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171:改革が実る頃

Googleで「ルイ16世」と検索すると2ページ目で本小説がヒットするようになったので初投稿です。

★ ★ ★


陛下が日本の歴史について説明を終えた後、様々な人達が集まって日本などの東アジア地域への貿易品に関する話題を話し合う機会が訪れました。

人だかりが出来て陛下も大人気です。

てんやわんやしておりましたが、最終的には陛下が自ら出向いてお話をお伺いすることになりました。


「陛下!是非ともお話をお聞かせください!」

「お願い致します!」

「ああ、分かった。アントワネット、コンドルセ侯爵、また少々失礼して話をしてくるよ」

「はい!」


フランス主導の東アジア地域への貿易確保……。

オーギュスト様がそう仰った時、親睦会に参列していた人々は固唾を飲んでその方針を聞いておりました。

欧州諸国間での貿易も大事ですが、東アジア地域は殆ど重要視されていない地域なので、これらの地域に貿易港や活動拠点を設置する事を年内までに決定するようです。

既に改革派の中でも財政長官のネッケル氏や補佐官のハウザー氏など一部の方々にはお伝えしていた話題です。

そして私とコンドルセ侯爵はたった今、その具体的な内容を知る事になったのです。

その内容を聞いていたコンドルセ侯爵は頷いて呟きました。


「……陛下はイギリスが弱っている時期を狙いましたな……」

「えっ、そうなのですか?コンドルセ侯爵……」

「はい……今イギリスは新大陸での暴動に対処している最中です。この暴動が内乱となれば必然的に新大陸方面に注意をしなければならなくなります。つまり、陛下が年内に日本などの東アジア地域に進出する事は、我が国最大のライバルであるイギリスを出し抜くチャンスだと見ているのです」


コンドルセ侯爵は統計経済学や政治学に詳しいお人です。

つまり経済的にも政治的にもチャンスが到来した為に、フランスが大々的に進出をする事を宣言するというのです。

その宣言の意味合いは大きいものになるだろうとコンドルセ侯爵は睨んでおります。


「我が国とイギリスとの関係は最近は良好といっていいでしょう。共同捜査によって順調に運んでおります……つまりイギリスとは外交的には手を握っている状態で、その裏をかいているのでしょう」

「イギリスの思惑をすり抜けるような形という事ですね」

「ええ、まさにその通りです。勿論、暴動事件にフランス国内の犯罪組織が関わっていた事は痛手ですが、イギリスとの関係強化に繋がったのであれば、むしろプラスになったとみてもいいでしょう。損をした事よりもこの教訓で得られた事のほうが大きいかと……」

「つまりはイギリスとの関係を改善するために協力的な姿勢を陛下自ら指導し講じたことにより、戦争回避とイギリスとの連絡係としてデオン氏を起用し、正確な情報の伝達を行った事も要因の一つですね」

「そう言う事です王妃様、陛下は本当に政治だけでなくその裏すらも手綱を握っておられます。無益な戦いを避けて道筋をお建てになる事に長けております。陛下の事ですから、きっと平和をお望みになられているかと思います……。失礼……少々紅茶を一杯頂きます」

「ええ、どうぞ!少し休みましょう」


コンドルセ侯爵はそう言って、再び紅茶を口にしておりました。

少々喋り過ぎて喉が乾いたのかもしれません。

ですが、イギリスと戦争になるよりはずっといいです。

オーギュスト様は戦争を嫌っております。

以前ベッドの中で話した際にも、母上がオーストリア継承戦争の際に陣頭指揮を取ったお話をした際に、かなり厳しい戦いであっただろうと述べた上で、悲しそうな顔をしてこう仰っておりました。


『戦争というのは人や国庫を凄まじい速度で消費していく金食い虫だ……アントワネットのお母さん……テレジア女大公陛下はその状況下で凄まじいプレッシャーと戦いながら和平にこぎ着けたんだよ……きっと内心かなり辛かった筈だ……アントワネット、俺は自分から戦争を仕掛ける真似だけはしないよ』

『オーギュスト様は……戦争の際に語り継がれるお話が御嫌いなのですか?』

『嫌い……というよりも、美談で語られる裏には夥しい数の兵士の屍があるんだよ。敵味方問わず……君主に、国に、愛する家族の為に捧げた兵士達の命が見えるんだ……彼らの死を無意味なものにしてはいけないんだ。だから、仮に戦争が起こったとしても兵士達の事を第一に考えて行動するんだ。一人でも多くの兵士を生きて家族の元に帰還させる。それが軍隊のトップに必要な事なんだ……』


