138:積極的改革主義
「オーストリアの運命は女大公陛下とヨーゼフ2世陛下に任せて……これからの課題に取り組むべきだな」
「ええ、この課題はかなり重たいですね……私としても早く解決したいと考えております」
「うん、それじゃあ一緒に考えようかアントワネット……」
オーストリアの決断を迫るまでにまだ時間はあるだろう。
こうした現実的な時間だと2ヶ月ぐらいか……。
ゲームとかだと2ターンとか20分ぐらいかなぁ……。
そうやすやすと決定が☆PON☆と決まればいいのだが、まだまだオーストリア内部の政治状況がどのようになっているのかにもよる。
テレジア女大公陛下がヨーゼフ2世との共同統治が上手くいっているのであれば、それに越したことはない。
双方の改革が進んで科学力や人々の生活が向上されるようであれば、国も発展していくだろう。
今後フランスの発展を進めていく上で必要な事。
それは基礎ともいえる教育機関の充実だ。
人を育てるのであれば若いうちから基礎教育を学ばせてから行ったほうが良い。
日本だと江戸や大坂を中心に寺小屋と呼ばれる教育機関が充実していた事もあってか、庶民でも識字率が高かったという記録があるからね。
特に男性も女性も識字率がこの当時としては非西洋諸国の中でも高水準である30%越えだったとも言われている。
東北や九州地方では女性の識字率はかなり低かったとする資料もあったけど、それでも明治政府に移行した際に高い識字率のお陰で近代化を成し遂げた要因の一つに挙げられているんだ。
ヨーロッパはルネサンス期までに活版印刷が普及したこともあって割と文字を読める人が多かったが、アジア圏ではそこまで高くは無かった。
仮に文字の読み書きが出来たとしても国の関係者とか商人などでないとできず、識字率が半数以上を超えたのは20世紀後半になってからだという話もある。
そうしたこともあってか、欧州各国では産業革命が発生して工業が盛んに発展を遂げた19世紀ぐらいから識字率が大幅に上がっていったんだ。
ただ、児童労働というのが当たり前だった時代でもあるので、女の子や貧しい家庭での識字率が低いのが課題だ。
「識字率の向上ねぇ……学校に通わせることを進めたいんだけど、やはり女性はあまり多く行っていないみたいだね」
「家事を手伝ったりしている事が多いので、殆どの場合は親から最低限の読み書きを教わっている家庭が多いようです。それと貧困層は学校に行くことが出来ない子供達も多くいるそうです」
「問題はそこなんだよね……無理に学校に行かせようとする親よりも、学校に子供を送るぐらいなら働いて行けと言う親が多いもんね。それを変えていかないと……」
現代日本では不登校や虐待などで義務教育を受けていない場合や、学習障害や生まれつき脳で文字を処理できないケースなどが挙げられる。
……が、現在のフランスでは経済的理由や女の子であるという理由で教育を受けられない地域や家庭があるのが実情だ。
女の子でも学習教育は必要なんだよなぁ。
もっと国民に多く呼び掛けてみる必要がありそうだ。
今現在フランス王国の識字率は他の欧州諸国と同等か少し低い程度だ。
男性は半数ぐらい、女性だと3人に1人ぐらいは文字を読み書きすることができる。
これでも識字率は上昇してきているほうだが、産業革命が起きた現状を踏まえて識字率を上げる必要性が出てきている。
既にアデライード派やオルレアン派だった貴族の屋敷をいくつか接収しているので、その屋敷を学校に改装しようという動きもある。
身分を問わずに勉強できる場があった方がいい。
それに、大人の識字率を高めるためにも昼間は仕事で働いて、週に2日ほど夜に勉強を行う定時制学校の設立も進めている。
勉強をしたいという気持ちに年齢も身分も関係ないもの。
「学びたい気持ちがあるなら、年齢や身分なんて関係ないさ。この教育改革で大きく変えるべき事があるとするならば、教育の基本方針を統一しなければいけないんだ。アントワネット、例えばパリとナントの教育方針が全く違っている状態で双方が進学した場合、習っている科目などに不備や齟齬が生じたらどうする?」
「そうですね。もしやっていない箇所が出てきたら混乱してしまうと思います。生徒だけでなく現場にいる先生も混乱するかと思います」
「そこなんだよね……教育の基本方針としては統一したカリキュラムや、専門学校には専門知識を学ばせる場所を作らないといけないんだ。基礎となる初等教育を整備しないとね」
基礎教育の統一的なカリキュラムの作成。
今までのような教科書も宗教的なモノではなく、理科や数学などは科学的なデータから求められているものに変更する予定だ。
勿論、宗教学を専攻する聖職者などについては別途対応するつもりでマニュアルの作成に取り掛かっている。
教本というやつ、教師とはこうあるべきだという模範というか指標となるべき感じかな。
そうでないとやっていけないからね。
で、学費はどうするのか?
