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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第232話 高ぶる想い

 二月の初週、月曜日の朝。

 昨日は遥さんから本格的な家の仕事を教わった。家のメンテナンスや調度品の手入れの方法、ガーデニングの管理と家庭菜園の世話なども含まれていた。量は膨大だが、特に難しい仕事はない。家人として普通にこなせばいい、と遥さんは笑っていた。


「蒼真くんは家族なの」


 たびたび、こう口にしていた遥さん。なんとなくそれは自分に言い聞かせているようにも聞こえたのは気のせいだろうか。


 そして今日、いつものように日課をこなし、朝が苦手な遥さんのために朝食を準備していた。

 俺のためにわざわざ通学時間を変更してくれるのだ。このくらいは、ぜひともやらせてほしいところだ。

 今欲しいのは“対価を要求できる仕事”だったのかもしれない。

 

 ただいまの時刻は朝の六時半。


「おはようー。こんなに早起きするの久しぶり……」


 まだ半分夢の中のような遥さん。朝はかなり弱いようだ。


「おはようございます。すみません、こんなに朝早くに。朝食の準備はできてますので。コーヒーはいかがですか?」


「うん、お願い。カフェオレが良いかな。少しお砂糖を入れてね」


「かしこまりました」


 恭しく頭を下げて準備をする。

 多少芝居がかっているが、このほうが仕事をしている気分にもなれた。


「お待たせしました。熱いですからお気をつけて」


「ありがとう」


 そっと微笑み、慎重に口へ運ぶ。

 少し飲んだあたりでほっと息をついた遥さん。


「うん、美味しい……。自分で淹れるより美味しく感じるのはなんでだろうね」


「はは、普通に淹れただけですけどね。でも気にいってくれたなら次回もこの作り方で」


 遥さんは微笑みながらこくりと頷いた。

 朝食はトースト一枚にレタスを少々と、心配するぐらい少食だった。


「朝はね、いつも食べたり食べなかったり。わりとギリギリまで寝ちゃうのよね……」


「仕方ないですよ、夜遅くまで頑張ってるんだから。これからは俺が家のことを頑張りますから遥さんは自分のために時間を使ってくださいね」


「あんまり甘やかさないで……半年後に蒼真くんなしでの生活ができなくなってしまうわ……」


 寂しそうにぽつりとそんなことを言う遥さん。

 確かに半年後はアメリカで一人暮らしとなるわけだ。

 だからといって今大変な思いをする必要もないわけで。


「それはそれです。一緒に住んでいる間ぐらい、思う存分俺をこきつかってくださいね」


 冗談ぽく言ってみたが、遥さんはクスクスと笑ってくれた。


「そうね、じゃあ今夜はお風呂で背中でも流してもらおうかな!」


「そ、それは……すみません、勘弁してください……」


 そう言ったあと、二人で笑いあった。



 戸締まりをしっかりして家の門を出る。

 通学は徒歩十分かからない程度でとても近い。

 それでも以前は車での通学だったという。


「私が運動不足なのもわかるでしょ……パパは放任のようで心配性なのよね」


「いや実際、社長だって心配するでしょう。ただでさえお嬢様の一人暮らしなんだし。俺も護衛と思うと結構緊張しますよ」


 さながらSPのように注意を周囲に向ける。わずか十分程度の通学にもかなり神経を消耗する。


「ふふ、そ、蒼真くん、だからってすり足になる必要なくない?」


 気がつけば俺の足は不格好な歩き方になっていた。やはり座学程度で護衛を覚えるのは無理があったか……。


「パパだって本気で護衛を任せてるわけではないと思うの。だからそんなに気を使わないでね」


「あう……いや、でもやっぱり注意は怠りません!」


 お嬢様がなんと言おうがこれは俺の仕事だ。そうして四方に睨みを効かせながら登校した。


「じゃあ蒼真くん、放課後は生徒会室で待ってるわね。またね!」


 軽やかな足取りで二年生の教室へ向かっていった遥さん。

 気づけば周囲の注目を独り占めしていた。

 妙にバツが悪くなり、そそくさと自分のクラスへ向かった。


 教室に入ると羽依と真桜が俺より先にいた。


「おはよう蒼真! さあ連行する。署まで来い!」


 にっこにこで俺の腕を掴み多目的ホールへと向かう羽依。

 真桜も苦笑いを浮かべながら後に付いてくる。


「おはよう、遥さんとの生活はどうかしら? さあ吐け」


 真桜まで尋問の体制をとる。美少女二人の顔がやたらと近づいてきたが、俺としては今すぐ彼女たちと抱きしめてキスをしたかった。自分でも不思議なほど彼女たちに飢えていた。


「なんだか久しぶりってほどでもないのにさ、すごく懐かしい気がするのはなんでだろう。――ずっと二人に会いたかった」


 素直な気持ちを口にした途端、二人は顔を赤らめてしまった。


「え……ちょっと……蒼真のばか……九条さんのところで女の子の口説き方でも勉強してきたの? ――でも、悪くないよ……」


「うん……なんだかそう素直に言われちゃうとね。朝からこう、ギュって抱きしめたくなるわね。……ホント悪い男みたい」


 二人の瞳が、蕩けるような柔らかさに変わった。そんな視線を浴びたら俺もたまったものではない。この高ぶる気持ちを抑えるべく、一つの案が浮かんだ。


「今週末さ、たまには三人でどこか行かない? なにをするんでも良いけどさ、できれば三人だけになりたいな」


「うん……私もそうしたい……」


 羽依が顔を真っ赤にして頷いた。


「そう……ね……。ああ、だめ……汗かいてきちゃった……蒼真のバカ……」


 顔を真っ赤にして、両手でぱたぱたと頬をあおぐ真桜。


 どうやらみんな同じ気持ちになれたようだった。

 今週末が楽しみだな――。

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