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1056:憂鬱

★ ☆ ★


朝起きて、朝食を済ませた私たちが向かったのはパリ市内にある共同墓地です。

この共同墓地にはカリブ海戦争、プロイセン王国との戦い、そして今現在戦闘中の北米複合産業共同体との戦争で戦没した兵士の墓として作られた場所なのです。

今日も棺桶が数個運ばれており、亡くなった兵士に対する慰霊を行うために来ているのです。

オーギュスト様はこういった慰霊行事に関してはとことん行って戦没者の事を慰めることが重要だとおしゃっております。

曰く、戦没者の家族も参加した上でこれらの行事を実施している際には、両手を合わせて彼らの冥福を祈り、天国に無事にいけるようにしなければならないとも語っておりました。


「彼らはフランスのために命を賭けて戦い、そして散っていった人達だ。彼らの活動を無碍にするようなことがあってはならないし、我々こうして生きていけるのも彼らの犠牲があってこそだ。今後もそれを肝に銘じておく必要があるんだよ……」

「そうですね……我々がこうしてパリやヴェルサイユで安泰に過ごせているのも彼らの活躍があってこそですね」

「だからこそ、国民や軍隊に失望を与えるような行動は現に慎まなければならないんだ彼らがいなかったら王政政治は成り立たない。テレーズやシャルルにもその旨を伝えているけど、彼らを貶すことは王室を陥れる行為であることを胸に刻まないとね……王政の失墜が軍の離反や反乱を産み出す原因になってしまうんだ」


オーギュスト様が力説したのも、先のグレートブリテン王国内戦時の際に、当時のジョージ3世が北米大陸での植民地を喪失したことによる精神的なショックによって精神に異常を来すようになった際に、当時のロンドンの中央政府は次期国王の擁立において対立してしまい、国をまとめる代表者が不在になってしまった経緯があります。


この際に、北米大陸の動乱において戦場から帰ってきた兵士達の間で不平不満が溜まり、政府への革命運動が勃発。

最終的に革命軍が決起を起こしてグレートブリテン王国内戦へと繋がってしまったのです。

内戦となったグレートブリテン王国は国力の多くを失い、最終的にスペインとの戦争で多くの領土を獲得した土地も手放し、カリブ海地域において残された最後の植民地でもスウェーデン側との交渉で国家予算を組むために手放すという話が浮上しているのです。


かつてスペインの無敵艦隊を打ち破ったロイヤルネイビーも、見る影もありません。

内戦によって海軍戦力の多くが停泊中に自沈したり、革命軍に鹵獲されてフランス艦隊と撃ち合いの末に撃沈されたりして、今では戦列艦4隻と複数のフリゲート艦しか保有しておりません。

それに、加えて革命軍が内戦中にロンドンやマンチェスターなどを含んだ大都市圏の破壊を実行したことにより、これらの大都市圏のインフラなどは壊滅状態にあり、復興しているロンドンですらまだ全体の40%程度しか復興ができておりません。


今では、グレートブリテン王国ではなく北部のスコットランド地域を主体とするスコットランド政府として再編成がされていますが、国家としては大きく力が削がれている上に、復興都市として再建が進められているロンドンにおいても現在主流となっている資本はフランス側が出資しているのです。

将来的には、ドーバー海峡を繋ぐグレートブリテン島経済圏構想の一環として、都市部の往復ができるように船などの停泊地を中心に産業拡大を目指す方針でもあります。


「我が国においてグレートブリテン王国内戦のような惨劇を引き起こさないためにも、王族が国民や軍隊に示しを現すことも極めて重要だ。そのためにも、こういった慰霊行事に参加し、戦没者に対する行いを忘れてはならないのだ」

「そうですね……グレートブリテン王国内戦の時も悲惨だったと伺っておりますわ」

「内戦で悲惨なのは知っている者同士で戦うことだ。対外戦争であれば言語も違う相手と戦うが、内戦ではそうはいかん。知っている相手との殺し合いだ……きっと革命軍もそれを鎮圧した政府軍も相当辛い想いをしたはずだ……」

「……」

「ああ……すでにスコットランド政府は国力だけでみればクラクフ共和国と同じぐらいに縮小してしまっているからね。行政政府などもある程度は改善が見られているけど、それでも内戦時に本国から脱出した人達は帰還ではなく、フランスへの移住を決めた人も多い。ロンドンが復興都市として再建こそされているけど、そのほとんどがフランス資本主導の下で行われている事も鑑みれば、すでにスコットランド政府が再び偉大な国家になるには長い年月が必要だ。最低でも20年は元の水準に戻らないだろうね……」


……単独での国力を維持するのが難しく、今の現状においてもスコットランド政府はフランスやスウェーデン政府からの助成金によって生き長らえている状態です。

かつての内戦前の経済水準に戻るには20年……いえ、30年以上は掛かるのではないかという専門家の意見も伺っております。


グレートブリテン王国の経済力と影響力は既に過去のものになりつつありますが、同時にこの状況からの復興も目指しているのも事実です。

北部のエディンバラを首都にして復興を進めている地域においても、現在はフランス資本主導の経済復興が行われている最中であり、失業率も大幅に現象したとのことです。


それに加えて、スコットランド政府の共通通貨に関しても、ポンドからリーブルに変更されることになり、フランスの経済圏に組み込むことになっており、内戦によって通貨の下落などが起こったスコットランド政府にとって、主軸となる通貨をリーブルに変更するのは必然のような選択肢になったのかもしれません。


「すでにフランスの通貨であるリーブルに変更した影響もあってか、実質的にフランスの影響圏に入ることになったことも踏まえて、ドーバー海峡経済圏構想も進むことになるだろうね……戦争で亡くなった兵士の遺族年金の支出も、そういった経済発展によって収入を得ることが出来たところから支給を行うつもりだよ」

「これまで払っていた遺族年金は国庫からの支出でしたね……」

「そうだ。以前までは国庫からの支出だけど、経済発展によって国庫だけでなく諸外国が発効している国債の利回りであったり、多くの金融資本から得ることが出来た税金から払うようにしている。これで戦争で父親を亡くした家族にも庶民の平均月収と同じ金額のお金が毎月振り込まれるようになっているからね……戦争未亡人や家族が暮らしていける分のお金を支給できるようになれば、彼らも困ることはないだろう……戦争で亡くなった兵士の家族の事も考えておかないと……」


戦争が終わっても、そこで終わりではない……。

オーギュスト様曰く、戦争が終わってからこそ本当の戦いになるのだそうです。

軍隊ではなく、政治と経済が戦いの主戦場となっていくため、北米複合産業共同体を倒した後の北米大陸の経済や政治をどうするか……。

この後の閣僚会議でも話すのだそうです。

王妃として、オーギュスト様を支える立場であるため、私も同席した上で閣僚会議に参加し、現状の北米大陸の実情を把握した上で、様々な意見を聞きながら今後の政策を話し合ったのでした……。




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