表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/1065

175:とびきり良いドレスを頼む、無論オーストリア製のやつを……

ルンルン気分で本日開かれる見本市の見取り図を見ながら、デスクに座って考えていると何やら柔らかい感触を後ろから感じ取った……。

ひょいと真横に現れて一緒に見取り図を見ているのは薄い寝間着を身につけているアントワネットである。

やはり自分達が一から考案した服飾見本市の出来栄えが気になるのか、まだ朝の4時だというのに何をしているんだい?

まぁ、この時間に起きて見取り図を眺めている自分も大概だけどネ。


じーっ……。

ジーッ……。


沈黙のまま、俺とアントワネットは見取り図を眺めている。

言葉は発さない。

ただ、眺めている。

何か一言声を掛けるべきなのかもしれないが、どのように声を掛けてみればいいのだろうか?


(おはよう!アントワネット!素敵な朝日だね!)


……だめだ、まだ朝日どころか夜が明けてねぇ!

周囲は薄暗いわ!

蝋燭必須だよこの暗さは……。

夜勤として巡回警備に当たっている守衛兵の足音が時折聞こえる程度だ。

朝の4時という事もあって、辺りは寝静まっている。

凄く静かだ……部屋が広くて静かだとちょっと怖くなるのは俺だけだろうか?

しばらく見取り図を眺めていると、アントワネットはくすりと笑って俺に尋ねた。


「……ふふっ、寝れないのですか?」

「まあね……何といってもこうして色々と指示を出して俺たちが主催となって見本市を開くのは初めての事だからね。どこかミスが無いかとか心配になっちゃってね。今最終確認をしている所さ……」

「オーギュスト様は本当に真面目ですねぇ……でも、まだ起きるのには早すぎる時間ですよ?」

「そうだね……今日は午前8時頃に起きる予定だったからね……」


あと4時間……このまま起きているつもりは無かったが、アントワネットから寝た方がいいと言われてしまう。

まぁ、部屋の灯りを付けて見取り図を眺めていたら心配されるよね。

おっといかんいかん、これではまた女大公陛下に怒られてしまう。


「もう少しベッドで寝ていましょう。さぁ、こちらに……」

「うん、そうだね……ごめんね、直ぐベッドに戻るから」

「ええ、待っておりますわ……」


ベッドに戻ってアントワネットと共に素直に寝る事にした。

あとアントワネット……色気のある声でベッドに誘うのは凄く魅力的だけど、これから寝て見本市を取り仕切ることを考えたら夜戦している余裕は無いよ。

体力的には大丈夫かもしれないが、色々と大変なことになりそうなので目をつぶってみる。

隣にはアントワネット、寝るときはいつも一緒だ。

目を閉じて寝れば問題ない……問題ない……大丈夫だ、問題ない。


……いや、やはり眠れないなぁ。

やはり、こうしたビッグイベントを自分で企画・開催するとなると、緊張して眠れないんだ。

それに合わせるように、ワクワクする感じも沸き起こっているのも事実だ。

身分関係なく服飾に関する見本市で見たり、着たりする事が出来る画期的なシステム。

東京で毎年開かれている自動車のモーターショーみたいな感じになりそうだ。

きっと同人誌即売会を開いた主催者も最初はこんな気持ちでイベント運営に挑んでいたのかもしれない。

あれこれベッドの中でも考え事をしていると、アントワネットが声を掛けてきた。


「あの……オーギュスト様?」

「うん?」

「一つ……お願いがあるのですが……よろしいでしょうか?」

「ああ、どうしたんだい?」

「今日から行われる見本市ですが……オーストリア製のドレスを購入してもよろしいでしょうか?」

「オーストリア製のドレスをかい?」


意外なことに、アントワネットからオーストリア製のドレスを買ってもいいかと聞かれたのだ。

予想外の事だったが、俺としては全然問題ないし、むしろ気に入ったのがあれば数着ぐらい買っても問題ない。

俺は購入しても大丈夫だと伝えた。


「ドレスならアントワネットが気に入った物を買ってもいいよ」

「本当ですか!ありがとうございます!私、楽しみです!実は私も今日の見本市が気になって眠れなかったのです……」

「なんだ、アントワネットも気になっていたのか」

「ええ……母国(オーストリア)からも有名な服飾店が出店をするみたいなので……その、オーストリアの物を購入したくて……」

「……そうか、オーストリア製のドレスは俺も見てみたいと思っていたんだ。隣国のファッション事情とかも聞きたいし、何よりもきっとアントワネットが着て一番似合うようなドレスが見つかるよ……だから一緒に見てまわろう!」

「……はい!」


アントワネットは嬉しそうな顔をしているけど、その裏には辛い思いでがあるのは知っているぞ俺。

なぜオーストリア製のドレスにこだわっているのか?

