1055:朝焼け
対外戦争に同盟国の問題……。
やる事が山積みだ。
HOBFでやっていた内政ディシジョンも、実際にはこういった問題の協議などを話し合って決めるやり方が多かったんだろうな。内政関係の事を鑑みれば、今後の政策をどうするか考えておく必要があるだろう。
正直言って、北米複合産業共同体との戦争はあと一年から二年ぐらいは続くんじゃないかと思っている。
これはこの時代の進軍速度であったり、北米複合産業共同体の国力を考慮してのことだ。
北米複合産業共同体の国力は欧州協定機構の3分の2程度と言われているが、実質的に一か国だけで複数のヨーロッパ諸国の軍隊を孤軍奮闘で相手をしているのだから強いのだ。
弱いと思って甘く見ていると痛い目に遭うのは古今東西聞く話だ。
あの企業国家が倫理と人権ガン無視で兵器工場をフル稼働させていた場合には、彼らはさらに激しい抵抗を続けることが予測される。
ノーフォークが要塞化していることを鑑みれば東海岸に沿って強襲上陸……という手段も考慮していたのだが、その強襲上陸地点に関しても北米複合産業共同体の防衛網が敷かれている上に、彼らは新兵器を次々と開発・量産に向けて動いているという事だ。
であれば、少なくとも本土防衛に集中している今のうちにメキシコから彼らを追い出すのが最適解だろう。
(あと半年もすればメキシコは確実に北米複合産業共同体を退治することができるだろう。メキシコ北部の戦線も範囲が狭まっている上に、これらの地域において反乱に加担した勢力に対する反撃も順調に進んでいるからね……)
メキシコ戦線においては、欧州協定機構軍の連合軍が沿岸部から攻勢を仕掛けており、すでに本隊こそメキシコから撤退したものの各地で抵抗を続けている北米複合産業共同体と反乱軍の一部は未だに北部で徹底抗戦の構えだ。
何と言っても、メキシコでは現地民との融和を図っているイダルゴ総督のお陰で急速にメキシコ国内の不安定要素は取り除かれている。
それまでメキシコ国内で汚職などを行い続けていた人物たちの多くは退場してもらった。
これは表舞台だけでなく、物理的な手段を用いての排除も含まれていたのである。
ジャンヌといった国土管理局の中でも屈指のスパイによってメキシコ国内において汚職行為などを働いていた者の多くが総督府の意向に沿う形で実施されていたというのも事実だ。
総督府側がスペイン本国政府に対して良い結果を見せるために粉飾決算を実行し、これに付け加える形で多くの地域において現地民に圧政を繰り返して税金などを巻き上げて、これを還元せずに本国や一部の富裕層のみに利益が享受できるように行き渡らせていたのも事実なのだ。
言うなれば、汚職がスタンダードになってしまい、この事に対して咎める人間がいなくなってしまったことで、史実よりも早くにメキシコ国内での動乱が広がってしまった状況でもあるのだ。
ジャンヌは国土管理局の部隊を率いてメキシコ国内において汚職で不正な富を蓄えていた政治家や資本家を調査し、有罪と判断された場合にはイダルゴ新総督に危害を加える恐れのある人物などにも接触し、危険と判断した場合には現地において『事故』や『病死』に見せかけた始末を淡々と実行に移していたのである。
(これまでに排除した政治家や資本家、それからスペイン本国において影響力のあった人物を含めると80人以上にも及ぶわけか……。それだけ汚職で手を汚していた人物も多かったというわけだ……いくら仕事とはいえ、彼らの始末をしてくれたジャンヌたちには礼を言っておかねばならないな……)
この時代に鑑識の技術はまだまだ未発達の部分も多く、ましてや中南米地域の植民地政府としての扱いを受けていたメキシコ国内においては、汚職は切っても切れない関係でもあったのだ。
故に、危険人物に関しては汚職を起こしていた事案なども含めて処断することを許可し、メキシコのイダルゴ総督もこれを暗黙の了解として見て見ぬふりをしてくれることになったのである。
事故や病死のバリエーションも豊富であり、うっかり馬車に轢かれてしまったり、うっかり泥酔した状態で湯船に溺れて死んでしまった状態で見つかるケースが多く、見せしめ目的で処断された者の多くは汚職行為をしたものであり、メキシコ国内で北米複合産業共同体と結託していた者に関しては存在そのものを消すという手段を講じることになったのである。
幸いにもメキシコは戦争状態だったために、北米複合産業共同体のスパイであったという噂であったり、出所不明の資金が発見されたために、彼らは裏で繋がっていたとする情報を拡散し、一般市民においてはこういった者達が亡くなって悲しむ人間は裏社会で繋がっていたごく一部を除いて殆ど皆無であった。
まぁ、汚職絡みでいえば北米複合産業共同体から安値で仕入れた阿片や綿花を売りさばいて儲けていた政治家などもいたそうだが、そういった者達は不幸な事故に遭って死亡するか、もしくは行方をくらましたまま戻ってこないという事例を活用させてもらっただけだ。
(……戦争が終わった後で彼らの墓は立てておこう、少なくとも殺生をしたからには彼らの死が無意味なものではなく、しっかりとメキシコのために役立ったことにしておけば、最低限供養に繋がるからね……事故として処理した者達に関してはきちんとした教会で墓を立てておくことも大切だ……これは日本人的な考え方と言われているけど、実際に彼らの亡骸を野ざらしにしておくわけにはいかないからね)
墓を立てて供養するというのは日本人的……ひいては東アジアの考え方かもしれないが、慰霊碑などを立てて彼らが生きた証そのものを抹消するということはしない。
少なくとも「不幸な事故や病気によって命を落とした彼らは、その遺産や資金をメキシコの発展のために寄付した」という事にしておくつもりだ。
最低限、社会の役に立つことを証明した上で彼らは役割を果たしたことになる。
決して無意味に処刑をしたわけではないことと、彼らの蓄えた汚職の金をメキシコの発展のために使わせてもらう。
そして何よりも、今後の戦況次第では北米複合産業共同体への攻略のためにより強力な武器や兵器を実戦投入する時がくるだろう。
現代でも国家間同士の戦争になると、当事国だけでなく周辺諸国からお互いの国に支援物資や武器や兵器の供与が始まるので戦争は長引くことがある。
史実でもアメリカ独立戦争の際にアメリカが勝利できたのもフランスからの支援があったからこそだ。
しかし、今回は企業国家と欧州協定機構軍という大西洋を挟んだ国家間同士の戦いということもあり、実質的に総力戦に近い体制でもあるわけだ。
この状況でどっちの国が勝利できるか、それとも負けるのかという瀬戸際になった時、最終的に国力と戦争協力をしてくれる国民の数によって勝敗が決まるのだ。
窓を見てみれば朝日が差し込んでくる。
そろそろ起きる頃だな。
アントワネットの方に顔を向けると、眠たそうな顔をしながら起き上がったのであった。




