162:半端的なモノ
本小説が第8回ネット小説大賞:二次選考通過したので初投稿です
大トリアノン宮殿での作業は大いに捗っていた。
ペンもこの通りスイスイ書けるほどだ。
勿論適当にサインしているわけじゃないぞ。
万年筆などは残念ながら発明されていないので羽ペンを使用している。
インクが薄くなってきたなと思ったら付け足してから書かないといけない。
100円ショップで普段よく使っていたボールペンをこの時代に持ちこんだら絶対凄い値段で取引されるんじゃないだろうか。
「それにしても、こうやって三が日からお仕事かぁ…平社員だった時でも三が日は休んでいたんだがな…ま、上に立つ人間になれば早々長期休暇は出来そうにないか…」
新年早々だが、俺は仕事をしている。
新年度の補正予算に関する項目についてサインをしないといけないんだ。
とはいえ、いつもの作業時間に比べたら苦痛という程ではない。
精々3時間程だ。
お正月とはいえ、ヨーロッパって日本みたいに派手に三が日全て休みます!
…という事にはならないんだよね。
むしろクリスマスを祝ってからの新年おめでとう!それじゃあ仕事に行こうか!
…という感じで元旦終わった次の日から仕事がある人の方が圧倒的に多い。
それでも正月序盤というのは人が少ないから仕事量もそれほど多くないのが幸いだ。
午前9時から作業を開始したので、午後にはアントワネットと一緒にお昼ご飯が食べれる予定だった。
温かいコンソメスープにアントワネット特製の高原野菜と生ハムをふんだんに敷き詰めたサンドイッチを挟んで食す。
割とこのぐらいの軽食でお腹がいっぱいになるんだよね。
野菜のシャリシャリとした食感を噛みしめながら食べるサンドイッチ…。
嫁さんお手製のサンドイッチだぞ、羨ましいだろう?
うーん、美味しそうだなと思っていたら午前11時50分になっていた。
「おや、もうそろそろ正午になるな…。ではそろそろ一旦仕事を終えて昼食に…」
「陛下!お仕事中に失礼致します!」
おっと、昼食は食べれそうにないな。
ハウザーがすっ飛んでやって来たぞ。
様子からして何かヤバイことが起こったに違いない。
割とハウザーの顔が焦っているように見えるときはヤバイ状態だって自分でも分かるさ。
何やら紙を握りしめているみたいだけど、一体何が起こったんだ?
「どうしたハウザー、何かあったのか?」
「はい陛下。イギリスの大使であるマンスフィールド伯爵が大至急、陛下と会談をお願いしたいと…」
「大使が?…ボストンの事件について何か言っていたか?」
「いえ、しかしながら無関係ではないように思えます。外交官ではなく陛下にお伺いしたいとおっしゃっているので、余程の事があったかのように思えますが…いかがいたしましょうか?」
「そうだな…とりあえず緊急性が高いものなら会う必要があるな…マンスフィールド伯爵を応接室に通してあげなさい」
「畏まりました」
イギリスの大使が会談申し込みとはな…新年早々ヤバイ事でも起こしちゃったパターンですかな?
嫌だよー!新年早々物騒な案件じゃないかと思うのだが、嫌な予感というのは当たりやすいから困ってしまう。
というよりも、大使が血相変えてお会いしたい案件って…相当ヤバイ事が起こったという事だな。
仮にボストンの事件が絡んでいるとしたら、事件の実行犯の中にフランス人が混じっていましたとかそんな事言いに来るんじゃないか?
もしくは、しばらくの間我が国への内政干渉はお控え頂きたいと言ってくるのだろうか?
イギリスの内情を考えれば、恐らくは植民地の紛争に首突っ込まないでと言うのかもしれない。
まぁ、実際にマンスフィールド伯爵に会って話を聞かないと状況が読み取れないからね。
こういった話ではかなりシビアなものになりそうだと覚悟をしている。
心にゆとりを持たせることは大事だ。
教育のゆとり世代はアカンけどな!