それは、彼女がフランスに嫁ぐことになった際に、フランス領のストラスブールで身につけていたドレスや首飾りなどをすべて脱がされた事が原因なんじゃないかと俺は思っている。


この場面は某フランス革命を取り扱った漫画でも描かれているけど、オーストリアとの関係を絶ったと示す為にテレジア女大公陛下が送った金時計以外は全てオーストリアからフランスに持ちこむことを禁止されていたのだ。

どのくらい厳しかったのかというと、指輪や十字架や首飾り……果ては下着まで脱がせるという徹底的なものであった。

引き渡される前に、そうしたものを全て脱いでフランスから贈られた衣服や衣装に変えたのだという。


この時にアントワネットは金時計を強く握りしめて身につけていた衣装や首飾りなどが引き離されるのを耐えていた。

フランスへの引き渡しが完了するのと同時に、アントワネットは旅の疲れやオーストリアの王族ではなくなった喪失感、屈辱感などが一気に湧き出てその場で泣き出したという記述がチラホラ見受けられる。


そりゃそうだ。

思い出などが詰まった十字架の首飾りとか、亡き父親からプレゼントされたペンダントなんかも置いていかないといけない決まりだったのだ。

家族との思い出もテレジア女大公陛下が贈ってくれた金時計以外引き離さなければならないとなれば辛いだろう。


(やはりここは……アントワネットと一緒にオーストリアの出店ブースを中心に見て回ったほうが無難にいいかな……そのほうがアントワネットが一番楽しめるだろうし、何よりも母国の人に触れあえる機会でもあるからね)


彼女のふるさとであり、今や同盟国であるオーストリアの異国情緒を衣装を通して味わうのもオツな物だろう。

この時代にあるかどうかは分からないが、オーストリア近辺で有名な衣装といえば農村部出身の女性が身につけていたディアンドルなどが有名かな?

メイド服の派生版みたいな感じの衣装で、中々可愛らしい衣装だったなぁ……。

ただディアンドルなどは庶民層向けの衣装だから、アントワネットが着るのは……いやまて、試験農園の作業着としてディアンドル採用するのも悪くないな……。

比較的シンプルなデザインである事と、利便性、運動性に優れているってどこかの記事で読んだことがあるゾ。


(でも庶民層向けの服でも王族関係者が身につければ……彼らへの印象は変わるのかな?)


よくよく考えれば、ヨーロッパの王族関係者が私服姿で出歩く際には必ず整った衣装が多かったな。

王族がTシャツ姿で出歩いているのって見た事ないぞ。

うーん、別に庶民層向けの服を着ても問題はないと思うが、公の場でそうした服を着ているのは色々と大変な事になってしまうかもしれない。

だから公の場ではなく、私的な場ではそうした服を着るのもいいかな程度にとどめておこう。

今の間はね。


とりあえず、今日の見本市ではアントワネットの希望も兼ねてオーストリアの出店エリアを中心に見てまわろう。

それでいて、彼女が気に入って欲しいと言ったドレスは買ってあげようと思う。

フフフ……ドレス一着1万リーブルとか高すぎない限りは、彼女の要望に応えておくべきだろう。

女性はいつだってファッションとスイーツが恋しいものだ……それはアントワネットとて例外ではないし、むしろアントワネットのほうがそうしたものにかなり敏感なので女子力は高いと思う。

ベッドで手を握り、興奮を抑えて早く8時にならないかと願いつつ、反対にずっとアントワネットと一緒にこのままの状態でくっついている時間が続いてほしいと思う気持ちの板挟みになるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

☆2020年9月15日に一二三書房様のレーベル、サーガフォレスト様より第一巻が発売されます。下記の書報詳細ページを経由してアマゾン予約ページにいけます☆

書報詳細ページ

― 新着の感想 ―
[良い点] 転生系でファッションがテーマと一つとなっているものは見当たらず、斬新です。 以前にも書きましたが、マリーをコルセットから解放してあげてください。そして、ブラジャーを開発すれば、当時の女性は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