1061:デビュー
「シャルル、今から社交パーティーでの参加となるわけだが……心の準備は大丈夫か?」
「勿論です。王族の者として恥をかくような真似だけは致しません」
「結構な心意気だ。ただ、もし具合が悪くなったりした場合には遠慮なくパーティーを一旦抜けて貰っても構わない。ここに居るのは改革派の者達だ。全員の身元確認も済ませているし、信頼しても問題ない人物を選定している。それぞれ人脈を作って交流を深めていくことから始めてみるのがいいだろう」
「分かりました。それでは行って参ります」
「うん、気を付けてね」
シャルルの初の社交界デビューとなる。
以前にも家族ぐるみで参加したことはあったが、シャルル個人で初参加するのは今回が初めてだ。
何かあった時のために、国土管理局の職員が待機しているが、これはあくまでも警備であって本人がどんな感じに社交パーティーで人脈を作っていくのか観察するのが目的でもある。
シャルルの独り立ちというわけではないが、俺がいなくなった後は彼が国王としてフランスを率いていくことになるのだ。
今のうちに社交界での作法などを実践で学ばせたほうがいい。
「さてと……シャルルを見送ってから俺は報告を受け取らないとな……」
改革派の社交パーティーを一階で開かれているのを見届けてから、俺は二階に上がってオーストリアとスペイン、それからスウェーデン側の代表者と会合を行う。
勿論、非公開の面会であるため公式の議事録には載らないシークレットな場での話し合いというわけだ。
三か国の代表者らは、それぞれの国から親書を持ってきて現在の状況を知らせてくれたのである。
開幕早々、オーストリアの代表者が資料を見せてくれた。
写っていたのはケルン市内で製造されていたテレジア・ターラー銀貨の贋金を製造していた薔薇十字団の残党に関するものである。
精巧に作られていただけに、このコインはケルン市内を中心に複数枚流通しており、今現在は良貨交換と称して贋金を回収することで事態の収拾を図っている。
「まず我が国……オーストリアの情勢ですが、ケルン市内で贋金を製造していた薔薇十字団の残党に関する事で報告がございます。オーストリア側の協力者を複数名洗い出し、彼らに尋問を行った所、北米複合産業共同体との関係が浮き彫りになりました。一昨年の8月までにミュンヘンの教会で薔薇十字団と北米複合産業共同体のスパイが接触を行っており、そこで贋金を製造した際に市場に流通させて混乱を起こすために、複数の銀行に贋金を仕入れていたとのことです。幸い、これらの贋金であるテレジア・ターラーの流通は阻止することができました。一気にまとまった金額の硬貨をオーストリア圏内で流通させて市場混乱を起こし、その間に皇族の権威を阻害する目論みがあったとのことです」
オーストリアが主導してウィーンを中心にスパイ網を一網打尽とするために、数週間に渡って秘密警察を使って検挙などを行っていたようだ。
この秘密警察は憲兵隊の一部門として動いており、今は亡きテレジア女大公の命によって創設された機関だと語っていた。
その役割はフランスの国土管理局と似たようなものではあるが、主に国内の脅威に対する対処を行うことを主任務としており、贋金によってテレジア・ターラー銀貨の価値が暴落することを危惧したため、可及的速やかに正規のテレジア・ターラー銀貨を用意してケルンで出回っている贋金を水面下で回収しているのも、彼らの仕事であると語っていた。
「ケルンにおける回収業務は我が国の機関が行っておりますが、フランスが協力してくれるのは本当にありがたいことです。調べてみましたが、贋金には薔薇十字団のメンバーが主導して贋金の基盤となる硬貨を使って製造していたことが判明しており、うち3名はスパイとして活動しており、いずれもニューヨーク出身であることが判明しております」
「やはり、ケルンの贋金には彼らが関わっていましたか……それも、スパイといえど……帰国出来ないが故に現地に留めて眠らせていたスリーパーと言われているやつですな」
「彼らもやはり頭がいい。目立つような贋金ではなく、精巧に作らせていたからこそ質が悪い。殆どがケルン市内で200枚程度の流通で済みましたが、これが数千枚、数万枚という単位になっていたら、テレジア・ターラーの信用問題に関わる案件になっておりました。ミュンヘンとウィーンの貸金庫で発見した偽のテレジア・ターラー銀貨は判明しているだけで1万5千枚をこえております。これらは時が来た時に一斉に市場に流通するように仕組んでいたとされる証拠です」
貸金庫は元々戦争中にプロイセン王国から亡命してきた元銀行家が創設したものであり、開業してからまだ8年程度と新しい金庫であった。
その貸金庫に7か月前から一定額の金額をケルンとミュンヘンを通じて送られてくるようになり、これらの金銭は『ウィーンで行われる大規模事業の資金源として貴殿の貸金庫に預かっていて欲しい』と頼まれていたものであったと供述しているそうだ。
ケルンからミュンヘンに移り、そしてウィーンに持ち込まれていた贋金の総数からして、国家予算の2~3%に匹敵する金額の銀貨が預けられていたことにもなる。
何と言っても、これらのテレジア・ターラー銀貨が貸金庫という形で持ち込まれていたのも、ある意味で正規の銀行の窓口に預けて利子を貰うやり方にしなかったのは発覚を遅らせる意味合いもあったのかもしれない。
ケルンにおいて偽のテレジア・ターラー銀貨を少量流通させていたのも、社会実験というよりは自分たちの作った贋作の硬貨がバレないかどうかのテストだったのかもしれない。
だが、結果としてこれらの硬貨を作っていた事が発覚したのも、これらの贋金をミュンヘンに持って行った際に、ケルンからミュンヘンで両替を行った中に贋金が複数枚混じっていたことで事件が発覚してしまったのだ。
贋金は、その存在が発覚されるようなことはあってはならない。
相手の経済を破壊する目的であれば別であるが、どうやら当初貸金庫から大規模に流通させる予定していた日数よりも発覚が早まってしまったために、これらの贋金が大量に市場に流れるという事は無かったが、一歩間違えればフランスが行ったプロイセン王国への経済破壊工作の仕返しをされるところだったのだ。
プロイセン王国としても、自国の通貨が信用できなくなった結果としてフランスのリーブルと、オーストリアのテレジア・ターラー銀貨が主流通貨となっていることもあり、その仕返しをするつもりで薔薇十字団の残党が贋金を嗾けようとしたのだろう。
これに加えて、帰国する手段を失った北米複合産業共同体のスパイが同調してケルン・ミュンヘン・ウィーンの三都市において連絡役として常駐していたことも記載されており、普段は活動を控えているスリーパーエージェントと呼ばれている種類のスパイであることも把握している。
恐らく、彼ら以外にも潜伏しているスパイはいるはずだ。
そしてスペイン、並びにスウェーデン側からも北米複合産業共同体に関する事案の報告を受け取った。