いつになく、オーギュスト様が真剣な表情で語っていたのが印象的でした。

言われてみれば確かにそうです。

貴族や将軍が出てきて派手に戦うお話の裏には、大勢の兵士の皆さんがいるのです。

その大半は平民の人達でしょう。

オーギュスト様は、彼らの事を考えて戦争の事を述べていたのです。

戦争のお話には、必ず犠牲になる兵士がおります。

きっと、その事を君主として忘れないようにしているのかもしれません。


平和……こうして暖かいお茶を飲みながら皆さんが明るい顔をしながら無事に親睦会を開くことが出来る環境の事を言っているのでしょう。

兵士の皆さんも、そのほとんどが平民階級の人です。

平民の人達が国に希望を持てるようになれば、必然的に国を……ひいては国を動かしている王を信頼するでしょう。

オーギュスト様が、そんな信頼できて上に立つお人で本当に良かったと感謝しております。


ポーランドの惨状を見れば如何に信頼が大事な物かを思い知らされました……。

既にポーランドは南部のクラクフ共和国が独立し、北東部はロシア帝国によって併合された状態です。

国内の治安や経済は大混乱しており、既に各地で強引な取り立てに反発した農民による反乱が勃発しているとの事です。

反乱が起きた地域からクラクフ共和国に逃げる人が多く出ているそうですが、もうポーランドが持ち直すのは難しいでしょう。

じきにポーランドはロシアやプロイセンによって併合されるだろうという見方が強まっています。

道を間違えればポーランドのようになるでしょう……そうならないように、私はこれからも勉強や人の話を真剣に聞いて学ぶ必要がありますわ。


お茶を飲み終えたコンドルセ侯爵が戻ってきました。

まだまだ寒い季節ですからね、喉が乾燥してしまうとお辛いですわ。

温かい紅茶を飲み終えたコンドルセ侯爵は活力と喉のうるおいを取り戻し、再び会話を再開いたしました。


「アントワネット様、この前の改革派による経済会談でもお話致しましたが、現在の市場が続くようであればフランスは一世紀ぶりの好景気に到達できる見通しになりそうです」

「好景気……100年ぶりの好景気という事は……ルイ14世陛下のご時勢の時代以来という事でしょうか?」

「その通りでございます。かつてフランスにおいて太陽王として黄金時代を築き上げたルイ14世陛下の統治時代以来です。それに、陛下は開明的であり、同時に様々な改革を行っております……フランスが建国して以来の改革に着手した陛下の成果が今年あたり実る頃かと……」

「改革が実る頃……ですか」


コンドルセ侯爵がこうして興奮したように述べているのも珍しいです。

オーギュスト様がルイ15世陛下から国王代理として任命されたあの時から、ずっと改革一筋にがむしゃらに走ってきているような気がします。

良くも悪くも、それがオーギュスト様に課せられた使命なのかもしれません。


コンドルセ侯爵が述べているように、最近のフランスの経済は好調そのものです。

パリやリヨンではプロテスタントの人達が起こした大型複合商業施設が建設され、連日大賑わいです。

またサン=ドマングでは新しく解放された黒人の方々が建設したプランテーション農園が利益を上げており、人種を問わずフランスでは成功者と言うべき人々が増えております。


以前新聞記者に”成功者についてどう思われますか?”と問われた事があります。

どんな人でもビジネスに成功するチャンスがある事は良い事ですとお答えしましたが、オーギュスト様はこれらの成功例の裏にはその分様々な人達の労働によって培ってきた努力があると語っていました。

人々が改革を願い、その改革をオーギュスト様が率先して行う。

これによって、親睦会ではオーギュスト様の考え方に賛同したりフランスを良い方向に変えようとする人達が集まってきているのです。


(そう思えば……オーギュスト様が願っているのはフランスの繁栄と平和なのですね……)


私はどちらかと言えばオーギュスト様の改革を見守っております。

改革を手伝ってはおりますが、あくまでも私は補佐をしているに過ぎません。

もっと私もオーギュスト様のお役に立ちたい……それでいて、もっと学びたいと思っております。

ですが、今の自分では力不足でもあります。

どうすればもっと役に立てるのでしょうか?

どこかもどかしい気持ちが胸の奥で沸き起こり、そして少しずつですがくすぶっているような気がしております。

このくすぶりが無くなるように、私はもっと精進していかないといけませんね……。

オーギュスト様が帰ってきたのは、それから一時間後の事でした。

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