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1060:清潔

☆ ☆ ☆


1797年3月10日


フランス パリ


パリ市内は今日も平穏な日となっている。

普段ヴェルサイユ宮殿から馬車で1時間以内で到着することもあり、この場所では近代化を感じさせるように交通整理であったり、馬から排泄された馬糞の回収業者がやってきたりと、所狭しと道路の交通状況が混雑化してきているようだ。

馬糞いえど、夏場になれば悪臭も強烈になってくる上に、パリは首都圏として機能していることから馬車の利用率が高い。


「だいぶ馬車が走るようになったのだな……」


タクシーとして使われている車両もあれば、運送業者が牽引輸送車両として使っているケースもあり、馬はまさに欠かせない生活の一部となっている。

現代の車と同じ扱いでもあるのだ。

実際に、道路に落ちている馬糞の処理に関しては条例によって馬糞回収業者が昼間は一時間ごとに区画ごとに回収し、回収した馬糞がセーヌ川などに流れて水質汚染を悪化させないように配慮するようにしている。


都市部におけるし尿処理施設を郊外に作り、発酵などの過程を経て寄生虫などを無害化する処置を講じて肥料にする仕組みを作り上げた。

特に馬糞などは花壇の肥料として使えるため、チューリップなどを含めた花を栽培している業者向けに販売すると割といい値段で売れるのだ。

こういった業者の多くがそれまでは蔑まれていた職業であったのを、彼ら無しでは生活できない重要なインフラ整備の一端を担う重要な職業と位置付けて、それまで低賃金で重労働だったのを改善させて、それ相応の給与と待遇を与えることにしたのだ。


無論、それで差別が完全に無くなったわけではないが、これまでこうした清掃人という仕事は身分が極端に低い人がする仕事というイメージが付いており、特にし尿処理に関する人に対してはそれはもう処刑人と同じレベルで蔑まれるような扱いを受けていたのだ。

仕事柄感染症などに罹患するリスクもある上に、低賃金かつ重労働の人達があまりにも気の毒であったため、最低賃金以上に給与を与える上で、彼らの福利厚生などを充実化させて彼らの仕事が社会のために役立つものであることを周知させたのだ。


国王自ら彼らに出向いて握手をして労う行事を行ったのだが、これがどうも国民にとってかなりの衝撃だったらしく、何故平気で握手をできるのかと記者から問われた時には『この人たちの努力によってパリから悪臭が消えて、セーヌ川の水質も改善された功労者である。その功労者を労う上で手袋を填めて握手をするという事は、彼らへのレッテルを張りつける行為に繋がる。都市の生活環境に欠かせない重要インフラを司る人達への敬意をこめて、私は握手をするのだ』と返した。


これが国民にとってかなり受けが良かった。

それまで蔑まれていた人達にスポットライトが浴びた上で、彼らによって都市部の人達の生活が成り立っている事を宣伝し、パリでは誇らしい仕事として表彰などをするようにしたのである。

結果として、こういったし尿処理に関する仕事に関して劇的に環境は改善し、感染症予防のための手袋の支給であったり、都市郊外の処理場に関しては悪臭被害を最小限に抑えるために住居や貯水池が無い事などを調べて設置する切っ掛けにもなったのだ。


(史実と比べれば、かなり清潔度も上昇して過ごしやすい街になったはずだ。何と言っても悪臭と不衛生で悪名高い街をここまで綺麗にすることが出来たんだ。この時代の人達の意識改革を行うことができたのは本当に良かったよ……)


し尿処理もそうだが、ここフランスのパリに限ってはかなりルーズであったと言わざるを得ない。

この時代の基準から比較しても、鼻を塞ぎたくなるレベルで酷かったと言われていた上に、モーツァルトがパリに赴いた際に水を飲んだらお腹を壊して体調不良になった逸話があるレベルだ。

元々水質事態があまり良くなかったということで、パリでは水に酢を足して飲んでいたとされている。

酢には殺菌効果があるため、理にかなっているものの、それでも酸っぱい水を飲んでいた人達からしたら、そういった酸味の強い飲み物などを好むようになったのではないかと言われているぐらいだ。

元々パリで発祥した有名香水店の多くが、こういった悪臭などを誤魔化すために発展を遂げていたという話もある。


ある意味、フランスを象徴するような場所を全面的に改善することができたのは、この世界に転生した中で身近に実感できる改善点だろう。

日本人だから……というわけではないが、ヴェルサイユ宮殿において激臭でお出迎えされた身としては、生活水準が現代と違っていても、あまりにもひど過ぎるので王権を使って改善させたといったほうがいいのかな……。

王政としての権力を振る舞い、その権力が良い方向に生かされているのであれば実に良いことをしたと自負できる。


パリ大火が発生してからは、セーヌ川を流れている地区における区画整備計画に基づいて、次々と道路の拡張工事や鉄道敷設のための土地買収などを重ねてきたのである。

今のパリは狭い路地や裏路地が多く存在しており、これらの路地において犯罪や違法な客引きなどが蔓延っている地区もあるのも事実だ。

特に貧困街と位置付けられる地区に至っては、狭い路地という立地条件も相まって犯罪率があまり低下していない。


そこで、区画整備の地区に選ばれた場所では立ち退きなどを行って道路の拡張工事を行い、住居なども将来に渡って居住できるように高層階などを設置し、上下水道が完備される時代になってもこれらの住居に設備を配管できるスペースを作るといった創意工夫が行える状況になっているのだ。


結果として、今のパリは史実のパリと同じような大きな道路に交通網が発展し、凱旋門の代わりに複数の道路において馬車の一方通行化が義務化されるようになっている。

将来自動車が普及した暁には、この道もガソリン燃料を主体とした自動車が沢山走ることになるだろう。

そんな町中を馬車の中から見ながら一緒に連れてきたのはシャルルである。


「さてシャルル……今日の社交パーティーではお前さんの初の舞台となるが、心の準備は大丈夫か?」

「はい父さん、僕でしたら大丈夫です」

「それは良かった。何か分からないことなどがあればすぐに言ってくれ」


シャルルと一緒にやってきたのには理由がある。

今後、次期国王として振る舞う際に必要な事であったり、宮殿での社交パーティーなどで執り行う挨拶などをヴェルサイユ宮殿において教育係から複数回学んできたのである。

そして今回、その実戦形式を試すためにシャルルを連れてきたというわけだ。


シャルルとしても年齢などを鑑みて表舞台に姿を現して活躍する時期になったのである。

次の国王……皇太子として活躍する時代になれば、スムーズに王位継承などを行う事が出来るようになるだろう。

それが数十年後だとしても、シャルルなら上手くやってくれるはずだ。

社交パーティーが開かれているエリゼ宮殿に馬車が到着したのであった。

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