1048:湖畔(下)
オーギュスト様の草案した王室を数百年以上維持させる方法……。
それは欧州協定機構加盟国内においても必須とされる方法であり、既に諸外国でも検討を準備している旨の話も伺ったことがあります。
それは、王室や皇室の明確化と政治が情勢不安になった際に、国王や皇帝が諫めて正常化に向かうために各国と連携して情報共有と不安を排除するために行動を起こす旨があったのです。
オーギュスト様の草案では、諸外国における王室や皇室の安全確保も含めて、過激な平等主義思想であったり、自らを神の化身と名乗ってロシアで大暴れしたプガチョフのような反乱が出現した際に、それを阻止するために国王や皇帝が主体となってこうした動きを排除する事に同意し国軍を動かせるようにする事と、内乱等が発生しそうな場合に備えて王室や皇室を護衛する直属の近衛師団を創立し、軍とは別の組織系統を持った独自の軍隊を確立させる事なども盛り込まれておりました。
「欧州協定機構加盟国内において、内戦や先の過激な平等主義者やピョートル降臨神と名乗っていたプガチョフのような者達が出現した場合に対抗手段として国軍を動かす事は分かるのですが……王室専用の軍隊は必要なのですか?」
「近衛兵に該当する組織もいるにはいるが、今まではスイスの傭兵であるギャルド・スイスに任せていたからね……つまり、スイス人の傭兵だけが護衛隊として任されている程度だったけど、これはあくまでも王室の護衛任務であって、フランス衛兵隊もいるにはいるけど……彼らの組織改革も最近問題になっているからね……今は戦時中だからある程度は許容されているけど、外国人傭兵との間で摩擦が発生しているんだ。無論、彼らの能力に疑いの余地はないけど、いずれ今の状況が続くようであれば組織全体を改革して、有事や国内で王室を狙った襲撃事件に対応するための独自の軍隊を保有しておく必要があるわけだ」
昨今も治安の面では少人数による襲撃事件があった事も影響しているのでしょう。
テレーズを狙った事件では、テレーズ自身は無事でしたが彼女を守ってくれた随行員の腹部に弾丸が命中し、治療よりも職務を優先した結果、随行員は帰らぬ人ととなってしまいました。
少人数による襲撃事件……これをオーギュスト様はテロリズムとして各国の王族や皇族関係者にも事件の全容を共有した上で、今後はそういった過激な考え方を信念としている者達が襲撃をする事案が増えていく可能性も示唆しておりました。
「テレーズの時は、少人数で事件直前に不審人物がいるという通報を受けていたが、これが単独犯で行なわれていた場合、成功してしまっていた可能性もあるんだ」
「単独犯……ですが、それだと協力者などが居ないと無理ではないのでしょうか?」
「いや、元軍人や銃弾などを調達できれば単独でも出来てしまうんだ。一匹狼のような奴が王室や皇族関係者を襲撃するような事案も無きにしも非ずだ……グスタフ3世陛下が暗殺者に襲撃されかけた事案があったと思うけど、その時の犯人は単独犯でグスタフ3世を暗殺しようとしていたんだ」
少人数であったり、単独犯による襲撃にも気を付けなければならないとおしゃっておりましたが、曰く、スウェーデンのグスタフ3世陛下が仮面舞踏会を訪れていた際に、暗殺者が背後から近づいて殺害をしようとしたことがあったのだそうです。
この時はオーギュスト様の助言で暗殺者が近づかないように見張りの人を張りつかせていたおかげで襲撃に対処できたそうですが、単独犯の場合は襲撃するまでにそこまで時間をかけない上に、事前準備などを含めて事件直前まで平然と一般人を装っていることもあり、発見が難しいのだそうです。
実際に、襲撃されたグスタフ3世陛下も襲ってきた暗殺者が声を掛けてくるまでは、殆ど警戒していなかったそうです。
暗殺者による襲撃の防止……これは目下の課題でもあります。
実際にルイ15世陛下もアディライード様のご乱心によって襲撃されて死亡しましたし、襲った際の相手も一人であったことから扉を守っている守衛兵もアディライード様がやってきた時にそのまま素通りさせてしまった経緯もあります。
そうした事を防ぐために国王や皇帝を守る直属の軍隊である近衛師団を創設し、指揮権などを全て国王が管理するという事になるそうです。
「それが近衛師団というわけですね?」
「そうだ。ただ、この近衛師団は外国からの王室や皇室の護衛任務であったり、宮殿や住居の警備任務に割り振ろうと思っているんだ。今の様に傭兵で王室の直属の護衛を任せているのもありがたい事ではあるんだけど、このまま時代が進めば指揮系統命令に混乱が生じる可能性が高くなるからね。あくまでも彼らが精鋭であるということを自覚した上で、平時は護衛や儀仗などの国際交流の場で活躍してもらい、有事の際には首都圏を護衛し、敵国軍が迫ってきた時に出撃したり王室を首都から退避させて安全な場所まで輸送する事なども想定しているんだ」
「そこまで取り決めを行っているのですね……ですが、そうした事も考えているという事を踏まえると、そこまで改革を執り行わないといけないところまで来ているのですね」
「うん、フランスだけの問題ではないからね……王室を護る部隊というのもきちんと取り決めて置かないと、今のままでは欧州協定機構加盟国内で有事があって、反乱や内戦が勃発した際に王族や皇族の人達を守るための組織統制が明確化されていないから、そういった有事に王族や皇族が巻き込まれて交渉の道具にされたりしてしまうリスクのほうが大きくなるんだ。それを防ぐためにも、各国で近衛師団を創設して取りまとめるほうがいいと思ったんだ」
近衛師団と仮称されたこの軍団は、王室の護衛や儀仗兵などを取りまとめた部隊であり、高等教育などを受けた人達によって編成される一般の軍隊と比べて質の高い軍人によって構成される軍隊となる予定です。名目上では近衛師団は陸軍と海軍双方から人員を補充し、これらの人員が確保次第創設される予定とのことです。
近衛師団はスイス人傭兵なども参入した上で、平時では王族や皇族関係者であったり、来訪してくる外国人の要人の警護などを行い、彼らが襲撃者から守るために行動を行い、有事が起こった際には精鋭師団として重要な戦線に投入することも考えているのだそうです。
ただ、やはり戦争中ということもあってか、今軍隊の再編成を行うと軍務に支障が出てしまうことを考慮してそのような事は実行に移していないそうです。
北米複合産業共同体との戦争が終わっていた事もあってか、完全に執り行うのは戦後になりそうですが、既に計画そのものは陸軍大臣と海軍大臣の承認もあって動いているとのことです。
精鋭ゆえに、軍隊の中でも最新鋭の装備品で固める部隊のようで、国威を見せつけるための軍隊になりそうです。
オーギュスト様の考えたやり方が着実に実を結びそうですね……。




