149:インダストリアル
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1772年10月6日
おはよう諸君。
ほぼ毎日、パリの新聞に投書をしているルイ16世だ。
おとといはパリ産業新聞、昨日はシャンゼリオン週刊新聞、今日はパリ大学科学コラムに記事を投書している所だ。
コラム記事って結構書くと面白い感じに進んでいくんだよね。
もうこれが日課となっているのだが、中々読者が多いらしくて新聞社側から『陛下が書くコラムを皆さんがお読みになっておりますので、ドンドン書いてください!』と感謝までされてしまった。
1200から2000字程度のコラムなので新聞を読んだついでに一時間ほど感想文を送っているようなものだが、これをきっかけに活字を学習したり、読み書きをする人が増えているのであれば有り難いことだと思う。
最近になって新聞で多く掲載されている記事が蒸気機関など新しい事に関する事だ。
いよいよ近代化に向けてフランスは大きく前進し始めてきた。
おおよそ予定通りともいえる感じだ。
ブルボンの改革では3年以内に蒸気機関の試験運用などを開始すると目安にしていたので、その期間以内に実行できそうだ。
まずフランスで製造された蒸気機関のうち、炭坑用として試作されたワット式蒸気機関の試験運用がされたんだ。
試験運用の結果、なんとそれまで重労働であった石炭などの運搬をやりやすくするために、短時間で多くの排水を動かす事が出来たという。
報告書によれば原始的なポンプを使って炭鉱の岩盤を切り崩している時に、よく水脈とかち合う場所があるそうで……そうした場所に排水機能を使って水をくみ上げていくことに成功したのだという。
人海戦術を使ってバケツリレーをすれば早いかもしれないが、この方式で行った方法だと人力で1時間掛かった作業を15分ほど短縮することが出来たようだ。
炭鉱業者と国の関係者が協議した結果、フランス国内の炭鉱に年度末までに3基、運用が開始される事が決定したのだ。
それだけではない、パリ近郊において蒸気機関を応用した大規模な工場を建設することも決定したんだ。
恐らく世界でも最初の蒸気機関を応用して建設される工場地帯となる場所だろう。
どんなものを作る予定かと言われたら、瓶を作る予定なんだ。
瓶の原料はガラスなのだが、そのガラスを作るのにボイラーなどの工業部品が必要なんだ。
実質上、二件目の建設が着工するまでは硝子工場がメインと言っても過言ではない。
この工場こそが、将来起こりうるであろうラキ火山の噴火に伴う北半球の寒冷化に備えるべく、食料品などを貯蔵する上で缶詰の次に最適とされている瓶を作らせる事になったんだ。
よく瓶は割れやすいという弱点はあるが、瓶というのはアルコールなどで消毒、洗浄を行えば再利用が可能という利点があるのだ。
缶詰は壊れにくいのと、衝撃に強いという利点があるが……一回蓋を開けてしまえばすぐに消費しないといけない弱点がある。
瓶で生産する利点として、現在作られている技術でも製造が可能という利点があるわけだ。
割れやすい欠点を補うために、瓶は綿を敷き詰めた箱に密閉してから持ち運びを行うように取り決めを行った。
それでいて、瓶工場の隣に建設予定なのがいちごジャムやニシンのオリーブ漬けなど、保存食としてこの時代でも作られている物を詰め込む食品工場を作る予定だ。
それも二つ……効率を良くするためにこちらの工場も滑車装置などを取り付けて流れ作業……ライン生産方式ができるように、科学者を集めて必要な部品や動力となる蒸気機関及び水力エネルギーを応用して動かせる機械の運用を想定して現在調整中だ。
現代における大量生産のルーツ……これを世界でも最初にやったのはフォード自動車ではなくトマトケチャップを製造している食品会社が行ったと言われている。
19世紀後半にこの会社で作られた商品は市場で売られている食品よりも衛生的に極めて安全であり、かつ栄養も優れているという夢の商品だったとテレビ番組で語られていたな。
この時代もそうなのだが、市場においてたまに激安商品として腐りかけた肉や野菜などが販売されている事案があるのだ。
訳あり商品として売っているので、庶民は腐った部分を取り除いて食べているのだが、当然ながらそんな極悪な品質を食べれば胃腸を痛めるので、胃がんで亡くなる事が多かった。
なので、そうした食への安全性に追求したとあるアメリカの起業家が、トマトを使い保存が効いて栄養・野菜が含まれているケチャップを売り出して顧客から安心と信頼を勝ち取り、さらには食品添加物が商品にどれだけ含まれているかを明記するようにしたりと、かなり先進的かつ食の安全を重視した。
そして現代では世界的にも有名なグローバル企業になったというわけだ。
19世紀後半に出来るのであれば、1772年の今でも実現できる部分はあるんじゃないだろうか?
そう思ってこの時代に作られている保存食をいくつかピックアップして、遅くても1775年までに稼働できるように指示を出したわけよ。
ケチャップでなくてもニシンのオリーブ漬けだったり、ジャーキーだったり、コンフィだったり。
すでに確立されている保存食を保存して食べられるようにするだけでも、大きく改善が出来るだろう。
それに、瓶の中に消毒液などを精製してから医療現場に持ち運びができるようになれば、緊急の手術などに活用できることが見込まれる。
先月起こったクラクフ共和国独立騒動の裏で、ひっそりと「フランス衛生保健省」を設立して科学的に正しい医療方法を来年4月までに制定化する。
その際に、アルコール消毒などの衛生環境の改善によって患者の治療後の再疾患率や合併症などの発症率を下げることが出来ることを盛り込んだ。
勿論、この事を発表した直後にフランス医学会が反発しましたよ。ええ。
反発したのは主に古典派というべきか、新しい医学知識よりも従来の宗教寄りの医者たちが、新しく設立したフランス衛生保健省で配布されている公認医学書の編集者がサンソン兄貴によって書かれている為、死刑執行人によるデータは信用ならないと抜かしてきたわ。
だから俺はあの頭でっかちな医学会に言ってやったんだ。
「これからは科学に基づく医療行為しか認めない。それに、サンソン氏は執行人ではあるが彼も医学者として十分な知識と経験を蓄えている。医学的根拠以外で信頼に値しないと断言するのは単純に執行人としての彼を差別しているのではないか?医学会はいつから新しく画期的な予防法、医学を否定する愚か者に成り下がったのか……今度同じような事を言い続けるようであれば、お前たちの医者の資格を剥奪してフランスから追放するぞ」
そういった途端に医学会は手のひらクルクルで反発を取り下げたんだ。
ホントに面倒くさい連中だわ。
ここにきて、やっとフランスが歴史的にみても大規模に改革を行う実感が国民生活レベルにまで広がりを見せている。
このブルボンの改革の醍醐味ともいえる工業化の目途が立ち、フランスは近代化を推し進める事になったのだ。




