152:王の料理
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ニンジンの収穫を終えると、試験農場で収穫したニンジンを使った料理が振る舞われる。
収穫したばかりのニンジンをふんだんに使った料理なので、参加者も大いに盛り上がっている。
というのも、この料理を作る際に俺やアントワネットも参加しているからだ。
王や王妃が身分を問わずに料理を振る舞うなんて滅多に経験できないことなので、この料理を楽しみにしているそうだ。
野外でブルーシート……ではなく芝生の上に茣蓙のような敷物を敷いて、そこで皆にそば茶などを振る舞わせている間、俺とアントワネットが中心になって料理を作るんだ。
「陛下自ら料理をなさるとは……一体どんな料理が出てくるんだろうか?」
「まさか陛下がお食事をお造りになるとはな……楽しみですな!」
何気にプレッシャーも感じるが、それも悪くない。
手軽に野菜料理を作り、それで国民が新鮮な野菜を食べる習慣が出来ればいいかなと思っているからね。
わりと野菜を食べる人も多いのだが、鮮度や価格の影響で野菜は肉よりも高いんだ。
安価な肉だとカビや腐っているようなものでも市場で売っている状態なので、野菜料理というのは現代と違ってそれなりに社会的地位がある人間でないと食せない位置付けでもある。
なので、国民に色んな野菜を栽培させて食べさせることを薦めているんだ。
国が栽培を推進している野菜を栽培している農場では、3年間税を優遇させて収穫した野菜で納税とし、納めたもの以外は自由に売買してもいい法律の整備を進めている。
農奴を解放した後で、彼らを従業員として雇い入れた領地を中心に、これまでフランスではあまり出回っていなかったジャガイモを普及させることに成功している上に、先行例を出しておけば後は事業者が自分達もやってみようという心意気になるからだ。
何事もまずは経験からというからね。
国全体で食糧危機などが起きた場合には災害救援資金や非常食・備蓄分の麦の放出なども行うようにガイドラインなどを作成し、全国各地で配らせている。
これからフランスの食卓も色とりどりの野菜で賑わうだろう。
さて、いよいよニンジン料理を作るぞ!
アントワネットと一緒に出来る一品料理だ。
アントワネットは先程からすごく興味津々でこちらを見ているので、そろそろ料理作りを始めたほうがいいだろう。
というわけで俺たち夫婦で作るフランス風ニンジン野菜料理をざっくりと解説していく。
といっても簡単な話サラダとおひたしを作るだけだけどね。
まず材料だが……。
言わずもがな、採れたてのニンジンだ。
害虫などの被害に遭っていない野菜を使うのが望ましい。
……が、冷害等によって育成不良になってしまったものでも、明らかにブヨブヨと柔らかいものだったりカビなどで腐食しているようなものでなければ問題ない。
そういったものを無理して食べると消化不良だけでなく、食中毒や大腸炎などを引き起こす原因になってしまうので食べた瞬間に異様に酸っぱいものだったりした場合は食べないように。
給料日前日の時に所持金76円、貯金なしでどうしようかと台所の片隅にあったカビの生えたニンジンを強引にカビ部分をそぎ落として、塩コショウ、からしなどを投入して味を誤魔化して食した際に急性食中毒を引き起こして病院送りになった経験があるので、基本的に勿体ないと思っても食べてはいけない。
「ではまずニンジンをしっかりと水洗いしてから、ブヨブヨになっていたり腐っているのが無いか確認しよう。……そこそこ人数が多いけど、だいたい30本程度あれば問題ないかな」
「これをバケツで水洗いですね……葉っぱの部分はどうします?」
「あー……葉っぱの部分も使うから葉っぱも洗おう。それ、一緒に洗えば手間も減るからね。一気に汚れを落とそう」
アントワネットと一緒にニンジンを洗う。
この間、使用人など普段であれば手伝う人がいるが、基本的に今回は俺たちだけで行う。
参加人数がそれなりに多くいるが、それでも全部で30分とかからないだろう。
二品程度のちょっとしたサラダバーを作るようなものだ。
盛り付けの際に使用人が手伝ってくれる程度で十分だ。
「よし、洗い終わったらそれぞれ料理を分担して作るから手筈通りにお願いできるかい?」
「ええ、構いませんよ!私はニンジンの葉を茹でればいいのですね?」
「そうだ。俺がニンジンを切って葉の部分を渡すから、葉の部分を全部渡したら沸騰したお湯が入っている鍋に入れて欲しい」
「お任せください!それぐらいでしたら私にもできますわ!」
鍋のお湯がこぼれないように、土台でしっかりと固定してから火を焚いておく。
今回は葉っぱも多いので、二回に分けて茹でることにしている。
ちなみにこの鍋はテリーヌと呼ばれているフランス製の土鍋で中世ごろから使用されているものだったりする。
ガスやオール電化ではないので、こうした火を着火するのに時間が掛かるのが少々厄介だなといつもかんじてしまう。
……で、30本分のニンジンの身と葉を切り分けて葉っぱをアントワネットに託し、事前に渡した懐中時計で葉を沸騰した湯に入れてからの時間を計測するようにお願いしてから、俺はニンジンを可能な限り千切りにしている。
サラダといえば千切りだろう。
特にニンジンは苦味があるからな。
丸かじりをするにはマヨネーズやみそが必要だ。
アントワネットがしっかりと時間を測って茹でた葉っぱをトングで取り出してから、水切りを行いヴィネグレットソースをさっとかければ居酒屋でのお通し料理として最適な「ニンジンのおひたし(フランス風味)」が完成した。
ちなみにこのおひたしだが、あまり煮込み過ぎるとすさまじく食感が最悪になるから、長くても2分ぐらいで済ませるのがいいぞ。
「よし、これでこっちの料理は完成だ。あとはニンジン本来の旨味を昇華させる総仕上げといこうじゃないか……アントワネット、この生姜をすりつぶしてくれるかい?このニンジンのおいしさを引き立てる重要な役割をお任せしたい」
「はい!えっと……この棒で潰すのですね?」
「そうそう、それでちょっとずつ押し付けるような感じで……グイッと頼むよ」
そしてスライスしたニンジンにヴィネグレットソースを掛けて、隠しスパイスがてらにアントワネットが一生懸命にすりつぶしてくれた生姜を投入してニンジンサラダの完成だ。
これだけでニンジンを余すことなくほぼすべての部分を使い切った。
同じ野菜から採れて調理したのだが、こうやって見てみるとだいぶ違うなぁと感じる。
転生前にニンジン料理のひと手間いらずでさっと作れるレシピを覚えていて良かったと心の底から実感している。
さて、いよいよここにいる人達に二品の料理を食べさせる時が来た。
どんな反応が返ってくるのか楽しみだ。
作者からのアドバイス:ニンジンの葉ごと売っているお店は少ないと思いますので、農協や自家栽培で採れたニンジンの葉を使って調理するものいいですね。




