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1050:解体(下)

分割統治領となっているロシア地域の多くでは、独立国と自治領となっている地域によって新ロシア帝国からの事実上の影響力を排除している状態である。

これらの地域において、再び大規模な反乱などが発生して新ロシア帝国だけでなく、オスマン帝国や東欧諸国への軍事侵攻が発生した場合、ヨーロッパの情勢不安を引き起こすリスクが高まるという理由で再軍備に関しても厳しい制約が課されている状態であった。


『通常兵力は諸国で最大5万人、これは通常師団や騎兵師団だけでなく、守備隊や工兵などを含めた数であり、将来航空戦力を保有することになったとしても、その軍備は限定的なものであることに限る』


軍備制限を掛けた理由には幾つか理由があるが、反乱や内戦もさることながら、一番の理由は将来これらの地域で国家の再統合を掲げる急進的なグループが誕生し、周辺諸国に軍事侵攻を起こした場合に備えて、戦力を限定して反乱軍の規模を狭める狙いがあった。


モスクワ都市連合国も例外ではない。

都市連合国となっているモスクワでは、周辺の都市との交流で欠かせない交易都市としての機能を維持しているが、軍事力は治安維持に必要な必要最低限の装備品と守備隊がいる程度であった。

その軍隊もモスクワ防衛軍という呼び名であり、防衛主体とした軍であることが強調されている。

再編成された師団は、歩兵が2個師団、守備隊が1個師団、騎兵隊と野戦砲部隊がそれぞれ2個連隊という小規模なものであった。


小規模ということもあってか、装備の質などを鑑みても再びロシアが強大化することは西欧諸国への脅威と見なされたこともあり、この世界においては再軍備は徹底した管理・運営がされることとなり、実質的にこれらの組織に関してはスウェーデンやフランス軍、さらにポーランドやクラクフといった欧州協定機構加盟国の軍高官が派遣されており、各都市国家やロシア帝国領だった地域に対して、軍備の違法な増強などをしていない監査が入ったのである。


監査を受け入れるのも代表者にとって、自分達は西欧諸国の敵ではないという事を示す事でもある。

モスクワ都市連合におけるクレムリン宮殿には皇帝はいない。

そして、史実のように共産党が支配しているわけでもない。

そこにいるのはニコライ・カラムジンであり、史実では詩人としてロシア文学に貢献をした人物であるが、この世界ではモスクワ都市連合の立て直しのために抜擢された政治家であり、彼は啓蒙主義を説きながら改革を推し進める代表者となっていたのだ。


「監査の皆さんはどうですかな?」

「はっ、本日より一週間程度モスクワに滞在し、各部署や防衛軍の点検を行うとのことです」

「ふむ、新年にわざわざ足を運んでくださっている彼らを丁重にもてなした上で、我々に敵意が無い事を示すことが重要です。まだ救世ロシア神国の攻撃と破壊から立ち直っていない地区も複数あります……こうしてクレムリン宮殿が辛うじて維持されているのも、彼らからの支援があってこそです」

「そうですね……首相閣下はこれからのご予定はどうなさるおつもりですか?」

「私のやるべきことは決まっているよ。詩人ではなく政治家としてモスクワの民のために経済を動かすために叱咤激励をすることだ。これから正午までは資料を読み終えて、午後の蒸気機関工場の生産見学と同時に、生産効率を上げるためにフランスからの技師と彼らから教わる労働者を労うのさ」


その肩書は『モスクワ都市連合首相』というものであり、彼の啓蒙主義はフランスのルイ16世から伝わったブルボンの改革をベースに作られたものである。

都市連合国ということもあり、商業ベースに再構築されたモスクワの多くで改革派による街の修復が行われていたのである。


救世ロシア神国軍がモスクワの戦いを行った際に、多くの場所で救世ロシア神国軍による略奪と抵抗戦闘が行われた影響もあってか、複数の地区ではピョートル降臨神への忠誠を示す為に集団で服毒自殺を遂げる信徒や、阿片の影響で正常な判断を失った兵士などが屍のようにフラフラと歩きながら建物に放火をするといった行為が多発し、モスクワの大部分が焼け落ちたり破壊されてしまった。

また、彼らが逃避行動をする際にクレムリン宮殿以外にも貴族の私邸やロシア正教会の建物では多くの宝石などを含めた金品や聖遺物が略奪されて、そのまま行方不明となってしまったのである。

カラムジンはその事に嘆いた。


「……それにしても、プガチョフがモスクワを去った後も、救世ロシア神国の教えを盲信する者達の抵抗が続いて新ロシア帝国軍やスウェーデン軍への攻撃などを繰り返し行う者達が少なからずいた……結果としてモスクワの三割以上の地域が戦災により焼失し、総人口の5分の1が戦火によって消え去り、残っていた者達の中にも関わりが深かった数百名以上が絞首刑に処された……極めつけはプガチョフが持ち去っていった私有財産や皇帝陛下に関わる宝石やイエスキリストの聖遺物を持ち去ってしまったことだ。あれが無くなったことで、モスクワへの支援に関しても規模を無くすべきという動きが聖職者の間で議論されていたのだよ」

「モスクワへの支援援助を拒否する動きですか……しかし、そのような動きがあったのは本当なのですか?」

「ああ、主に新ロシア帝国に逃れたロシア正教会関係者が激怒していたのだよ。イエスキリストの聖遺物を略奪されたままの状態ではモスクワ復興のための資金援助を出すことはできないと新ロシア帝国政府に直談判までしたそうだ」

「直談判……」

「幸い、スウェーデンやフランス側がロシア正教会側を説得したお陰で支援の打ち切りに関しては取り下げになったが、ロシア正教会側は当初予定していた金額よりも大幅に金額を下げたのだよ。モスクワに残っていたロシア正教会の信徒も減っていた上に、多くの者が教会に対する不平不満を述べていたからね……失った信仰心は戻ることは難しい……」


ロシア正教会の復興は道半ばであり、モスクワに至っては宗教として復帰するためにも地道な努力が必要な状況であり、そうした宗教関係施設なども監査の対象となっている。

監査対象となっているのは、新ロシア帝国との領土と接点が深いモスクワ都市連合を中心に、複数の中小国となった救世ロシア神国の領地だった地域に憲兵隊を引き連れて監査が行われることがしばしばあり、時には救世ロシア神国のプガチョフを酔狂していた軍高官が反乱を起こそうと画策していた証拠なども挙げた上で検挙などを行う事例も複数あった。


スウェーデンやフランス側が新ロシア帝国への再統合を拒んでいることを把握しており、その理由なども新ロシア帝国側がモスクワなどを併合した場合、一度救世ロシア神国からの攻撃に晒された際に、住民たちを見捨てて逃げた貴族などが多くいることなどから、住民たちが猛反発を行う事が予測されたという事も考慮に入れる必要がある。


モスクワ都市連合は列強と新ロシア帝国政府から承認を受けているからこそ成り立っている中小国であり、同時に周辺国から集まってくる農産物や毛皮や鉱石などの資源が集まる商業都市へと変貌を遂げようとしている。

史実よりも、モスクワは都市国家として発展していくことになるのだが、それはまた別のお話となるだろう……。

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