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1004:レーニン

牢獄に案内されると、入り組んだ通路を進むことになった。

これは万が一部屋から脱走されたとしても通路側のセキュリティチェックをしなければ通路から出ることが出来ないように設計されている。

一か所を突破されても次の通路には金属製の扉があり、さらにそこには24時間体制で守衛の憲兵隊が常駐している。この場所を突破する事は早々できないだろう。


取り調べを行っていたデオンが付き添いで来てくれるのもありがたい。

彼女は口が堅いので、安易に人に喋ることはしない。

それに、剣術の達人でもあるので万が一学生側が危害を加えようとすれば直ぐに制止のために剣を抜く事も辞さないだろう。

むしろ一人で行って捕まったりしたらそれこそ本末転倒だろう。


「それで、例の学生の様子はどうなっているのかね?」

「今のところだいぶ落ち着いております。昨日まではかなり高圧的で喚いていたりもしておりましたが、国王陛下が話がしたいと聞くと落ち着いたとのことです」

「うむ、王政廃止を訴えている連中でも、その当事者本人が来ることになれば流石におとなしくなるというわけか……」

「はっ、身体の検査をして金属製の凶器となり得るものや、木製の机なども全て撤去しております。何かあった時の際に我々が陛下の傍におります」

「学生と話している最中に、かなり()()()()事を話すかもしれないけど、それは聞き流してもらって構わない。デオンからしてみても突拍子な話になってしまうかもしれないけど……そこは大丈夫かい?」

「ええ、私としても陛下の話す言葉が、例え難儀な物であったとしても心のうちにとどめておきます」

「デオンが傍にいると心強いね、何かあった時にはよろしく頼むよ」

「はい、この身に代えても陛下をお守り致します」


デオンには何かあった際には抜刀しても良いと伝えている。

相手が平等思想主義をキメている状態では、最悪の場合自らの命と引き換えに襲い掛かってくる可能性も捨てがたいのだ。

手錠と合わせて足にも拘束具を付けているそうなので飛び掛かったりはしないだろうが、それでも相手が襲う可能性を考慮するとこうした現代の感覚では都道府県知事の特別な許可が下りない限りやってはいけないような拘束行為もやむを得ない。


牢獄の中でも奥深くにある『特別収監室』に学生はいるらしい。

ドアの前には守衛の兵士が5名も常駐しており、全員が剣や単発式のマスケット銃を装備している。

これは脱走や自殺などを図ろうとした際に取り押さえたりすることができる人数でもあるという。

彼らの傍には非常用のベルが常備されており、このベルを鳴らせば鉄の扉が閉まって脱走などを食い止めるために様々な仕組みが飛び出すというわけだ。

守衛の代表者が最敬礼で俺たちを出迎えてくれた。


「国王陛下、このような場所にわざわざお越しくださり、大変ご足労おかけいたします……」

「いや、大丈夫だ。ここに収監されている学生……は、国土管理局の調べで少し特殊な人物なのだ。そして、少し離れた場所に待機してもらいたい。ここから話す会話が聞こえたとしても、決して外部に漏らしてはならない。もし漏洩した場合は国家の機密を流した疑いで裁判なしに処されることになるだろう。それを肝に銘じてもらいたい……」

「はっ!!!ここにいる者達は牢獄内の守衛の中でも口が堅く、金品や女性との関係にトラブルのない者達のみで構成されております。万が一、裏切り行為などがあった場合は、私をギロチン台に処してもらっても構いません」

「……分かった。君たちの覚悟をしっかりと受け取った。では、扉を開けてもらいたい」

「はっ!!!扉を開けよ!!!」


特別収監室の扉という事もあってか、鍵穴が三つもあり、それぞれ同時に回さないと開錠できない仕組みになっているようだ。

これを考案した錠前師も中々凝った作りをしている。

開錠した際に、扉の上部と下部に備え付けられている外側の棒を引き抜いて、初めて扉が開くのだ。

鉄で出来た扉が開くと、そこにいたのはブロンズ色に染まった長髪の女性であった。

……この女性が共産主義ぶち上げて拳銃発砲したってマジなのか信じがたい印象だ。

ぱっと見ではおとなしそうなんだけどね……でも、すごくこちらを睨みつけるような目つきで見ているので少し怖い。

俺とデオンが入ってから扉がゆっくりと閉めていき、ガチャンと鍵がロックされた音が響き渡る。


「では、自己紹介をしよう。余はルイ16世……このフランス王国で国王として王座に座っている者だ。君の名は?」

「……」

「沈黙か……それもいいだろう。君の持っていた所持品はこちらで押収されてもらったよ」


学生はうんともすんとも言わない。

こちらをジーっと見ているが、敵意を感じる視線を向けてきている。

ドMなら喜ぶような視線かもしれないが、生憎俺はそんな趣味はない。

彼女が持っていた所持品は拳銃やノートパソコン、スマートフォン、それから複数の建築や科学に関する本だ。それも1920年代に流行した前衛思想を意識した内容の本を持っており、これは現在フランス科学アカデミーで調査・研究の対象となっているのだ。

デオンから目の前にいる学生のプロフィールが記された用紙をもらい受けた。

ふむ、やはり名目上は未来人だな……学者たちは首をかしげていたが、おおよそ俺の想定した通りの未来人であることに間違いはないようだ。


「名前は身分証明書から引用してもらう。メリッサ・ブランシャール……パリの大学にて技術工学を学んでいた……記載されていた学生証には西暦2000年生まれとあってね、科学者たちがこの学生証が偽物なのか本物なのか疑問視していたよ。スパイであったとしても、ここまで西暦の年数が違うものを用意するのはおかしいと語っていたぐらいだからね」

「……」

「それで所持していた製品は……実に興味深いものだ。これは少なくともこの時代に作られたものではない。200年以上先に作られた技術なのは確約だろう。スパイであれば、このような方法で捕まることすらまずありえないからな……君の主目的は分からないが、かの偉大な共産主義革命を訴えたマルクスの教えを広めようとしているのではないかね?」

「……!なぜ、マルクスの名を知っているんだ?!」

「おや、何故知っているか不思議に思っているのか、ふむ……ならば先ずは対談しよう。その方が貴方も落ち着くことができるだろうからね……」


マルクスという単語にメリッサは反応した。

やはりそうだろう。

社会主義を広げたマルクスが誕生したのは1818年。つまりまだまだ先の未来に産まれてくるはずの人物の名前が俺の口から出てくるのはおかしいと思ったのだろう。

そして、先ほどの目つきから怪奇な現象を目撃したかのような畏怖を感じ取るような目つきに変わっていくのを確認できた。

これでメリッサは俺の正体に感ずくだろう。

そして、俺は彼女が興味を示す言葉を出して、メリッサの注意を引く事にした。

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― 新着の感想 ―
俺らも知らん未来から来たみたいだけど、大学生くらいだとまだ親も生きてるよなーとか急に友達や社会から無理やり引き離されてかわいそうだなーとかのが強い。大人からすりゃ正直まだまだ子供だろうし。戻れるんかね…
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