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1013:平原

☆ ☆ ☆


1796年6月29日


フランス ヴェルサイユ宮殿 ジョゼフの部屋。


おはよう、三日前からジョゼフの容態があまり良くない。

それまでは普段通りの生活を送れていたわけだが、四日前から微熱が続くようになってから部屋で寝込んでいる。

それもただ寝込んでいるわけではなく、症状悪化によるものであった。


その時から喘息の症状が悪化しており、肺炎を患っている可能性があるとサンソン氏から直に言われたのだ。それも、喘息との合併症という事もあり、下手をすれば今日にも山場を迎えるのではないかと言われているほどだ。


「ジョゼフ皇太子殿下の具合はあまり芳しくはありません。以前からの持病である喘息に加えて、肺の一部が炎症を起こしてさらに症状を悪化させております。このままの症状が続けば、今夜にも容態が急変する恐れがあります」

「……サンソン……息子は、ジョゼフの容態が安定することは難しそうか……?」

「……今、持てるだけの医師などを動員して治療に当たっている所です。ジョゼフ皇太子殿下の右側の肺の炎症がこれ以上広がらないように、絶え間なく薬と鎮痛薬を投与しております。あとは、栄養になる飲み物などを摂取し、炎症による衰弱を避けるために医師が常駐しております。万が一のことがあればすぐにでも陛下や王妃様にもお伝えできるように致します」

「ありがとう。衛生保健大臣としての職務の傍らにすまないね……」

「いえ、陛下のお頼みとあれば取り組むのが家臣としての務めです。それに、ジョゼフ皇太子殿下の容態が好転する可能性もあります。とにかく今はジョゼフ皇太子殿下に労いの言葉を掛けてやってください。今はまだ阿片を服用したばかりなので意識はあります」


サンソン氏に案内されてジョゼフの部屋に入ると、ベッドの上でジョゼフは寝ていた。

喘息などで吐き出した痰などを吸引したり、呼吸を安定させるために空気を直接送り込める原始的な酸素マスクが複数の発明家によってすでに試作段階ではあるが開発されており、これらに蒸気装置などを組み合わせて取りこめるようにベッドの周囲に置かれている。

ベッドの上でジョゼフはここで治療に専念している。

ジョゼフは苦しそうな表情をしながらも、大丈夫だと笑顔で答えてくれた。

本当は苦しくて辛いだろうに……阿片の服薬量も多くなっているが、それでも苦痛を和らげるのには欠かせない存在となっているそうだ。


「あ、お父様……来てくれたんですね」

「ジョゼフ……あまり無理はするんじゃないぞ」

「ゲホゲホ……わかっているよお父様……でも、もし何かあったときには弟のシャルルにお願いしたいんだ」

「……分かった。だが今はゆっくり治すのが先決だ。きっとよくなる。大丈夫だ……だから今は休め」

「はい……ゲホゲホ……」


見るからに痛々しい姿をしていた。

ジョゼフの症状は肺炎の疑いもあることから、咳をする度に重たい音をしている。

肺の奥から咳いている状態であり、今のジョゼフはかなり苦しんでいる状態だ。

痛みのケアに阿片をの量を多くしてもらっているようだが、それでも呼吸がしずらい関係で何度も咳をして、時には痰などを吐き出している状態だ。


ジョゼフの容態としては喘息に肺炎……この時代では完治はかなり難しいだろう。抗生物質もなければ外科的手術によって肺炎を引き起こしている箇所に人工肺装置であるECMOなんてものはない。

だから対処療法と、この時代で一番喘息などの咳症状に効果がある阿片を服用するしかないのだ。

ジョゼフとて、鎮痛薬としての使用を認めているものの、今では阿片を手放せない状態にまで悪化していること鑑みれば、親としてその光景を見ているのは辛いのだ。


阿片に関しては、この時代でも服用が認められている鎮痛薬であるし、本来なら肺炎時に服用することは咳だけでなく気道に関わる状態によっては禁忌とされているようだが、今回ばかりはそうはいかない。

激痛によって胸を抑えて苦しんでいるんだ。

何度も何度もうなされている上に、痛みが凄まじいので医師たちも鎮痛薬として処方するしかないという判断を下しているのだ。


元々が喘息の持病を抱えている状態だったので、ステロイド薬などを持っていれば気道確保などもしやすいはずだが、ステロイド系の薬が発明・開発されたのが第二次世界大戦後だ。

この時代にはない。

タイムスリップしてきたメリッサにも持ち込んできた薬などがあるか尋ねたものの、彼女が持ってきたのは酔い止め用の薬と、酒を飲み過ぎた時に服用する予定の胃薬程度しかなかったのだ。

ステロイド剤が無い状態では、即効性があって鎮痛作用がある薬は阿片ぐらいしかない。

故に、阿片を服用して少しでも痛みの緩和をするしか方法がないのだ。

その中でも、アントワネットが一番辛そうな表情でジョゼフを見ていたのだ。


「ああ……ジョゼフ……どうして……」

「アントワネット……大丈夫だ。ジョゼフは確かに弱ってはいるが、助からないわけじゃない。まだ希望はあるんだ。だからジョゼフをそっと支えて上げるのが一番なんだよ。心配そうに本人の前で辛そうにしてしまうのが、一番彼にとって辛いんだ。それを分かってあげてほしい」

「……ええ、わかっております。ジョゼフの前では決して泣いたりはしませんわ……」

「そうしてもらえると助かる……今のジョゼフに必要なのは安心と、必ず治せるという自身だ。それがあれば気力で乗り越えられるよ」


……あまり精神論で解決しようとするのはよろしくないのは自分でも重々承知しているが、今の俺たちに出来る事は、ジョゼフの体力が持って明日を迎えることができるようにすることだ。

史実でも、ジョゼフは乳母の母乳を飲んだことで結核に感染していたとされており、その時に感染した結核菌による複合合併症によって背骨が曲がってしまい、満足に歩けない身体になっている上に、10歳を迎えるまでに天に召されてしまった。


この世界でも彼が病弱ではあったが、ここまで生命の危機ともいえるピンチを迎えたのは初めてだろう。

如何せん、ジョゼフの容態は比較的安定していたうえに、大学教授などがジョゼフのために個別授業を開いてくれていた程だ。

身体が自由に動ける状態でなくても、勉学を学びたいという心意気に関しては人一倍強い子だ。

そんなジョゼフがここで命を尽きるなんて事態は避けてもらいたいほどだ……。


「ジョゼフ兄さん……」

「ゲホゲホ……すまないシャルル……今回ばかりは相当つらいよ……ゲホゲホ……」

「今は無理しちゃダメですからね!絶対安静にしていてくださいね!」

「ああ……ゲホゲホ……わかっているよ……」


シャルルも沈痛な面持ちでジョゼフと話しており、何度も首を振って「ジョゼフ兄さん、早く良くなってください」と励ましをしている。

微笑ましい光景だが、シャルルからしてみれば親しい兄貴であり、勉学なども分からないことがあればジョゼフから教わったと聞いている。

やはり兄の状態は見ていて辛いのだろう。

涙を浮かべながらシャルルはジョゼフと話をしていたが、表情はあまり芳しいものではなかった。

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― 新着の感想 ―
石炭利用増えて徐々に公害が起き始めてたりすんのかね。ずっと温泉地帯で養生させとくんじゃだめか。
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