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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第246話 絶対やる

「蒼真……本当に……するの?」


「当たり前でしょ。今更何言ってんの」


「私……もう無理……」


「真桜、まだまだ夜はこれからだよ。」


「鬼、悪魔、人でなし!」


「なんとでも言え。やるって言ったら絶対やる!」


 そう言って俺はカバンからテキストと参考書を広げる。

 時刻は二十時を回ったところ。大丈夫、まだまだやれる。



 夕方、マッサージを終えてぐったりした二人を寝かせ、夕飯を作った。姉さんは寄せ鍋の材料を手配してくれてあった。

 冷蔵庫の奥にはエナジードリンクが小さな封筒と一緒に置いてあった。中の手紙を取り出すと、「勉強頑張ってね! 応援してるよ」と短いながらも気持ちのこもったメッセージが添えられていた。

 先程までの行為を恥じるつもりはない。けど、姉さんの期待にも応えたい。食事を終えたら一生懸命勉強に取り組もうと誓ったのだった。


「お鍋食べたら眠くなっちゃった。私は寝るね~」


「私だって寝不足なのよ……早いところ寝たいわ……」


「じゃあ一時間! ね! あとちょっとだけ!」


 俺の懇願に二人は顔を見合わせる。そして同時にため息をつく。

 そこまでシンクロするものかと感心するが、どうやら勉強をしてくれる気になったようだ。


「まあ確かに……目的は果たさないとね~」


「そうね。蒼真が本気で一位を目指すなら、私たちもうかうかしてられないわ」


 そうして勉強を始めた俺たち。さすがは学年一、二位を争う二人だ。一度始めたら集中力がものすごい。

 三人で英語の問題集を解くが、そこで二人の解答に違いがあることに気づく。


「二人とも、その答えだと点引かれるよ。あの先生、前置詞に異常に厳しいんだって。志保さんが言ってたよ」


「え……そうなの?」

「うっそ! あっぶなー……」


 志保さんは先生たちの採点のクセまで見抜いて常に満点をとっていたらしい。そのノウハウを叩き込まれているのだ。ある意味チートに近かった。

 でも、それを俺だけ知るのはフェアではない。難しいことだとは思うが、全員満点取れたら三人で一位になれる。それがこの合宿の狙いでもあった。


「やっぱり蒼真だな~……」


 羽依が俺を見つめてぼそっとつぶやいた。


「ほんと……お人好しもいいところよね。黙ってれば一位だって取りやすかったのに」


 呆れたように言うものの、その瞳は優しげに俺を見つめる真桜だった。


「できればさ、みんなで一位取りたいよね」


 そんな俺の言葉に羽依と真桜はニヤッとする。


「また満点狙っちゃう?」

「いいわね。じゃあ徹底的にやるわよ!」


 完全に火がついた二人。その後、勉強は深夜一時まで続いた。

 さすがにくたびれたのか、二人はぐったりとテーブルに突っ伏していた。


「じゃあ俺は風呂に行ってくるからさ。二人は寝ちゃってね」


 そう言い残して俺は一人風呂場へ向かった。


 5~6人は無理なく入れそうな大きめの檜風呂だ。檜の香りがふわっと立ちのぼり、思わず深呼吸したくなる。


「うわっ広い風呂だな~。めっちゃ贅沢」


 体を洗い、檜風呂に浸かる。少々熱めの湯加減に身も心もほぐれていく。


「さて……お次は露天風呂か」


 表に続く扉を開くと、硫黄の匂いがふわりと漂った。

 露天はごつごつした岩で縁取られ、白い湯気が静かに立ちのぼっている。

 濡れた岩肌が灯りを受けて淡く光り、落ち着いた佇まいが心地よかった。


「うっそ……温泉?」


 看板には、「地下から組み上げた天然温泉」と書いてあった。その贅沢さに言葉を失った。


「はああ……ぎもぢぃー……」


 体の一番低いところから出るような、そんな声がついでてしまう。


「そういや美咲さんも温泉好きだったな……いつか連れてきてあげたいな……」


 見上げれば、満天の星がこぼれ落ちそうなほど輝いていて、胸が熱くなるほどの感動を覚えた。見渡す限りの夜の海は、吸い込まれそうなほどの美しさと、底知れぬ怖さを併せ持っている。――さすがは姉さんお気に入りのリゾートマンションだと思った。


「わあー! 星綺麗だね~! 降ってきそうだよ!」


「ほんと、すごく綺麗……」


 途端に風呂場が賑やかになる。振り返ると二人が露天風呂にやってきた。


「あれ? 二人とも寝たんじゃないの?」


「いやあ……寝ようと思ったんだけどさ、エナジードリンクはやばいね。目が冴えちゃったよ~」


「私は無理やり連れてこられたの。でも来てよかった。この星空は見ておかなきゃね」


「そっか。じゃあみんなでまったり浸かろうか。さっきは仲間はずれにされたけどね」


「ぷっ! 蒼真はわりと根に持つね。でも、お預けした分、興奮もしたでしょ?」


「あー……それは認めるけど……」


「ふふ、私たちの体はもう見飽きちゃった?」


「いやまったく。今だってめっちゃドキドキしてるっての!」


「んふ、どうせ寝られないならさ! もうちょっと“なかよし”しちゃう?」


 悪戯な笑顔で俺を熱く見つめる羽依。そんなことを言われたら、俺はもう――。


「まったく異論はございません!」


「ホント蒼真ってタフよね……でも、私も……まだ足りない」


 そう言って俺の頭を抱え強引に唇を奪う真桜。


「真桜はホントに蒼真のこと好きだよね~」


 ヤキモチもなく、純粋に真桜の気持ちを代弁する羽依。その自然さが俺たちの関係を象徴しているようだった。


「ふふ、まるで他人事みたいね。羽依だって蒼真のこと大好きでしょ?」


「もっちろん! ――離れて暮らすとね……寂しいけど……どれだけ大事だったかすごくわかるんだ」


「羽依……」


「だから、ずっと、ずーっと蒼真と離れない! 別々で暮らしても、蒼真が帰って来る家はうちなの!」


 だんだんと涙声になる羽依が愛しくて苦しい。

 真桜は羽依を慰めるようにそっと抱きしめる。


 そんな狂おしいほど愛おしいこの二人を、まとめてぎゅっと抱きしめた。

 長い夜になりそうだった――。

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