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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第258話 痛み

 金曜日の放課後、隼の呼び出しで屋上までやってきた。

 二月としては穏やかな暖かさだけど、体は少し震える。

 これからのことを考えると気が重い。


「よう蒼真、わりい、待たせたな」


 いつものように軽い口調で俺に笑顔を向ける隼。


「いいって、どのみち遥さんを待ってなけりゃいけないしな」


 姉さんは生徒会の仕事で一時間ほどかかるとのこと。隼と話す時間は十分にあった。


「真桜からさ、バレンタインデーのチョコもらったんだよ。ほら」


 小さな紙袋に可愛らしいラッピングがしてあった。それと一緒に入っているのは合宿のときのお土産だった。


「へえ~。義理にしては随分と立派な包装だな」


 俺も隼の軽口に合わせて気軽に話す。


「義理か……これみてやっぱそう思うんだな」


「え?」


 急にトーンダウンした隼の声量。途端に覇気がなくなったように見えた。


「蒼真、義理ってのはな。徳用チョコの一つとかさ、そういうもんじゃね?」


「あ~そういうことか。いや、ほら、親密度とかもあるじゃん。よかったな、仲良しに思われてて!」


「ちなみに羽依ちゃんからも貰ったよ」


 そう言って袋の下に埋もれていた十円チョコバーを見せつける。


「あ~……まあ、ないよりいいんじゃね……?」


「だよな。これ貰って俺めっちゃ喜んじゃったよ。他の男子からもすげーすげー言われさ」


「男嫌いだしな。もらえるだけラッキーなのかもな。つか、他にも大量に貰ったろ。あれが全部本命ってわけでもないだろ?」


「どうかな? 金かけてるからな。ワンチャンぐらいには思ってんじゃね? しらねーけど」


「そんなもんなのかねえ……」


「まあおかげさまで、半年はチョコ買わなくてもいいな。お前も今年は結構貰ったみたいだけど、気をつけろよ。特に手作りはやべえのがあるから」


「へえ? そうなの? 気持ちがこもってて嬉しいって思うもんじゃね?」


「こもりすぎて異物入れてたりな。主に髪や爪とか」


「……まじ?」


「まじまじ。他にも色々あるぞ。中にはカカオ豆で作ったやつとかあってな。言っちゃあなんだけど、チョコ作りなんて素人が手を出していいもんじゃない。マジで食えない」


「そっかあ、参考になるな……」


 できることならこのまま話を終わらせたいと思った。

 だが、そうもいかないようだ。

 隼の目が据わる。


「話が逸れたな。まあそういうわけで、真桜から本命のごとき義理チョコを貰ったわけだよ。“おまけつき”でな」


「おう、よかったじゃないか……」


 “おまけつき”を強調する隼に、歯切れのわるい返事になってしまう。


「――聞いたよ、葉山にテスト合宿行ったんだってな」


「ああ、遥さんの好意でな……」


「なんだよ、水くさいじゃないか、俺も誘ってくれよ。――って気にはまったくならなかった」


 含みをもたせる隼の言い方に苛立ちを覚える。


「……なんでだ?」


「義理堅いお前のことだ。仲間内での旅行ならきっと俺にも声をかけるはずだと思ったからだよ」


「……まあ、そうだな」


「てことはだ、親密な間柄だけで合宿をしたんだ。どうだ? 俺の推論」


 完全に的を射てる。正解だ。降参だ。


「……」


「蒼真、正直に言ってくれ。お前、真桜とも付き合ってるのか?」


 ここまでバレてたら仕方ない。腹をくくるしかないようだ。


「ああ、付き合ってる。俺は羽依と真桜を愛してる」


 はっと目を見開く隼。その強い視線を真っ向から受け止める。先に視線を逸らしたのは隼の方だった。


「はは、そこまでまっすぐに言われたら返す言葉もねえな……」


「わるい。もし、真桜のことを好きだって言うなら……」


「言うなら……なんだよ?」


 再び俺を睨みつける隼。親友同士がしていい視線の交わし方ではなかった。

 その視線に耐えかね、俺は逃げるようにそっぽを向く。

 どう考えても俺のほうの筋が通ってないのだから……。


「……いや、告白する、しないは……別に俺が決めることじゃない」


「ああ、俺は真桜に告白する。そして俺の恋人としてみんなに公表する」


自信たっぷりな言い方が本気で腹立つ。


「まるで真桜が付き合うって言うみたいじゃねえかよ……どんだけ自信過剰なんだよ」


 苛立ちで口調がきつくなってしまう。


「言ってみなけりゃわからねえだろ? 蒼真、もしかして不安でもあるのか? あんないい女を日陰者みたいにしてんのにな」


 隼の煽り文句は俺の一番気にしているところを綺麗にえぐる。

