124:報い
物語をエターナル化させてはいけないので次のお話からはスムーズに物語が展開できるよう、努力してまいりますので初投稿です。
また、このお話を読み終わった後に、後書きをご覧いただきますようお願いいたします。
1771年10月1日
サン=ドマングは激動の一日を迎えることになる。
月初めのこの日、深夜から早朝に掛けて北部の農園を中心に奴隷制継続派の農園事業者が相次いで行方不明になるという事態が起こった。
それも一人や二人ではない。
その数は全部で13名。
著名な奴隷制継続派の事業者は軒並み行方不明となり、朝になって発覚した途端に蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
「主様がいらっしゃらないぞ!何処に行かれたか知っているか?」
「こっちにも来ていないぞ!外に行ったのか?」
「おい!見張り番が気絶しているぞ!誰か侵入したみたいだ!」
「探せ!主様が行方不明だ!」
反乱軍や奴隷達による暴動を恐れていた事業者たちは、傭兵や植民地軍の幹部を買収して私兵として使っていた。
私兵として雇われた彼らの給料は一人当たり日給3リーブルと、当時の一兵卒の給料の倍以上の金額が支払われていたのだ。
彼らは雇い主の事業者の事を「主様」と様付けで呼び、ほぼ白人経営者のための軍人という扱いであった。
植民地に派遣されていた彼らは倍以上の給料を出すと言われた事業者たちに付き従い、軍属でありながら表向きは「農園事業者の安全を守るため」という名目で補佐官のジョセフ・フェリーレによって派遣され、裏では事業者の私兵として脱走者や危害を加えそうな者を殺害するという悪逆非道を率先して行っていたのだ。
当然、これは軍規違反であり本来であれば懲罰は免れない。
だが、植民地での情勢が悪化した現在、こうした傭兵まがいの行為が植民地政府補佐官の命令に基づいていれば、いざという時には補佐官の命令に従ったからだと言い訳できる。
当時の一般的なヨーロッパ人から見た有色人種への見方や価値観のまま、国王陛下の命に背いて私利私欲の為に行動していた彼らの行動は、やがて身をもって償う事となる。
そして行方不明の事業者のうちの一人で、奴隷制継続派として代表的立場として名を連ねていたヴィクトル・へーデルナント男爵は、目が覚めると揺れる馬車の中で座らされており、腕を縄で縛られていたのだ。
両脇にはそれぞれ20代後半に見える若い男が2人ずつ乗っており、そのうちの一人は肌の色が黒くムラートの出身者であった。
全く状況が飲み込めない男爵はムラートの男に尋ねた。
「おい、これはどういう事だ。寝室で寝ていた私はなぜ馬車にいて腕を縛られておるのだ」
「おはようございます。目が覚めましたか?」
「おい、そこのムラート。早く縄をほどけ」
「残念ながらそれはできません。貴方をこのまま連行致します」
身動きできない男爵は、身体をゆすりながら連行すると言ったムラートの男に怒鳴り散らした。
「連行するだと?!ムラート風情が爵位のある私に向けてなんたる態度だ!私はヴィクトル・へーデルナント男爵だぞ!このサン=ドマングで富を生み出している知恵者だぞ!お前たちは自分のしている事を理解しているのか!恥を知れ!」
「理解しております。故に貴方をこうして拘束して連行しているのですよへーデルナント男爵」
男は男爵の怒鳴り声など気にもしないばかりか、あっさりと男爵を拘束したことを認めたのだ。
男爵が男をにらみつけるが、逆に男の目はそれをものともしないばかりか、逆に睨み返した。
まるで獲物を食い殺そうとする狼のような目だった。
その鋭い視線に、思わず男爵の心と身体は震える。
男爵が震えた隙を男は見逃さなかった。
「へーデルナント男爵、貴方はとんでもない事をしでかしてくれましたね。貴方のような人が好き放題した結果、今やこのサン=ドマングは国王陛下が無視できない程の混乱状態になりました……こうした手段で解決したくはなかったのですがね」
「解決だと?一体何をするつもりだ!私を殺すというのか?」
「殺しはしませんよ。ただ、貴方は国王陛下の大命に背いたばかりか、大勢の元奴隷だった人々を不当に拘束し、利益確保の為に四六時中働かせて過労死させていた……公布人からの通達を無視し、ひいてはイギリス人商人から武器を大量に仕入れて植民地軍に賄賂を送って私兵化していた。貴方のやっている事はフランス王国への叛逆行為に該当しますよ」
「なっ……?!」
