1052:長期計画
工業化を推し進める上で必要不可欠なのは、労働者の教育と技能の取得だ。
日本をはじめとした多くの国で工業化政策を取り入れていたが、こうした中で日本や韓国、それに中国といった極東地域が後発であったにもかかわらず、工業化によって経済大国に登り詰めることが出来たのも、基礎教育の基盤となる教育システムを取り入れていたことが挙げられる。
中国では士大夫をはじめとした役人制度や科挙と呼ばれている官僚制度などの歴史が根深く残っており、韓国も同じように学歴重視の社会体制が構築されたことで、現代でも韓国や中国では受験戦争が激しく、一流の大学に出て共産党幹部であったり、大企業に就職することが一種のステータスとして確定されていたりもしている。
日本も明治維新の際にスタートダッシュが出来たのは、技術導入の際に外国の技術者を呼んで自国で生産できるように工業生産体制を整えて、国内の重要な港湾都市などを次々と造船所や工業地区に建て替えて経済発展を遂げることができたという面もある。
高度経済成長期において、日本は環境を犠牲にしながらも発展していく都市を建築し、戦後わずか15年足らずで経済が飛躍的に向上して復興を果たしたのだ。
それまで軍事費に回されていた費用をアメリカが駐留して肩代わりする代わりに、経済の発展リソースにつぎ込むことが出来たのは僥倖でもあったのだ。
(日本の工業化が成功したのも、明治維新より前に寺小屋などの基礎教育を受ける機関が存在したことと、文盲率が他の国に比べても比較的低かったことかな……ただ、恩恵を受けていた都市部では高かったそうだが、田舎では文字の読めない人も少なくない数がいたそうだな……)
高度経済成長期が終わりを告げた頃に、学歴重視で一流企業に務めようとする学歴戦争が活発になった70年代後半から80年代はバブル経済と同時に勉強が出来ない人に対する偏見なども助長されるような事も起こり、時にはストレスによって自殺したり、他人に危害を加えて殺人事件にまで発展するケースもあった。
「教育の質を高める代わりに、社会的格差の是正は難しくなるからなぁ……工場で働いている人に対して見下すような発言をしたり、基礎工業や基礎インフラ事業を疎かにする政治家が誕生しないようにしないとな……」
どこぞの県では、高校を卒業した人に対してとんでもない暴言を吐いて知事職を辞任した奴もいたが、ああいう政治家というのは、普段から他人というよりも学歴と地位を見て人を判断している輩が多い。
故に、そういった人物が権力の座に就くと碌なことが無い。
結果として見れば、労働者の教育と技能の取得というのは簡単なようで難しい。
国の基礎が成り立っていないとこれが実現するのが手間になってしまうのだ。
それに勉強も大事だが、工業化においては過剰な学歴社会を作るべきではない。
学歴社会でなくても、過度な政策を推し進めてしまえば、その分のしわ寄せが国民に向かってしまう。
今はまだ王政主導による政治改革ということで多くの国民が付いてきてくれているが、これが立憲君主制に変更された場合、政党によっては公共事業を社会の無駄と言って切り捨ててしまう政党が出てくるかもしれない。
(あのような必要なものを無駄といって切り捨てた結果、中長期的なダメージを被った被害を出したからなぁ……政策集団としても決して良くはなかっただろう。イギリスの鉄の女とされた首相も労働者切りのようなことをしたせいで、今になっても評価は二分されている現状を鑑みるに国営でやっていた事が赤字という理由で民営化するのも良し悪しなんだよなぁ……)
必要な経済インフラを削減した結果、道路やダムなどの土建関係の職は減ってしまい、おまけにそこで成り立っていた工業なども削減と称して科学分野への支出も減ってしまった結果、経済的にも科学的にも大きな損害を負わせた政党がかつて日本にあったのだ。
あの頃よりも後に就職できたために、そこまで酷くはなかったが……丁度その時に就活をしていた先輩などは就職先が見つからない状況になって途方に暮れていたこともあった。
所謂、悪魔の政権時代を迎えていたことも考えれば、そういった科学や基礎インフラを一度疎かにして削減などをしてしまえば、これらの事業を補修したり請け負ってくれる会社なども多く減ってしまうのだ。
これに関しては政党の問題でもあるわけだが、イギリスの場合は必要な公営事業を『金が掛かるから民営化しちゃおう』という事で鉄鋼事業や鉱山労働などの労働者の仕事が無くなり、多くの失業者を出す事態に発展したのである。
最終的に失業率なども10%を超える事態となり、経済的には1990年までイギリスの経済状況はやや悪い状態でもあったのだ。
(つまるところ……自分達がエリートだから何してもいいというような政治家が産まれてしまうと、失言もさることながら反って失業率を上げてしまうような政策に舵を切りやすいんだよなぁ……)
議会制政治の悪い所が反映されてしまった場合、その被害を第一に被るのは国民であるが、国民は選挙という意思表示を持って統治者を否定し、代表者を変えることが出来る。
独裁国家のように、最悪の統治者がそのまま居座るよりは遥かにマシな制度である反面、民衆が熱狂的ともいえる反知性主義的な代表者を支持して選んだ場合、取り返しのつかない事態に発展することもあり得るというわけだ。
工業化政策において、欧州で一本化する方針に固めたのも各国が連携して工業化政策を実行に移すことにより、それぞれの格差を是正して欧州が一つの連合国家として誕生した際に、その工業化政策によって発展していく速度を平等化することにある。
これは格差是正もさることながら、工業化政策が遅れている地域での失敗を防ぐためにフランスが助成金や技師を派遣してその該当国に対して支援という形で工場などを建設する支援を行う取り組みだ。
今の状況はフランスだけ技術分野などが突出している状態であるが、このままではフランスの製品のみが欧州全体流通してしまうようになるが、他の国の製品が売れない事態になってしまう恐れがある。
そこでフランス主導でフランスの製品を作る代わりに、諸外国でその製品を作る工場を作れば多くの地域で製品の流通が循環するようになる。
特許権などはフランスなどが保有する代わりに、その大元となる革新的技術などを各国が保有し、生活必需品の製品であったり、工業製品などを各国で分担して生産を担うことで、不平等となり得るような事を極力無くし、その分野において予め規格化された製品を製造・販売などを行う流通システムを開発するつもりだ。
(欧州全土で工業化を促進し、そしてこれらの工業化した地域を発展させる代わりに、農業や漁業といった第一次産業に携わる人達への職を失わないようにしつつ、工業を進めていく必要があるわけだ。責任重大だ……)
これは所謂ブロック経済に似ているが、20世紀に行われていたブロック経済と違って、植民地に押し付けるのではなく、加盟国が平等に利益を享受し、また莫大な利益のうち社会福祉医療費などにもこれらの収益の一部を割り当てて、社会保障制度などを確立する算段でもあるのだ。
史実の産業革命よりも農村部の人口減少などは抑えられるはずである。




