107:Cyber
今回はダンス回ですので初投稿です
「皆様、お待たせいたしました。只今より社交ダンスを行います。奮ってご参加ください」
社交ダンスの舞台が幕を開ける。
ちゃんと俺も練習してきたからね。
ここで醜態を晒すわけにはいかんのだ。
そこまで激しいダンスを披露するわけでもないので、本当に基礎的な訓練さえ積んでいればミスをしない。
余程の横やりとかが入らない限りは問題ナシ!
「ん?もう踊る時間か……」
「オーギュスト様、ダンスをなさいますか?」
「勿論、折角の機会だし一緒に踊ろうか」
「はい!」
というわけで早速アントワネットと一緒に踊ることになりました。
曲はフランスの民族舞踊として有名な「メヌエット」という優しい感じの曲が流れ始める。
こっちに来て、生演奏で聞くまではどこかのテレビCMで使用された曲程度の認識しかなかったが、ルイ14世統治時代には多くの優しい感じの曲調で奏でられるバロック音楽を産み出したそうだ。
勿論、CDやレコードといった機械なんてあるはずもなく、ちゃんと演奏者の人達が楽器を使って生演奏でやってくれているのだ。
音程とかちょっとでもミスっただけでダメ出しを喰らってしまうので、演奏者のプレッシャーも相当なものだろう。
俺ならダンスするだけでも精一杯だ。
自慢じゃないが、俺は歌を歌うのが下手糞を通り越して某ガキ大将のリサイタルより酷いと友人から酷評されるぐらいに音痴な上に、演奏会ではまともにリコーダーすら吹けなかった。
評価は最低の「1」だ。
中学生の時はお情けで2にしてもらったが、こればっかりは苦手だ。
では今はどうだろうか?
やはりアントワネットとのダンスはいい感じに行えている。
というのも、アントワネットが舞台で踊るのが好きなタイプなので、彼女の方がリードしてくれているのだ。
俺としても、アントワネットに任せて彼女のやりたいように、川のせせらぎのように流れに身を任せる。
やはり小・中学生の時の音楽の先生とは肌が合わなかったのだろう。
アントワネットが先生だったらきっと音楽の授業は「5」ぐらいは取れていた気がする。
「……オーギュスト様、とってもダンスが上達しましたね!」
「実は密かにこの日の為に練習していたのさ……」
「まぁっ!秘策をなさっていらっしゃったのですね!」
「これといって秘策という程でもないけどね、俺は上手く踊れているかい?」
「ええ!とっても……!」
青紫色と白色の礼服が交わり、優雅なひと時を大勢の人達に見られながら踊る。
この一瞬は俺とアントワネットにとっては夫婦揃ってダンスをする貴重な時間でもある。
そして、俺たちに視線が突き刺さってきますねぇ!
何だかんだ言ってアントワネットが俺に合わせてくれるように踊ってくれている。
無理をせずに、ゆっくりと身体を離れすぎず、密着させすぎない位置を保ちながら踊るのはけっこう大変だ。
簡単そうに見えてダンスというものは、ある程度技量を求められる。
現に、今俺とアントワネットが躍っているバロック系のダンスだって手順を間違えたらグイッと相手を引っ張ってしまうからだ。
そうなったら最悪衣装が破けてしまい、胸とかが露出してしまう恐れがあるので慎重に踊っている。
身体を密着させて激しく踊るようなディスコやナイトクラブで流行っているようなダンスはこの時代ではとてもじゃないが、セクシーすぎて踊ることは不可能に近い。
尤も、そんな激しい音楽の演奏……フルメタルとかエレクトロニクス・ダンス・ミュージックことEDMがこの時代に発明されていたら歴史が大幅にブレイクする事間違いなしだ。
(スロー……スロー……ここでゆっくりターンして……)
バロック音楽はダンスミュージックでもテンポが比較的ゆっくりなので、しっかり頭の中で次にどんなポーズをすればいいとか考えながら踊るのが一番いい。
お陰でなんとかアントワネットの足を引っ張らずに踊り続けていることが出来ているんだ。
元々ルイ16世はそこまでダンスが得意だった訳じゃないので、これは俺が覚えたやり方で踊っている訳だ。
いや、決してルイ16世が身体を動かす事が苦手だったのかと言えばそうではない。
ちゃんと狩猟をするぐらいにはバリバリにアウトドア派でもあったし、時計や鍵いじりが凄く絶賛されるぐらいには器用な手付きだったんだよね。
なぜそうした社交ダンスとか舞踏会とかを大々的にやらなかったのかと言えば、本人が凄くシャイな人で恥ずかしがり屋でもあったんだ。
狩猟や鍵いじりの際も教えてくれる人以外は殆ど同伴しなかったと言われているし、女遊びが派手だったルイ15世とは違って本人はアントワネット一人だけを伴侶として愛人を持たずに過ごしていたと言われているんだ。
ただ、時代の荒波が直撃した結果、ルイ16世は鈍感だの疎いだの散々な評価になっただけであって、革命とか大規模な気候変動が無ければ、平凡ながらも慎ましく過ごした王として一生を過ごしたのかもしれない。
こうやってアントワネットと一緒に踊っているのも、そうした数ある歴史のIF……もし彼の性格がこうだったら等をルイ16世が予想……もしくは願った望みをシミュレーターとして”俺”というフランス革命が起こった歴史を知る者を彼の身体の中に送り込んだものかもしれない。
まぁ、そんな事を詳しく知る者は他にいないけどね。
「オーギュスト様、あと少しで曲も終わりに入ります」
「そうか……ではこの曲で踊り終えたら少し休憩にしよう」
「ええ、そう致しましょう」
あともう少しで曲が終わる。
考えながらダンスをした訳だが、それでもミスなく永遠の時のように感じる。
さて、遠くで背筋が何処か凍るような鋭い視線でダンスを見つめている夫人が一人いるようだ。
ポリニャック伯爵夫人か……。
どうやらひと波乱ありそうだ。
そう思いながらダンスが終わって周囲から拍手が巻き起こったのであった。
次回予告
宮殿内で綱紀粛正を行うも、息をひそめてそのおこぼれを狙う者がやってくる。
金と地位、そして名誉。
美徳の陰に隠されたあらゆる悪徳が牙を向くヴェルサイユ宮殿。
ここはルイ14世が産み落とした絶対君主制の名残。
ルイ16世とアントワネットを狙って危険な奴らが集まってくる。
次回「毒蛇の飼い方」
明日もいつも通り初投稿、更新、更新、また更新。
それしか自分が生きている証を残せぬ作者の夢の小説。
明日も作者の駄文に付き合ってもらう。




