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109:二大塔

一歩、また一歩……ポリニャック伯爵夫人に近づいてきて分かったことがある。

それは、自分の額から汗がけっこう出始めているという事だ。

こう言う時は男で良かった。

女性ならメイク直ししなきゃいけないからね。


汗が流れている理由?

ただ単に緊張しているから出ている訳じゃない。

もっとそれ以上にポリニャック伯爵夫人の得体の知れないドロっとした感触と言えばいいのだろうか。

苦手な人と接する時に胸が締め付けられるような恐怖のようなものを感じる。

俺……大丈夫なんだろうかと心配になる。


でも、ここで俺が踏ん張ってポリニャック伯爵夫人の標的がアントワネットに向かないようにしないといけないんだ。

俺をターゲット……標的にさせておくべきなんだよね。

実際にアントワネットは彼女の口車に乗せられてしまったばっかりに散々な目に遭ってしまった経緯をもっているのだからね。


男に必要なものは何だ?

度胸と愛する人を守る為のハートだな。

それに、こんなに可愛いアントワネット(旦那想いで優しくて、おやつ作りに熱心に励んでくれている)を見捨てるわけねぇだろう!


俺が(デコイ)になってポリニャック伯爵夫人の注意を引きつけた上で彼女の素性を見極める。

危険な賭けでもあるが、改革派のトップである俺が直に確かめないといけない案件だ。

来いよポリニャック伯爵夫人!

かかってこい!相手になってやる!

気合を入れてポリニャック伯爵夫人と対面を果たすのであった。


「……ポリニャック伯爵夫人、ご機嫌如何かな?楽しんでいるかい?」

「陛下、ご機嫌麗しゅうございます。ええ、ダンスを楽しんでおりますわ」

「それは良かった、最近は貴方がよくサロンを開いて色んな人達と交流があると聞いたのだが……どんな交流をしているのかい?」

「あら、もう陛下にまでお聞き及びになっているようですね……交流というのは投資でありますわ。陛下御自らご主導していらっしゃるブルボンの改革……その改革で伸びるであろう会社に出資しておりますの」

「投資か……随分と儲かっているようだね」

「はい、陛下の前で申し上げるのは不適切かもしれませんが、改革によってそれまで宮殿に蔓延っていた反改革派やアデライード派の貴族・聖職者は姿を消しました。そのお陰で私はここまで昇りつめたのです」


ポリニャック伯爵夫人は嬉しそうに自分がこの地位までのし上がってきたことを報告したのだ。

交流も投資だと言っているし、俺がアデライード派や反改革派を潰したお陰で彼女は勢力拡大へ道を開くことが出来たと感謝までしている。

恐らく言っている事は本心なのだろう。

だがまだ油断は出来ない。


恐ろしいのはここからだ。

彼女に疑うべき事があれば釘を刺さねばならないんだ。

下手に女性を刺激するのもよろしくはないが、あくまでも国王としての責務を果たさないといけない。

これがもしなろう系小説だったら、容姿端麗な転生者が甘い言葉で誘惑してそのままベッドインしてしまう展開も無きにしも非ずだが、既にアントワネットという最高の嫁さんが俺にはいるんだ。

ハーレムものはパス(PASS)さ……。


「成程……投資を大々的に行っているという事は、貴方もそれだけの先見の明があるというわけだ。でなければそうして資金を集めて投資を行うという事は出来ないだろう。多くの人が投資を行っているという話を聞いているからな。人を集めるのが上手いのだな」

「お褒めの言葉ありがとうございます。投資というものは人に対して如何に魅力的にお伝えするかが鍵ですの。そうした方々から集めたお金で投資を行い、さらにリスクの少ない資金運用などを教える講座も行っておりますのよ。どうですか陛下、陛下も個人資金から投資を行いますか?」


ちょいと褒めたら早速投資案件の話になりましたねぇ!

これ確実に俺を鴨にしようとしているなコレ。

俺はネギを背負った鴨じゃないぞ!

いや、でもこれはチャンスだな。

ポリニャック伯爵夫人がノッているという事は、どんな投資内容を貴族連中に言っているかがわかるかもしれない。

彼女の手口を調べる為、俺はあえて彼女の投資に興味がありそうな感じに聴きだす。


「いや、俺は国が潤ってくれればそれで十分だ。投資を得る利益も良い事かもしれないが、投資内容にもよるな。リスクが高いが見返りの利益も莫大なハイリスク・ハイリターンな投資は億劫でね。可能であればローリスク・ローリターンな投資のほうが興味あるんだが……どのような内容の物があるんだい?」

「ええ、最近始まった上下水道の整備工事事業、そのうち民間に委託された事業分への投資があります。この投資は確実に利益が見込まれるので、約5年ほどで採算が取れるようになりますわ。人口も申し分ないですし、他の貴族の方々も参加しておりますわ」

「ほう、そんなに人気なのか」

「ええ、小金持ちの市民やそこそこ裕福な貴族の方々から好評を得ておりますの。なので投資を続けることができるのですよ。他にも紹介などを行えば利益の一部を還元するサービスをしておりますの」


すごいな、やはり投資に関しては何でも詳しく知っている上に、より投資をし易いように謳い文句なども組み合わせているのか。

確かに他の人もやっているとか言われたらついつい少額程度なら試してみたくなるかもしれない。

……が、それでいて改革に部分的に賛成している連中まで取り込んでいる上に、マルチ商法っぽい事までやっているなコレ。


紹介でさらにサービス還元とかはマルチ商法では常習的だが、この時代にはマルチ商法という言葉もないし、経済学などに詳しい人でない限りホイホイと誘いに乗ってしまいそうだ。

投資の内容も不適切なものではないし、一応は合法的範囲で行っているみたいなのであまり強く言えないのが現状だ。


しかし、ここで釘を刺し込まないといけない。

でなければこのまま勢力が拡大して対立するような事があれば、真っ先に中立派の貴族と最悪戦う事になるかもしれないからだ。

俺は言葉を選びながら、ポリニャック伯爵夫人に言葉の釘を刺すことにしたのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 題材がなろうでは珍しいからチラ見…のはずが一気読みしてもーた。 ぶっちゃけ若い頃歴史とかスルーしてたから新鮮だわ [気になる点] 次の初投稿かな? [一言] 頑張って毎秒初投稿宜しく(°∀…
[一言] 国王が「投資」する時点でそれはもう「政策」の段階に当たるような…… まあ、一応オーギュストとフランス王国で公私がしっかりつ分けられてるってことになるかも知れないけど。。。
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