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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第272話 許さない女、羽依

 水曜日の夜二十二時、いつもより少し遅い就寝前。


 今日は本当に疲れた。

 肉体的な疲れは特に問題にならないが、心労は本当にキツイ。

 姉さんと真桜の大喧嘩やしーちゃんの心理戦など。

 どれも神経をすり減らすものばかりだった。


 しーちゃんは俺たちが姉弟だと以前から薄々勘づいていたようだけど、なぜあのタイミングで真相に突っ込んできたのか。思い当たるとすれば、俺が会話の最初に言った、姉さんを叱ってほしいということだった。

 もちろん冗談での話だったが、結果的に姉さんはすっかり憔悴していた。 


 今にして思えば、しーちゃんは真桜派だったと言うことだ。選挙でも推薦人をしていたのだし、それを思えばある種の意趣返しだった可能性も否定はできない。


 姉さんも強キャラだけど、しーちゃんはもっと上なのかもしれない。上下関係をきっちり思い知らされた気がした。


 それにしても、俺の周りは怖い女性しかいないのは間違いなかった。美しいバラには棘があるとはよく言ったものだと思う。


 でも、まったく悪い日ではなかったのも確かだ。真桜と少しでもわかり合えたのは大きかった。確実に希望を持てた気がした。

 後は羽依と仲直りさえしてくれたらいいんだけど。


 布団に潜り頭の中を整理していたそのとき、スマホの着信が入った。羽依からだ。

 ビデオ通話で来ているようだ。


「やっほー蒼真! こんばんは~」


 羽依は寝支度を終えたようだった。愛くるしいピンク色のパジャマに身を包み、ベッドの上に寝転がっているようだ。何をしていても可愛らしい俺の大好きな彼女だった。

 帰りは元気がなかっただけに、明るい様子にホッと胸をなでおろした。


「こんばんは羽依。もう寝るところ?」


「そだよ~。今日ね、真桜が泊まりに来てるんだ~」


「ええ! 早速羽依に謝りに行ったのか!」


 一気に胸が熱くなった。真桜は約束をしっかりと守ってくれたようだった。


「そう、泣いて謝ってきたの。それからお店のバイトを手伝ってくれてさ、今お風呂から出たところだよ~」


「よかった、本当によかった、真桜偉かったなあ……」


 思わず目頭が熱くなる。


「だよね。ちゃんと謝るのってさ、やっぱ怖いもんね」


「そうだよ。だからさ、真桜はやっぱり弱くなんかないんだ。羽依も偉かったね。真桜のことちゃんと許してあげられてさ」


「まだ許してないよ?」


 冗談を言っている様子ではなかった。

 その一言で、背中を冷たいものが撫でた


「へ? いや……今の話の流れだったら……もう仲直りしてるんじゃないの? そういや真桜はどこなの?」


 一緒にいるはずの真桜がさっきから姿が見えない。いったいどういうことだ……。


「真桜~! 蒼真がお話したいんだって~」


「ふごっふごごふご!」


 真桜らしき声が聞こえたが、口枷でもはめられているようなくぐもった声しか聞こえなかった。


「ちょっとまって、羽依……なにしてるんだ……?」


 嫌な予感しかしない。


「お仕置きだよ? 真桜もそうして欲しいんだって。ね~真桜」


「ふごう! ふごうお! ふふおうごふ」


 悲痛な叫びは、どう聞いても肯定しているようには聞こえなかった。


「羽依……真桜さ、助けてって言ってね?」


「んふ、どうだろうね?」


 そう言ってカメラアウトした羽依。聞こえてくるのは楽しげに“おもちゃ”で遊ぶ羽依と悲痛な真桜のうめき声。


「真桜~、蒼真に可愛いところいっぱい見てもらおうね~」


「ふお! ふっふうふぃ! 」


「羽依……いいかげんにしなさい。」


「えー……蒼真怒っちゃった?」


「真桜が可哀想でしょ!」


「だって~、真桜よかったね、蒼真に感謝する?」


「ふお! ふおふぉおう」


「真桜かわいい……ほら、蒼真みて、真桜の可愛いところ……」


 そう言って真桜の姿をようやくカメラに写した。

 まあ、想像の範疇ではあった。

 あくまで羽依が関与しているという意味で……。


「ほんとに怒るよ羽依。いい加減開放してあげなさい」


「ちぇー」


 そう言って真桜の拘束を解く羽依。


「ぷはっ! はあ! はあ! 蒼真ぁ、たすけてよぉ~!」


 頬は明るみ、汗だくな真桜の体。息も絶え絶えで、なんとも艶めかしい声で助けを求めている。しかし俺には何もできなかった。


「あ~……あとは当事者同士で解決してください……」


 そう言って俺はビデオ通話を切った。


 ――なんてもの見せるんだ……羽依のばか……。


 長い禁欲生活の中、見てはいけないものを見せつけられた。


(はやく二人に触れたいな……)


 そんな悶々とした気持ちのまま眠りについた――。

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