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1002:未来からの使者

☆ ☆ ☆


1796年5月3日


フランス 新バスティーユ牢獄まであと30分


おはよう、牢獄への訪問をこれから行おうと向かっているルイ16世だ。

なぜ牢獄に行こうとしているのか?

疑問に思った人もいるだろう。


それは先月発生したパリ中央大学銃撃事件において、銃を発砲した犯人が逮捕・収監されており、この犯人がどうやら奇妙な物を持っているという報告を受けたからだ。

最初は平等思想主義者による暴走行為だと思っていたんだが、話を聞いているうちに【転移者】っぽい事を述べている上に、彼の事を調べた憲兵隊なども持っていた所持品の数々が精巧に作られた工業製品を持ち歩いていたことを踏まえても、ほぼほぼ確実に転生ならぬ転移者であることが分かったのである。

無論、転移者である確たる証拠に関しては陸軍に調査・研究用に回された拳銃だ。


この時代はまだ拳銃は単発式が主流であり、それもマスケット銃のような姿をしていることも相まって基本的に至近距離で襲われた際の護身用、もしくは暗殺で一撃確殺を目的に開発された経緯があるため、連射することはできない。

だが、犯人が持ち込んだ拳銃はその場において少なくとも3発発砲しており、内部にまだ弾が装填されていることから連射可能な銃であった事。


それから英語で銃の刻印などがされていたことから、フランス製ではなく英語圏で生産された銃ではないかとこの時代の軍人らは推測していた。

報告を行ってきたのは軍の調査担当を担う部署の人間であり、史実では自由主義貴族の一人としてエトワール凱旋門に名前が遺されているルイ・マルク子爵が報告をしてくれたのだ。


「陸軍の方で厳重に保管しておりますが……あのような形状の銃は見たことがありません。蒸気機関銃などであれば蒸気機関を内蔵しているため重さも比例して大きくなりますが、あの小型で火薬式の銃弾を連射できる銃はどこの国も開発に成功しておりません。北米複合産業共同体が送り込んだスパイの可能性があります」

「スパイが……?しかし、大学構内で堂々と銃を掲げて撃つような輩に銃を与えるとは思えん。スパイだとしたらもっとうまく溶け込むようにやるべきではないのかね?」

「しかし、新会社のH&Kという社名もMARK23という名称も聞いたことがありません。国土管理局でも北米複合産業共同体の調査は行っておりますが、かの国は企業国家であり、全て企業統治下によって行われている計画生産が現状のはずです。新しく独立したか、秘密裏に設立した企業で生産されたものである可能性も捨てがたいですね……」

「秘密裏に生産されたモデルか……それだとごく少数であっても、スパイが暗殺目的で使用してくる可能性があるというわけだな?」

「その通りです。いずれにしても、この銃は小型化されている上に連射が可能な火薬式の実包を使っていることは確かです。金属製の薬きょうの型式であったり、細部に関しても陸軍において鑑識などを行って生産可能か調べております」

「うむ……いずれその者は尋問でも口を割らないかもしれないな……それだけ覚悟を決めている可能性があるからね……銃の写しを貰えるかね?」

「はい、こちらにございます」


精巧に書き写された銃を見て、俺は思いっきりたまげてしまった。

20世紀初頭から生産されている自動拳銃の流れを汲んでいる銃であり、それでいて拳銃といえばコレというデザインをしている。

……うん、それ思いっきり未来製の銃です。

それも1990年代に開発された銃だ。

最初聞いたときは報告書の上にコーヒーをこぼしかけてしまった。

そのぐらいの衝撃がやってきたのだ。


(バリバリにこいつ未来人じゃん!H&Kってドイツ製だし、おまけに口論して取り出すとかどんだけコイツは短気的なんだ……。いやいや、喧嘩でナイフ取り出したとかならまだ分からなくもないけど、初手拳銃発砲はやり過ぎでしょ……)


H&Kもドイツ製の銃火器メーカーの銃である上に、MARK23は民生用モデルとして有名な銃だ。

某有名な潜入を行うゲームでも主人公が愛銃として使用しているだけに、日本での認知度もそこそこある銃だ。

そんな銃を持ってきた未来人が大学内で口論の末にいきなり銃撃事件を噛ますことは正直取り扱いにくい事案でもあるのだ。


(平和裏に接触できれば良かったんだけどなぁ……どうも聞くところによればフランス革命を知っている人間な上に、革命主義思想に傾倒している疑いが強いと出ている。これまた難儀な人間だなぁ……俺と同じ未来人なのは嬉しいんだけど、これきっと文化的には話がかみ合っても思想的に相反する事でお互いに批判する形で終わりそうでもあるんだけどな……)


そう、未来人であれば平和的に接触を図ってから進むことが物語の鉄則でもあるのだが、今回はかなり事情が事情だけに俺の一存で無罪放免にするわけにはいかないのだ。

同じ日本人であったなら、日本語であの手この手で会話をして話を弾ませることもできるが、聞いたところによれば一見すればフランス人ではあるが、かなり革命主義思想を述べることが多い上に、取り押さえた際にも王族への批判と廃絶を訴えていたというのだから相当の筋金入りと言っても過言ではない。


(一般人だったらここまで拗れなかったんだと思うんだけどなぁ……王族廃止とか革命起こして平等にしろとか、完全に共産主義体制を支持している人だよねぇ……うーん、なんでまたそんなゴリッゴリのハンドルを左にきったような人物がやってくるんだろうか……いや、今の戦況はそこまで切迫していないから対応できるんだけどさ……)


今のところ北米複合産業共同体との戦闘は順調に進んでいるため対応できる案件ではあったが、未来人との対応となるとかなり選択肢を間違えないようにしないといけないな……。

言動からして冷戦期ではなく20世紀末から21世紀初頭辺りの人物だと思うが、あの銃が生産された頃にはソ連も崩壊してロシア連邦になっているし、民主主義国家が最も勢力のあった時代だ。

湾岸戦争やユーゴスラヴィア内戦などもあったが、あの時代は西側諸国にとって脅威となる大国が崩壊し、これからの時代は明るい21世紀が待っている……そんな時代でもあったのだ。


だが、蓋を開けてみれば21世紀の始まりの年にアメリカの世界貿易センタービルとペンタゴンにテロリストがハイジャックした旅客機が突っ込んで対テロ戦争の時代となり、民族的、人種的な対立が20世紀以上に深まって混沌とした時代となってしまった。

インターネットでは極端な政治思想が跋扈し、極右や極左勢力が台頭し、中道的な政治思想が減衰していた時代でもある。

恐らく、今回捕らえられた人物はかなり左寄りで共産主義的な考え方に纏まっている人なのは間違いないだろう。


極端で話しても駄目だった場合には幽閉して切り捨てる覚悟もしなければならない。

最も、どんな相手なのかしっかりと見極める必要があるのでこちらもよくみておかないとね……。

馬車の中で、今回の事案を起こした者の供述書などを読んで対応することにしたのだ。

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