「私が何の根拠もなく貴方を拘束するわけないでしょう。貴方は権力を欲しいがままに行使し、私のような混血のムラートだけでなく、黒人の人々が受けている境遇を嘆いた国王陛下が奴隷制を廃止したお気持ちを踏みにじった……貴方はやっていることの重大性を理解していない!」
男爵のやっている違法行為の数々は全て男にお見通しであった。
アレクサンドル・パイユトリー侯爵など、元奴隷と結婚していた者たちが率先して、男爵がやってきた数々の悪行を信頼できる機関に告発したのだ。
王国政府が去年設立した国立機関で主に国勢調査を担うのだが、実態は国内外の諜報・工作活動などを担う準軍事組織「国土管理局」である。
そして、このムラートの男こそ国土管理局から新たに派遣された職員であり、フランス本土では「黒いモーツァルト」と呼ばれているジョセフ・サン・ジョルジュであった。
「私の事を少しはご存知でしょうか?ムラートでも音楽家として本土で活動しているのです。そして、現在は国王陛下に仕えている身なのです」
「な、ならなぜお前のような音楽家が私を拘束しているのだ!」
「私が公的に男爵殿を拘束できる権限を持っているからに過ぎませんよ。今はそれだけしか言えません。しかし、もう貴方は犯罪者として扱うことになっておりますから」
「何を……ひっ?!」
「これ以上話す必要はないでしょう。貴方は大逆罪で捕まったのですから……」
ジョルジュは男爵の口に猿ぐつわを填めさせてこれ以上喋らせないようにした。
男爵だけではない、サン=ドマング各地で奴隷制継続派だった事業者が国土管理局の手によって次々と拘束されている。
また、同じムラート出身者の職員が反乱軍を説得している最中でもある。
少々強引な手段ではあるが、これ以上サン=ドマングでの混乱を広げない為の手段として国土管理局が実行に移した行為は決して無駄ではなかった。
奴隷制継続派が捕らえられてから翌10月2日の未明までに小規模な混乱が起こり、ノリボス総督とジェレミー・ディナールの家族は隙を見て脱出する事に成功。
植民地政府の補佐官エミール・フェリーレがバスタブで自ら首を切って死んでいるのが見つかり、イギリス人商人のジェームズ・バーバリーが大逆罪に関わっていたとして国土管理局に捕縛された。
そして新たに植民地政府を指揮することになった奴隷廃止に賛成の立場を表明していた代理補佐官によって農園側に武装解除が呼びかけられた。
これに反発するかのように徹底抗戦を叫んだ一部のプランテーション農園側は、武装解除の交渉にやってきた植民地軍の部隊と戦闘になる。
しかし10月3日にフランス海軍のピエール・アンドレ・ド・シュフラン提督率いる派兵部隊がサン=ドマングに到着し、2週間かけて徹底抗戦を宣言した奴隷制継続派の各農園を武力制圧した。
農園側について私兵のような行動を行った植民地軍の兵士を軍規違反で逮捕、懲罰を行うと同時に、改めて各農園や人々に対して奴隷解放についての説明を行い、それからフランス本土から増援の守備隊がやってくるまでサン=ドマングの守りに付いた。
一連の騒動はフランス国内で「大命叛逆事件」、国外では「サン=ドマングの反乱」という見出しで報じられた。
奴隷制継続派の主だった者はフランス本土に護送された上で、裁判を受けることになる。
当然のことながら、大命を無視した彼らに対する処分は極めて重たいものになるだろう。
犠牲者の数は372人と、内戦が勃発するよりは遥かに少ない人数で済んだものの、治安が安定するまでに実に2カ月を要したのであった。
まず最初に、読者の皆様に謝罪すべき事があります。
ここ2週間ほど更新した最近の小説のテンポや文面の内容が上手くいかず、読者の皆様が不快な思いをしてしまったり、小説のクオリティーが低いと感じてしまった方もいると思います。
私は現在医師の判断で処方されているスルピリド錠を中心とした精神安定剤を服用しております。
服用すると精神的に安定はするのですが、小説のような難しいお話を構成する際にどうしても、通常の倍以上の時間が掛かってしまい、結果的に一話、一話の内容が薄っぺらいものになってしまいました。
これに関しては作者である私が改善すべき点であり、ブックマークをしていつもご覧いただいている読者の皆様方へのご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
また、精神的な面を踏まえた上で、今後小説の一話一話におけるクオリティーアップを図るために、明日9日に投稿されるお話以降は、一話4500字前後を目安に毎週水曜日・土曜日・日曜日の週3回に分けて投稿しようと思います。
毎日投稿は出来なくなりますが、ご理解の程何卒宜しくお願い致します。




