表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

267/276

第267話 テストの後で

 二月三週目、金曜日。


 テスト終了を告げるチャイムが鳴り、ペンを机に放り投げる。これですべての教科が終わった。


 やるべきことはすべてやった。今のところ致命的なミスは思い当たらない。

 隣の席の羽依とグータッチを交わす。真桜も後ろを振り返り親指をグッと上げてきた。

 みんな持てる力を出せたようで、充実した笑顔を浮かべていた。


 前の席でふんぞり返ってる隼の肩をとんと叩く。


「隼、どうだったよ。テストは完ぺきか?」


「そうだな。満点でもおかしくない出来だ」


 自慢げに言ってきそうなことを真顔で言う隼。どこか違和感があった。


「そっか。まあ何にしても月曜日が楽しみだな」


「……放課後さ、ちょっと屋上行かねえか?」


 神妙な面持ちでつぶやく隼。嫌な予感しかしなかった。


「えー……お前と屋上行くのトラウマなんだけど……」


「ばーか、ちげえよ。姉さんと話し合ったことでな……報告っつうか……」


 隼らしくない雰囲気だ。その伏し目がちな顔を見てると、やけに胸がざわついた。


「……わかった。じゃあ放課後な」


「ん……」



 二月も終わりに近づき、昼間の寒さはだいぶ和らいでいた。

 都内にしてはめずらしく、澄んだ青空が広がっていた。今日はいい天気だった。


 俺たちは屋上のフェンスにもたれかかり、春めいた日差しを浴びていた。


「それで、燕さんと仲直りはできたのか?」


「ああ、どうにかな。それよりも……姉さん……燕は……本当の姉弟じゃなかったんだ」


 隼が唐突に本題を切り出すので、俺は一瞬、迷った。知らなかったと驚くべきか、冷静に対応するか。

 だが、その一瞬の迷いのせいで選択肢は狭まった。

 あくまで冷静に、不自然さのないように言葉を選ぶ。


「なんだか随分いきなりな話だな……それは燕さんが言っていたのか?」


 俺の言葉に訝しむ目で見つめる隼。


「あんま驚かねえのな。人がとっておきの真実をバラしたってのによ」


 隼がつまらなそうに口をへの字に曲げたので、とりあえず取り繕ってみる。


「うわー! たまげたなあ! んで? 続き、はよ言え」


「このやろ……まあいい。姉さんと俺は姉弟じゃない。と言っても血が遠いわけじゃないんだ。俺の母親は叔母だったんだ」


「そりゃあ、お前、一大事じゃないか……ああ、てことは……燕さんとは従姉弟になるのか」


「そういうことだ。結婚もできるようだ」


「そりゃ朗報……ってわけにもいかないか。なにか心配事でもあるのか?」


「……母親と叔母が一卵性双生児なんだよ」


 そう言ってキュッと唇を噛み締める隼。さすがにもう茶化すことはできない。


「……それって言うのは……問題が出るのか?」


「遺伝的には姉弟とあまり変わらないようだ……」


「……そっか」


 隼が肩を震わせている。その顔は歪み、目からはつーっと涙がこぼれていた。


「蒼真……俺、わかんねえよ……いったい、どうすりゃいいんだ……」


 初めて見る隼の男泣きに、俺も何をどう言えばいいのか、必死に言葉を探した。


「――燕さんはなんて言ってるんだ?」


「姉さんは笑ってたよ。そんなもん気にすんなって……」


「はは、燕さんらしいな。――それでお前はくよくよ悩んでんのか。そんなでかい図体して女々しいな」


 俺の辛辣な言葉にも隼はうなずいた。きっと自分でもそう思っているのだろう。


「お前は……お前だったらどうする?」


 目を真っ赤にした親友の問いに、自分が同じ立場だったら……と考えてみる。

 出てきた答えは、一つしかなかった。


「好きを最優先する。それ以外にない」


 俺が隼の立場なら、迷わずそうする。

 きっと無責任な言葉に聞こえるかもしれないが、俺にはそれ以外に道はないと思った。


 隼は顔を上げた。そこには吹っ切れたような表情があった。

 きっと自分の中ではとっくに結論は出ていたのだろう。俺の言葉は、ただその背中をそっと押したにすぎない。


「はは、さすがだな、親友。悩んでた俺がバカみたいじゃねえか」


「そりゃあお前のほうがバカだからな。このテストがきっと証明してくれるよ」


「ばーか、お前なんかに負けねえよ」


「へっ、泣き虫が」


「うっせ。お前だってしょっちゅう泣いてるって聞いたぞ」


「うっそ、誰から!?」


「はは、情報ソースは言えねえな」


 そう言って肩をすくめた隼。

 二人でしばらく黙って屋上の風景を眺めていた。わりと遠くまで見えるもんだな、とぼんやり思った。今日は雲ひとつない快晴だった。

 

 いい加減風景に飽きた頃、俺に向かってニヤリと口角を上げる。


「じゃあな、親友。――サンキュな」


「ああ、また月曜日。どっちが勝つか楽しみだな」


 片手を上げて屋上を去って行った隼。俺は一人残されていた。


(馬鹿野郎……あのタイミングで『じゃあな』って言われたら一緒に降りられねえじゃねえか……)


 どうせ姉さんの生徒会の仕事が終わるのは、まだ先だった。

 俺は一人風景を楽しむことにした。

 火照った頬を撫でるそよ風が心地よく、春の訪れを感じさせた。


 ――いい景色だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