1054:プラハ
そこに記載されていたのはオーストリア領となっているプラハについてであった。
プラハに関しては、プロイセン王国との戦いで複数の建物が薔薇十字団の兵士達によって破壊されており、尚且つ戦闘によって多くの死傷者を出した激戦地の一つでもあった。
オーストリア主導の下で復興支援が行われているものの、実のところ現地における民族対立も影響しているためか、復興に遅れが生じているという報告書であった。
(プラハの復興が遅れている……あまり喜ばしい報告ではないな……激戦地であり、欧州協定機構軍が戦闘をした際には市街地での戦闘もあったはずだし、オーストリアからの分離・独立を訴えていた離反者たちによって扇動もされていたと聞く。これで再び動乱という事態になるのは避けたいな……)
プラハの春でも有名な場所であるが、元々プラハはボヘミア王国という国家であったのだが、中欧ヨーロッパの歴史の中でハプスブルク家の影響下に入ったことで、実質的にこの地域における影響力はオーストリア大公国の手に委ねられている状況であった。
というのも、百年以上前に勃発した三十年戦争の発端を作ってしまったのがこのプラハでもあったからだ。
事の発端はプラハにある城において、当時のボヘミア王国は神聖ローマ帝国と領邦であったオーストリアから選出されたカトリック系の神聖ローマ帝国皇帝が、プロテスタント派への抑制を強要したことで、現地の貴族たちがこれに激怒して猛反発。
使者として送られてきた神聖ローマ帝国から派遣された代表者の面々をプラハ城の窓から突き飛ばして死傷させるプラハ窓外放出事件(以前にもやったことがあったので、この時は第二次と呼ばれている)を起こし、当時の神聖ローマ帝国からの離反を画策し、プロテスタント派の人物を王に迎え入れたことで戦争が起こったのである。
三十年戦争は、休戦や和平期間を挟んでいたが、実質的に講和条約が発効されるまでに中欧ヨーロッパを主体とした戦争によって多くの死傷者を出しており、歴史的に見てもカトリックとプロテスタントの間で行われた宗教対立によって勃発した戦争の中で飛びぬけて死傷者の数が多かった戦争でもあるのだ。
(オスマン帝国との戦いでは連合を組んで迎撃はしたが、実質的にキリスト教の宗派間戦争のような位置付けとして語られているからね……そんでもって、当時のプラハは戦争によって荒廃した上に、神聖ローマ帝国への離反を画策したとしてボヘミア王国の権限を縮小した上で、反乱に参加した貴族や農民などを徹底して鎮圧したからなぁ……そういった行為に対する恨みなどは数十年・数百年経っても忘れられない人が多いのも事実だ……)
現に、プラハでは公共語としてドイツ語を話すように徹底した教育をされており、チェコ語は現地の言葉ではあるが、それを大々的に発言することは良しとしない風潮すら生まれつつあるのだ。
分離独立を狙っているのも、プラハを中心としたボヘミア王国はポーランドやハンガリーなどからも支配を受けていた影響があり、長らく自主独立が出来ない状況に置かれていたことも、独立を支持する勢力が躍進した要因の一つと考えられているのだ。
アントワネットの故郷であるオーストリアからしてみれば、自分達の支配地域の一地域という扱いになるが、プラハに住んでいる人達からしてみれば、ボヘミア王国としての運動を支援したいという気持ちがあるのだろう。
ただ、これらの地域を完全併合するという事は絶対に避けなければならない。
いずれ独立運動によって民族自決の精神が根付く頃合いには、必ずこの地域一帯が独立を果たし、現代のチェコのような国家を作り上げることになるだろう。
一時期はチェコスロバキアという国名だったこともあったが、政治権限の集中化であったりソ連が健在だったころにはプラハの春という民主化運動をソ連軍が鎮圧し、政治的な権限が集中していたプラハへの弱体化も兼ねて連邦制となり、やがて両国は別々に分かれて分離独立を果たした。
そして今は、チェコとスロバキアに該当する地域では連立した動きは今のところあまり見受けられない。
(早いところ、彼らの分離独立とまではいかなくても、ある程度高度な自治と権限を付与して緩やかな連邦国家制を導入したほうがいいかもしれないな……発言権を持たせておくにしても、彼らが扇動するようなことがあれば、オーストリアは直ちに軍隊を派兵して鎮圧するだろうし、今の状態を鑑みても北米複合産業共同体のスパイが活動していた場合、そういった独立の扇動行為を実施する恐れもあるからなぁ……)
そう、北米複合産業共同体のスパイが動乱を扇動するという考えられる中で最悪のケースも想定しなければならない。スパイがそこまでの事を出来るのかと言われるかもしれないが、現にプロイセン王国との戦いでは薔薇十字団への資金提供にカリオストロ以外の第三者が関与していた形跡が見つかっており、この第三者が複数の国を経由していたことも判明している。
そう、北米複合産業共同体との関係も以前から指摘されていたのだがベルリンの戦い発生当時までに、北米複合産業共同体は占領地となっていたロッテルダム付近の港湾に停泊した複数の船舶から技術支援となる蒸気機関を内蔵した兵器の供与を行っており、積み荷の一部はロッテルダムの戦いで無傷で鹵獲したのだ。
これをフランスの技術解析に回したところ北米複合産業共同体で使用されている砲弾と口径が一致していることも分かっている。
さらに付け加えると、北米複合産業共同体の主目的が欧州協定機構の瓦解ないし混乱を想定していたようで、ロッテルダムやベルリンにおいても武器や兵器が見つかっているのだ。
製造番号などもそのまま残されており、多くがニューヨークやノーフォーク製のものであることが判明している。
第三国を経由して戦争勃発前やプロイセン王国が有利に戦争を進めていた時期にプロイセン王国側の人物と接触し、武器や兵器の輸出を行っていたのは間違いないだろう。
(第三国を使ってフランスや同盟国を陥れようとしているのであれば由々しき事態だし、戦争で正規の手段で勝てないとなれば、国内の問題を激化させて分断という手段に陥れるのは中々手が込んでいるな……現代のハイブリッド戦争でもそういったことをしている国があるのは知っているが、この時代でもそういった戦法を使ってくる奴がいるとすれば……こちらも早く北米複合産業共同体を下さないといけないな……)
いずれも北米複合産業共同体の企業から出向していた人物であることも分かっているが、その人物はベルリンの戦いが勃発する直前に難民に紛れて姿を暗ましており、十中八九北米複合産業共同体が欧州協定機構への揺さぶりも兼ねて内外工作をしていた証拠として現在も国土管理局が捜査を進めている事案でもあるのだ。
北米複合産業共同体を倒さなければ、そういった国内の問題を激化させて世論を分断し、さらにオーストリアで内戦が勃発するリスクも高まるだろう。
中欧ヨーロッパ地域の民族は混在しているため、そこを突く形で民族問題が発起して過熱したら取り返しのつかない事態になるのは避けられない……。