 頭が沸騰した――。


「んだとっ!?」


「熱くなってんじゃねえよバーカ。図星つかれて内心ビビってんだろ」


「うるせえ! 俺だってずっと悩んできてんだよ!」


 気色ばむ俺を隼が片手を上げてあしらう。


「まあそこで見てろよ。そろそろ真桜が来る頃だから」


 まるで図ったかのように屋上の扉が開いた。真桜だ。


「今日は外が温かいわね。――隼、それに蒼真? 話って何かしら」


 桜色の髪が風に舞う。髪をかきわけた真桜の明るい笑顔に心臓が跳ねた。その仕草がとても綺麗すぎて、まるで芸術作品のように思えた。


 そんな愛しい彼女を今まさに奪おうとされている。それを見守ることしかできないのが歯がゆい。

 ――どうしてこうなったんだ。


「真桜、俺と付き合えよ」


「え? どこに?」


 そう言って、きょとんとした真桜。

 あまりにストレートすぎる告白で、ピンとこなかったようだ。


「ばーか。告白だよ。お前のこと好きだから、俺と付き合えって言ってるんだよ」


 言われた瞬間、顔を真っ赤にした真桜。


「え、何いきなり! そんな駄目よ、私なんか!」


「なんかってなんだよ。お前ほどいい女、いままで何度だって告白されてんだろ?」


「知らないっ! そんなこと今までなかったわ!」


 俺と隼は目を見合わせる。この学校の生徒たちの目はどうなってるんだ?


 告白そのものに耐性がなかった真桜。途端にしどろもどろになってしまった。


「まあいいよ。んで、返事は?」


「駄目よっ! 私好きな人いるんだし!」


「ああ聞いたよ。蒼真だろ? 二人付き合ってるんだってな」


「え……蒼真……あなた、隼に言っちゃったの……?」


 真桜が赤い顔から一気に色が冷めていく。

 まるで絶望したようなその表情に、胃が一気に重くなった。


「真桜、隼だけじゃない。志保さんや遥さん、それに美咲さんにも言ったんだ」


 真桜はぺたんと座り込んだ。


「うそ……そんな……」


「ごめん。俺の独断で……」


 真桜は俺をキッと睨みつける。


「私言ったわよね……焦らないでって……」


「確かにそう言ってた。でも俺は真桜が可哀想で」


 真桜が立ち上がり、俺の前に詰め寄る。

 刹那、頬に衝撃が走った――。


「……っ!」


「なんでそんな勝手なことするのよ!」


 真桜の悲痛な叫びに胸をえぐられた。

 それでも俺はぐっと足を踏ん張り、真桜を見据える。


「俺は真桜とも恋人でいたかったんだ! みんなに俺の彼女だって言いたかった! 真桜だってそれを望んでるって……」


 ……言ったっけ。


「そうね。確かにそう思ったこともあるわ。でも、それは三人で付き合うんじゃなくて、私と恋人同士にって話なの」


「え……あ……そんなこと……できっこない……」


「わかってるわよ! 羽依とあなたの間に割り込むつもりなんてなかった! ただ、近くで見ていたら羽依もおいでって手を差し伸べてくれた! それが嬉しかったの!」


 痛みを伴う真桜の言葉が俺の胸をえぐり続ける。


「ああ……」


「あなたのことが好き。大好き。愛してるわ! でも、私はあなたほど強くないの! 横から掠め取ろうとしている泥棒猫になんて思われたくないの! わかってよ!」


真桜の慟哭に俺はもう何も返せなかった。


「ごめん……ごめんなさい……」


 俺は……取り返しのつかないことを……してしまったのだろうか。


 俺に背を向け隼を見つめる真桜。


「隼、私で本当にいいの? 中古だけど」


 自分のことを悪しざまに言う真桜が辛すぎる。


「ばーか、自分のことそんな風に言うんじゃねえよ」


 そう言って真桜の頭にポンと手を乗せる隼。それをただ見ていることしかできない俺の無力さが……情けなかった。


 項垂れる俺に真桜は涙ながらに俺に向き合う。


「蒼真、あなたはもう十分強くなったわ。私がいなくても大丈夫。――叩いてごめんね」


 そう言って俺の頬に手をあてがった。その手はとても冷たく、心地よかった……。


「真桜、本当に隼と付き合うの?」


 きっと情けなく聞こえるだろう俺のつぶやきに、真桜は無理やり笑顔を作る。


「……隼は性格もいいし、見た目だってとても格好いいわ。私には勿体ないぐらい。きっと……蒼真より……好きになれるわ……」


 そこまで言ってぼろぼろと泣き出した真桜。


「そういうわけだ。蒼真、あとは二人にさせてくれよ」


 もう……ここには居られない。

 黙って屋上を一人去った。


 どこでどう間違えたんだろう……。

 涙も出てこない自分が――本当に嫌だ。


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