教会などが自主的に学校を開いている場合もあるが、そうした場合は教育機関として登録するべきかという問題もある。
意外にも教育改革とは難しいものだ。
そうした教会への助成金なり、教育的指導による実績を踏まえて学校という扱いにしてもいいのかどうか?という問題が出てくる。
これから産業を中心とする時代に入るのに、前時代的な宗教中心の教育にしてしまうと科学分野が疎かになりかねないという懸念も聞かされたからね。
特に子供というのは若ければ若い程、そうした宗教というものに疑問を抱かずに信じ込んでしまう事が多い。
洗脳しやすい子供たちを教育して自国民だけでなく文化を破壊したカンボジアのポルポト政権(民主カンプチア政権とも言う)とか見れば分かりやすいかもしれない。
知らない人にかいつまんで説明すると、1970年代に政権を獲得したポルポト政権は原始共産主義国家の実現の為に自国民の20パーセント以上にあたる200万人以上を大量虐殺した恐るべき政権だ。
ポルポト政権は文化人を抹殺して自分達の理想を築こうとした。
自分よりも優れたものが許せなかったポルポトは政権を握った途端に、文化人を殺害しまくった。
その文化人というのが、教師だったり科学者だったり国にとって基礎を支えている知識階級の人間を沢山殺しまくったんだ。
海外にいる留学生すら呼び戻して殺害した事から、その念入りはまさに恐怖そのものだ。
しかも殺しを実行に移したのはポルポトの教えを守った無垢な子供たちだったんだ。
手が綺麗な人は労働をした事が無いやつだ。
眼鏡をかけているのは知識人だ、国にとって不要である。
笑っている奴は苦しみを理解できていない人間だ。
文字を読める人間は反政府勢力に加担しているから殺せ。
そんな理不尽極まりない命令をポルポトの教えを守った子供たちは何の疑いを持たずに軍に供与された武器を使っておびただしい数の人々を殺しまくった。
命からがら逃げた幸運な難民からの話を聞きつけたベトナムがカンボジアに侵攻して事態が世界に明るみになったというわけだ。
これは極論ではあるが、教育を間違えてしまったりすればこうした過激なことが出来てしまう。
人間一人一人の思想というのは様々ある事はいいかもしれないが、こうした過激な人間を産み出さないために必要な事は、教育を整えて過激な行為に走らせない事が大事でもある。
まぁ、このポルポトという奴は元々インテリジェンスな人間で勉強が出来て留学経験者でもあったので、そこの所を突っ込まれてしまうと何も言えないな。
俺としてはこれから国を担う子供たちにそんな酷い事できないし、何よりもそんな洗脳まがいの行いをするのは非常によろしくない。
思えば、俺の子供の頃の先生とかは気に入った生徒だけを依怙贔屓するだけでなく、どんなに成績が良い子供でも気に食わないと五段階評価のうち成績表で三とかを付けるような陰湿教師だったなぁ……。
教育現場における、ルール作りを決めないとね。
『教師は身分、年齢、性別、宗派問わず学びに来る生徒の学習を妨げてはならない』
教育改革に盛り込むべき課題の中でも、この但し書きをすることにしている。
まだまだ宗派や身分の違いでゴタゴタしている地域などもあるので、どんな人物であっても教育を受けられるようにする必要がある。
諸外国よりも先んじてフランスが優位に立てるようにする狙いもあるし、何よりもそれまで埋蔵してしまっていた才能のある人物などを発掘する機会にもなる。
これからの時代は教育を受けた人間が必要になってくるんだ。
何せ蒸気機関をはじめとした機械を取り扱うためには説明書を読まないといけないし、改革や国で決定した政策内容を国民に理解してもらうために公布人を雇っているが、いかせん独自判断で物事を考えてしまう人のほうが多い。
公布人が内容などを伝えたとしても、文字を読み書き出来る人は新聞などを通じて理解するが、新聞を読めない人などは人から聞いた話で理解するしかない。
つまるところ、そうした話の手順を間違えてしまうと大惨事になってしまう事がある。
それが去年に起きたサン=ドマングの事件の発端ともいえる。
内容を具体的にクローズアップして伝えてしまった事で白人を中心にパニックが広がり、結果的に奴隷制継続派が混乱状態を引き起こしたんだ。
そうした過ちはもう二度と起こしてほしくない。
そんなわけで現在フランスでは外国人を含めて全国の施設などで文字の読み書きや識字率を上げるための取り組みをしている真っ最中でもあるんだ。
今こうしてアントワネットと一緒にいる理由というのも、初等教育である文字の読み書きをするにあたって、これから文字を習う子供達とある程度年齢が進んだ読み書きが出来ない大人で教育を希望している者への対策というのを考え合っているんだ。
アントワネットも子供の頃は凄く勉強が不得意だったこともあってか、こうした対策にはスゴイ乗り気なんだよね。
教育の話題で盛り上がっていると、アントワネットから極めて重大な一つの教育の提案が出されたのであった。