応接室に入るとマンスフィールド伯爵が座っていて、直ぐに起立し俺に詫びていた。
「ルイ16世陛下、新年早々急な会談を申し付けてしまい、誠にすみません…」
「いえ、大丈夫ですよ。英国大使の貴方が会談を申し込みたいと伺うのであれば私は何時でも受け付けておりますので、ささっ、座って下さい」
「ははっ、陛下のご配慮感謝致します…」
まずは挨拶からだ。
いきなり呼び出して何があったのか聞く必要があるが、マンスフィールド伯爵の様子を見るからにあまり良い事ではない事ではないのは確かだ。
悪いことが起こった時に上に報告しなければならない時によくこんな顔をしていたよねという感じの言いづらそうな表情といえばいいだろうか…。
例えるなら教室でふざけていたら花瓶目掛けてボールを直撃させて粉砕させたとか、徹夜をして寝ぼけてエクセルを打ち込んだらおかしい数値のまま出力した状態でプレゼン資料を作ってしまい、会議開始3分前に気づいた時のような…そんな感じのヤバさを感じる。
「早速ですが、本題に入らせていただきます…。実は我が国の植民地であるボストンで大規模な暴動が起こりました…いえ、暴動というよりも戦争と言っても過言ではありません。大勢のイギリス軍人が殺傷され、今現在我が国はこの状況に対処しております」
「…その話は私の方でも耳にしております。かなり切迫しているようですね」
「よくご存じで…その通りです。お恥ずかしながら、我が国としてもこの事態に対処をしておりますが…困った事に予想以上に暴徒側の武器が潤沢なのですよ…」
「武器が潤沢…どういうことです?」
「文字通りの意味合いです。本来であれば植民地だけでなく、我が国でも配備されていない小銃が暴徒側で使用されているのです…」
「…もしや、私に緊急の会談を申し込んだのは、我が国で製造された武器が使われているという事ですか?」
「はい…陛下に決して嘘は申しておりません。ですが、暴徒に対して初期対応した部隊が証拠品として持ち帰った銃火器の中に、フランス軍で採用されているシャルルヴィル・マスケット銃が現に使われておりました。それも、モデル1773であった事が判明しております」
「モデル1773…それは去年のモデルではないか!確かなのかね?その情報は…」
「恐れながら…」
暴徒側がフランス製の最新の武器を使ってイギリス兵を殺傷させた。
その話を聞いて俺は先程の少しばかりの心のゆとりというものが一斉にぶっ飛んだ。
ぶっ飛び過ぎて嘘だと言ってくれと思ったほどだ。
しかし、イギリスの全権大使を担っている伯爵が言っている事を考慮すれば、フランスが暴徒側に手を貸しているのではないかと疑っているという事でもある。
勿論、俺がそんな事承認した覚えはないし、国土管理局内でもアメリカ大陸方面においては現状情報収集のみに徹しているわけで、武装蜂起しろとは言っていない。
国中の武器庫はしっかりと軍が管理しているし、そうした武器の横流しなどについては厳罰をもって厳しく取り締まっている。
なのに最新鋭の武器が流出し、その武器によってボストン茶会事件通り越してボストン暴動事件に発展している。
これは非常に厄介だ。
マンスフィールド伯爵が嘘を言っているようには思えないし、一先ず徹底した調査と武器の流れた経緯を調べ上げないといけない。
サン=ドマングでの反乱騒動はまだフランス領の植民地で発生したが、今度はイギリス領で起こった話だ。
最悪外交関係の悪化でイギリスとの戦争になる可能性もある。
とにかく今はマンスフィールド伯爵とのパイプを構築するべきだろう。
今戦争になったら事業などが水の泡と化してしまうからな。
両国間としてもイギリスとの関係を惜しまない姿勢を伯爵に伝える。
「マンスフィールド伯爵…フランス政府として、そして何よりも国王として誓いますが、貴国の領土である場所に我が国で作られた武器は断じて輸出は致しておりません。我が国としてもそちらで押収したフランス製のマスケット銃を是非とも提示していただけないでしょうか?現在フランスのマスケット銃は各地域ごとに製造工法や部品の取り付け位置が異なる仕様にしているのです。万が一我が国で作られた武器だとすれば、どの地域で作られたものなのか特定することが出来ます。イギリスとの戦争は望んでおりませんし、是非ともマンスフィールド伯爵に情報を提供する用意がある事をここにお約束致します」
「陛下のご配慮に感謝いたします。我々としても、フランスとの戦争は望んでおりませんので、情報は逐一ご報告させていただきます」
「よろしくお願いいたします」
俺とマンスフィールド伯爵は握手を交わして、我が国で製造された武器が密輸されていたのであれば共同で捜査することも協力を惜しまないと約束を交わした。
勿論ながら、武器の密輸という最大限やってはいけないことをしでかした馬鹿者を見つけ出す必要があるわけだ。
そうと決まれば、イギリスにいる外交官にもその事を伝えなければならない。
幸いと言うべきか、イギリスには凄腕で頼りになる国土管理局のメンバーがいる。
彼…いや、彼女に協力を仰ぐとしよう。




