1026:未来派の技術
鉄筋コンクリートに関する技術を提供してもらう事が決まり、まずは一安心といったところだろう。
鉄筋そのものは史実では19世紀半ばにフランスにて誕生した建築方法ではあるが、これが急速に普及したのもコストが安価であることと、鉄筋コンクリート建築による製造方法が主体になった理由というのが、急ピッチでレンガよりも早く作れるという点だろう。
ただし、品質が悪い状態で粗悪なコンクリート作りを推し進めるものではない。
戦前の日本で建設されたコンクリート建築で築100年以上現存しているコンクリート建築の多くが、コンクリートの厚さなどをきちんと測量してから建設された建物が多いのだ。
つまるところ、測量士によってコンクリートの密度などを計算した上で造られたものは、頑丈で高い耐久性を誇るのだ。鉄筋コンクリートもまた然り、計算した厚さ等によって建物の強度も増してコンクリートよりもより耐久性向上に繋がるというわけだ。
「鉄筋の製造方法などを確立して建築するとして……この時代に集合住宅としてコンクリートないし鉄筋コンクリート建築のアパートを建設するとしたらどのくらいの期間が必要になるかね?」
「うーん、そうね……安価なコンクリートのみであれば、この時代でも人員をフル活用すれば3か月程度で出来ると思うけど、鉄筋コンクリートとなれば8か月以上は掛かるんじゃないかしら?それでも集合住宅としての建築であれば鉄筋コンクリートを入れておけば耐久年数も高いだろうし、災害があった場合でも耐えきれると思うわ」
「そうだね……鉄筋コンクリートはいきなりは作れないかもしれないけど、コンクリートであればしっかりと調合さえすれば可能ではあるかもしれない」
鉄筋そのものは強度は高いのだが、内部の鉄筋が外壁などから染み込んだ二酸化炭素に触れる事で酸化が起こり、それが原因で内部の腐食が起こるのだ。逆にいえば、この鉄筋に二酸化炭素が行届かないようにコンクリートの厚さを分厚くするようにすれば、コストは増えるが腐食しにくい頑丈な建築が可能のはずだ。
(鉄筋コンクリートに関しては彼女に書かせるとして……通常のコンクリートの製造方法でも正しいやり方でセメントを固めておかないといけないからなぁ……鉄筋に関しても技法が必要だし)
その肝心の鉄筋の製造には特殊な金属加工の技法が必要不可欠であり、単なる鉄棒をぶっ刺して鉄筋コンクリートにすることはできない。あの鉄筋コンクリートには鋼の部分に凹凸のある鉄筋を使うため、それ相応の技術が欠かせないのだ。この技術に関して詳しく知っているのが目の前にいるメリッサただ一人であり、彼女がいない場合は19世紀末に発明されるまで待たなければならない。
そのため、鉄筋コンクリートではなく安価なコンクリート建築で建設を行う場合に、必要とされる技法などについて意見交換をしたのである。
俺としても仕事で建設関係の人と打ち合わせをする機会があったので、通常のコンクリートでの建設方法の際に厚みなどについて話をしたのだ。
「コンクリートの耐久年数強化のために腐食防止用としてコンクリートの厚みを増やす方法があると思うのだが……この時代ではそれが一番ベストだと思うかね?」
「そうね……電気水による腐食防止剤の散布等もまだできないだろうし、この時代でコンクリート建築を進めるのであれば、コンクリートの厚みを増やして行うやり方が一番現実的だわね」
「やはりコンクリートの厚みを増やす方向がいいな……壁ではおおよそ100mm以上が必要ではないかね?」
「うーん、もっと必要ね。貴方のいた国では100mmでもいいかもしれないけど、実際にコンクリート建築で建物を作るのであれば、耐久性も考慮して130mm以上の厚さの壁を作るべきよ。ガッチリと頑丈な建物を作るのであれば壁として使うのであれば150mm以上の厚さにすれば先ず大丈夫よ。政府の施設とかは倍以上の厚さの壁で作られているわ」
「成程、150mm以上のコンクリートにするべきというわけだな……」
建築関係に関しては流石というべき博学である。
思想の面を除けば、メリッサは十分に心強い。
可能であれば建設大臣のアドバイザーとして雇いたいのだが、思想的にやや左に偏り過ぎているのが玉に瑕どころかかなりの瑕であるので、それは出来ないだろう。
彼女の秘密を知っている者は、その秘密を口外すれば身分も実績も例外なく死を迎える契約書にサインしており、うっかり会合等でバラしてしまえば彼女の身柄を攫おうとする者も現れる可能性だってある。
それに、万が一彼女が諸外国で王政を拒否して革命主義運動などを行えば、たちまち欧州各国に混乱の渦を巻き起こしてしまう可能性が高い。
彼女は根本的に社会主義革命を高潔な使命だと考えている節もあるので、主義主張に関しては真面目に聞いてしまうとコッチが社会主義者になりかねない。
取り扱いは要注意である。
「それと……コンクリートだけど、しっかり配合を揃えることが重要よ。これが間違った数値になるとそれだけで耐久性が下がってしまうわ」
「やはり測量をしてコンクリートの厚さだけでなく、配合の度合いなども考えてやるべき代物なのだな……こちらではローマン・コンクリートを使って作ってはいるんだが、やはりローマン・コンクリートだけでは火山灰などを必要とすることから製造方法も複雑になっているのが難点だな……」
「……よくローマン・コンクリートを作ろうと思ったわね。あれは確かに火山灰を使っているから耐久性はかなりあるほうだけど、それでもローマ帝国時代が終焉を迎えてから千年以上使われていない製造方法よ?」
「昔、文献で見たのを思い出してイタリアに調査団を派遣して主に要塞建築のためにローマン・コンクリートを作るように命じたんだ。ローマン・コンクリートは耐久性もあるけど、コスト面が高いからね……」
「鉄筋を使わない上に強度がそこそこある古代ローマ人の知恵だけど……耐久性の反面、普通のコンクリートを作るよりかなりのコスト高のはずよ」
メリッサの指摘の通りだ。
ローマン・コンクリートは確かに耐久性も長い反面、その製造方法が複雑である事とイタリアの火山灰を輸入しているため、要塞一個を建設するたびにそれ相応の予算が必要となっている。
レンガ造りの要塞を建設する費用の倍近く掛かっており、実質的に高コストであることを考えると、現代建築として広く使われている20世紀に普及したコンクリートを使用したほうがいい。
だが、コンクリートは安価である反面、耐久年数が50年から70年程度と半世紀程度である事を鑑みると、粗悪品のコンクリート建築を建設すると直ぐに駄目になってしまう。
メリッサの言う通り、しっかりとコンクリートを作る過程で混ぜ合わせたりしないとひび割れや内部の亀裂が早々に起こってしまう。
故に、これらの事態を防ぐためにコンクリートの調合内容などもメリッサから聞く必要があるのだ。
その日は丸一日掛けてメリッサからコンクリートの調合方法などを聞いていたのであった。




