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爆走都市

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


服飾族の都市、シャトルテゴラインはゴミの平野を爆走していた。


ミンゴロンゴから奪った六つの巨大キャタピラと、それ以前に別の誰かから強奪したのだろう四つのキャタピラが、スクラップの山を蹴散らし、押し潰す。ベランダに立つポレポレの目は、必死に逃げ回る〝ティッシュ箱〟などの小型機械の姿を捉えていた。


都市下部の反応炉とエンジンが猛然と唸りをあげ、新たに構築された後部の煙突が真っ黒な煙を噴き上げる。


煙は高く立ち上り、低く垂れ込めている酸性雨の黒雲に吸い込まれていた。


「いかがですか? 我らの都市は」


ポレポレにそういったのは、シャトルテゴラインの長アドキールだ。硬質で黒く滑らかな肢体は、他の個体より頭ひとつ高く、白く長い髪を吹き付ける風に靡かせている。


ポレポレが心のなかで俺に聞く。

〝なんて答えればいいでしょうか?〟


〝思ったままでいい。おべんちゃらが通じるような相手じゃない〟


ポレポレが電波でアドキールに伝える。

〝すごい街だと思います。こんなに大きくて、こんなに速く動くものは見たことがありません〟


「そうでしょうとも。偉大なるシャトルテゴラインはなによりも大きく、強く、そして美しいのです」


都市の移動方向がわずかに変化した。前方、数キロ先に、なんらかの知的機械生物の村のようなものが見える。人型ではなく多脚型の住民が、接近するシャトルテゴラインに気づき、手脚を振っている。彼らは村の外に二列に並ぶと、出迎えの態勢を整えた。


シャトルテゴラインはみるみる近づいていく。


下腹部の装甲が開き〝口〟となる。

外壁の隙間からは何十本もの義肢が伸び出した。


多脚の村人たちは、シャトルテゴラインが間近に接近したところで、ようやく相手の意図を察した。


あわてて逃げ出そうとしたが、すでに遅く、シャトルテゴラインは住民たちを義肢で捉えながら、村の構造物を噛み砕き、咀嚼し、飲み込んだ。それから、握りしめていた村人たちも口に放り込む。


ポレポレが震えながらいう。

〝わたしはどうなるんですか?〟


彼女の激しい不安が伝わってきた。

シャトルテゴラインに搭乗して三日経つが、彼女は自分以外の人型機械をほとんど見なかった。かろうじて、最下層付近に壊れかけのものが数人いただけで、中層・上層階はすべて服飾族で占められていた。


アドキールが微笑む。

「前に言ったでしょう? あなたはわたしたちの一員になるのです。あなたの身体は、外見は少々傷んでいるようですが、中身は素晴らしい出来です。十分に資格があります。外見を少々整えて、発声器官をつければ十分かもしれませんね」


〝人を増やすのに、一から組み上げないんですか?〟


「偉大なるシャトルテゴラインは効率を尊びます。そうではなくては、大いなる都市の復活は叶わなかったでしょう。あの栄光の体を再び取り戻すのです」


〝栄光の体? 前は、もっと大きかったんですか?〟


「その通りです。万の民が住まう、輝ける都市、それがシャトルテゴライン。しかし、我らはすべてを失いました。何もかも奪われ、残ったのは僅かなカケラだけ。そこから、ようやくここまで辿り着いたのです」


シャトルテゴラインは、小さな村をそっくり喰らい尽くすと、また前進を始めた。雷鳴が轟き、ぽつぽつと酸の雨が降り始める。


アドキールがポレポレの背中に手を添える。

「さあ、マテゴニ、あなたの身体はわたしたちのそれほど酸への抵抗が強くありません。回路に触りますからなかに戻りましょう」


ポレポレが落胆した。

彼女はベランダに誘われて以降、ずっと脱出の隙を窺っていたのだ。しかし、ここまでの三日間同様に、アドキールにはまったく隙がなかった。おまけに、背後にはアドキールの侍従を務める二人の服飾族がおり、彼らもポレポレの一挙手一投足に目を光らせていた。


ポレポレがアドキールにいう。

〝その、昨日もお伝えしましたが、あたしの名前はポレポレなんですが〟


「ポレポレ。美しくない名前です」アドキールが顔をしかめる。「あなたはマテゴニ、美しい響きの名前でしょう? 心優しく、美を体現する戦士です」


アドキールの雰囲気には有無をいわせないものがあった。


ポレポレはアドキールと従者たちに挟まれるようにして都市の内部に戻った。


シャトルテゴラインの通路は、生物の内臓のように有機的に歪んでいる。壁には血管や神経のように配線やパイプの類が張り巡らされている。


アドキールは指先で愛おしそうに壁をなでながら進む。


その指先が空を切った。通路を抜け、都市中央部の広々とした吹き抜けに出たのだ。


ポレポレは手すりの端から、ちらりと下を見た。


吹き抜けの底では、先ほど喰らった村の資源分別が行われていた。大半の資源は反応炉に直行するが、どうにも使いようのないものはここに一旦ストックされて、服飾族の目視チェックを受ける。


服飾族の担当者が用無しと判断したものは、都市の尾部から外に排出される。


「これはアドキール様。それに、マテゴニ」

通りすがりの服飾族が小さく頭を下げた。


アドキールが優雅に頷く。


また別の服飾族が「やあ、マテゴニ」とポレポレに手を振る。


すれ違う服飾族の大半が、ポレポレに対して気さくに声をかけ、誰もが彼女を「マテゴニ」と呼んだ。


ポレポレが困惑するのを見て、アドキールが彼女の頭をなでた。

「マテゴニ、不安がる必要はありませんよ。処置を受ければ、あるがままの自分に戻ることができるのですから」


ポレポレは、処置という言葉の響きに不安を抱いたが、アドキールの従者二名がすぐ横に貼り付いているために、何一つ行動に移すことができなかった。

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