人物という認識を改めて、改革の為に常に知略を練っている名君という認識になっていた。


「陛下も本当に色々とご苦労をなされている。俺たちが迅速な対応で行動して、何かあった時には陛下や王妃様を身を挺して守らねばならない。それが俺たちの役割だ」

「ええ、陛下は我々フランスにとって希望の星です。王妃様も陛下を献身的に支えて下さっておりますし……とにかく、警戒すべきは例の連中ですかね?」

「ああ、カトリックの中でもロアン枢機卿に通じていた者達……いわば”教会の残骸”と称されている掃き溜め連中だ。その中でもロアン枢機卿を通じて武器・兵器の密売に関わっていた実行者の部下がパリの教会で保護されていた以上、警戒せねばなるまい」

「係員や職員には怪しい人物や関係者以外立ち入り禁止の場所に入った者は拘束するように改めて指示を徹底させます」


教会の残骸……それは、ロアン枢機卿と親しかった……もしくは部下のような扱いを受けていた司祭や神父などの聖職者が、武器密造・密輸に関連して信者の女性に対して性的暴行を働いていた事が露呈した事で、加害者側に付けられた蔑称である。

カトリック側も必死に弁明をしている上に、捜査に協力してくれているのは事実だが、それでもロアン枢機卿はフランス国内でそれなりの宗教的影響力のあった人物だったこともあり、彼の関係者を匿う動きが見られたのだ。


これによってロアン枢機卿に親しかった関係者の逮捕がロアン枢機卿が逮捕されて2か月間の間に、実に50名以上に及んでいるのである。

さらに彼らの中には未成年者に対して性的暴行を行える違法風俗施設を経営していた事が発覚し、それらの施設運用隠しの為に教会を経由して寄付金という形で上納していたり、身寄りがなく教会側で匿われた子供たちをそうした施設で働かすなどの外道な行いをしていた事で、フランス国内では教会に対する不信感が現れになっているのだ。

関係者の大部分は逮捕されたが、まだ憲兵隊などの捜査を免れて市街に潜伏した者が数名いることが判明している、故にジョセフら国土管理局の職員たちは緊張感を持って、この警備の任に付いていたのであった……。

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