150:農業改革
で、今何をしているのか疑問に思っている人がいるかもしれない。
執筆を終えてからアントワネットと一緒にこれから貴重な体験をする予定なんだ。
どんな体験か気になる人もいるだろう。
まず特徴的なのは、俺たちの着ている服装だろう。
単色であり、動きやすく汚れても大丈夫な作業着だ。
作業着を着ていると、普段来ているゴージャスな服よりは動きやすいから個人的にはこのくらいラフな格好でもいいかなと思う。
俺たちはこれから農作業をするんだ。
これも立派な仕事だ。
ここは王立農業試験場として史実でル・アモー……王妃の村落が建設されたであろう場所に、連作障害などを研究したり新しい野菜・果実などの栽培を研究している施設でもある。
フランスでジャガイモを普及させることに情熱を注いだ偉大な農学者、オーギュスタン・パルマンティエを所長に任命させて現在ジャガイモの栽培に取り組んでいる所だ。
丁度今はジャガイモや小麦の収穫時期だが、今は秋に種をまいて冬場に収穫する野菜を植える所だ。
「では、国王陛下、王妃様、こちらに種がありますのでこちらを均等な間隔で置いてください」
「あら、種は地面の中に植えなくていいのかしら?」
「はい、ほうれん草の場合は予め種を撒いてから土を被せるのです」
「まぁ……やはり農作物は育成にも手順がしっかりとあるのですね」
冬場に引き締まった味わいが特徴的で、スープなりおひたしにも最適な野菜であるほうれん草の種まきをしにやって来た。
勿論、俺たちだけではなく改革派の貴族や聖職者も参加している。
言わば自分達の領地でも栽培などをする際に知っておくべき知識として、農業の基礎を勉強しに来ているというわけだ。
貴族も農作業をして農民が行っている仕事を学び、そして品種改良で生み出された新種の野菜や果実を作ることは領地だけでなくフランスの国力を上げるために必要な行為だ。
フランスはヨーロッパでも有数の農業国として栄えている国だ。
工業を発展させていく予定だが、勿論国を支えている農業を疎かにするわけではない。
こうして農作物がどうやって育て上げて、収穫するのか身をもって実感する必要があるわけだ。
史実でも自分で作らせた集落でアントワネットもこうした農作業が好きだったと資料に載っているほどだし、ちょっと誘ってみたら凄く飛びついてきたのよ。
(私も作業に参加してもよろしいのですか?!)
アウトドア派であるアントワネットにとってみれば、こうした農作業をする事が憧れでもあったようだ。
言われてみれば最近はランバル公妃とかルイーズ・マリー夫人と一緒に外出する事もあるからな。
俺もこの農作業で始めて知ったんだが、野菜を育成する際には予め鍬などを使って土をならして草木灰や石灰などで土に肥料を与えないといけない。
でなければ作物が育たないからだ。
「小麦やライ麦で刈り終えた実以外の部分は藁として紐に利用もできます。こうして一度燃やすと灰になりますが、この灰こそが作物を育てる上で欠かせない肥料としても使えるのですよ」
「では、こうした肥料はどのくらい前までに散布すればいいのですの?」
「作物にも差はありますが……今植えているほうれん草などは1週間ほど前に、ニンジンやジャガイモなどは2から3週間前までに土を耕してから肥料を与えると良く育つとイギリスの資料に載っておりました。現に、我が国でもその方式に切り替えてから農作物の収穫量は増えて参りました」
やはりフランス農業を発展させた実力者だけあって、ジャガイモだけではなく農業の知識もかなり蓄えているように見えた。
21世紀の農業ってどんな感じだったか……。
たしかトラクターで土を耕してから農薬とかを散布して、それから植える作業をするんだよなぁ。
こうして手作業で植える作業をしているのも今だけかもしれないし、何というか……こうしてみると如何に機械での農作業が農家にとって革新的なものだったかを身をもって実感するよね。
「小麦、大麦、クローバーだったか……たしかイギリスのノーフォークで実施されている農法を我が国でも導入しているのだな?」
「はい陛下、連作障害を回避するためにその手法を我が国でも行っておりますが、やはり冷害に強い作物のほうがその恩恵を受けやすいと思います」
「うむ、日々農業というのは進化しているからな。これからもっと全国的に肥料を普及させる必要がありそうだ」
「陛下が草木灰を大々的に普及を始めたことによって、今期の作物の収穫量は大いに上がりそうですよ」
草木灰などをはじめ、まだまだ化学肥料というものがない時代だ。
森林を開拓して焼畑農業をするとこうした草木灰によって肥料が作られるので、南米やアフリカ辺りだと現代でも盛んに行われている手法だったはずだ。
ただ、そうした焼畑農業は急速にやり過ぎてしまうと自然破壊の原因にもなってしまう。
藁だけでなく、落ち葉や切り落とした枝などを集めて燃やし、その灰を再利用する草木灰をブルボンの改革では化学肥料が普及するまでの間、繋ぎとして使用する事に決めた。
……が、それによって必要以上の自然破壊が起こってしまったら大変なので、植林事業も合わせて行う事にしているんだ。
「こうして農業が発展すれば、合わせて林業も発展していく関係がいいんだよね」
「この草木灰を集めるためにオーギュスト様は林業にも出資を行っているのですか?」
「もちろんだよアントワネット、藁だけでは物足りないからね。枯れ木や落ち葉などを森で集めてそれを燃やしているんだ。林業で木こりをしている人も、この草木灰を作ることで収入を得ることができるようになったんだ」
木こりなどをしている人達にも、草木灰を作るように森に入って落ち葉や枯れ木を集めて燃やす作業を行うようになってから、農家がそれを買い取って肥料として使うサイクルを産み出すことが出来た。
意外かもしれないが、農村部の多い日本でも第二次世界大戦直後までは日本の山というのは基本的に禿山が多かったという。
戦後になってから植林活動が盛んになった結果、人工林によって自然形態が戻るようになったという資料を見たな。
そんなこぼれ話をしながら農作業を続けるのであった。




