表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
2章 穏やかな日常へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/276

第22話 お泊り

「泊まりって、何の準備もしてないし……」


 覚悟もできてないし。


「寝間着と下着類は新品をご用意してあります。バイト中、着替えることもあるだろうからね」


 お団子ヘアの可愛いチャイナ娘が、悪戯な顔で妖しく微笑んでくる。


 逃げ道は最初から塞いであるようだ。偽装という壁は、もはや無いも同然だった。羽依は全力で攻めてくる。ここは敢えて、逆に俺が攻めて、羽依を引かせる作戦でどうだろうか……。


「うん、泊まっていくよ。じゃあまずはお風呂に入ろうか。一緒に」


 羽依は顔を真っ赤にして頷いた。

 

 あれ? 頷いちゃった……。



 ちゃぷん


「いい湯だね~蒼真~」


「……ソウデスネー」


 一度は見られているし、混浴だと思えば恥ずかしくない。

 なんて謎理論で、全裸になって風呂に入る羽依。

 ――タオルぐらい巻こうよ。

 こういう時、男のほうが度胸が座らないものだと痛感した。

 いや、俺がヘタレなだけか……。


 雪代家のお風呂は、とてもこだわりのある立派な風呂だった。ミストサウナやジャグジーが付いていて、美咲さんの美容意識の高さが伺えた。


 ミストサウナの濃い霧によって、羽依の体はあまり見えないのが幸いだった。じっくり見えてしまっては理性が飛ぶ。


 お互いに頭と身体を洗いっこして、湯に浸かる。無心で。


 一緒に湯船に入ると、肌が触れ合う距離の近さに息をのんだ。

 ジャグジーの気泡が全身を包み、血行促進どころか理性が危うくなる。

 このままじゃ本当に何かが溶けてしまう。

「……やばい」と小声でつぶやきながら、俺はそっと湯船を出た。

 背後から、羽依のくすくすっという笑い声が聞こえてきた。


 羽依が風呂から上がり、パジャマ姿のまま、そっと寄ってくる。ピンクに染まった頬が、何とも言えず艶めかしい。


「蒼真、髪乾かして?」


 甘えるような口調でおねだりしてくる。俺は羽依の髪をタオルでぽんぽんと水分を取り除く。そしてドライヤーで優しく乾かしてあげる。仕上げに冷風を当てて完了だ。


「蒼真すごいね~。 女の子の髪の乾かし方とか知ってるんだね。 ……やったことあるの?」


「ないない! そんな目で見ないで!」


 最近なんとなく感じるのは、羽依はわりと嫉妬深い。重たくて嫉妬深いというのはヤンデレの素質有りだったりして。ちょっと怖いけど……好き。


 しばらくして、美咲さんからインターホンが鳴った。お店との連絡はこれを使うのが日常のようだ。


「お客さん捌けたから店じまい手伝って~」


「は~い」


 お店に戻り、3人でてきぱきと後片付けを行った。

 その後に、俺のための歓迎会を行ってくれるようだ。

 美咲さんは少し酔っていたようで、楽しそうにニコニコしている。


 テーブルの上には軽食とお菓子、それとジュースが並べられた。


「蒼真、今日はお疲れ様。どうだい? 続けられそうかい?」


「はい、俺の部屋まで用意してあって驚きましたけど……」


 美咲さんはニヤッと笑ってウィスキーをロックグラスに注いだ。


「週末は遅い時間になるからね。寝泊まり出来る場所は用意しておいたほうがいいだろう。この辺、裏通りは大人でも危ないし」


 ……この辺って、そんなに物騒だったの? 羽依も激しく頷いている。


「ね、だから泊まろうって言ったんだよ~」


 羽依が勝ち誇った表情で言ってくるので、俺はぽんぽんと頭を撫でた。羽依は気持ちよさそうに頬を緩めていた。


「蒼真のことは一目みて気に入ったんだよ。人柄が表に出てるね、誠実で嘘がつけなくて、お人好しだ」


「そんなこと、ないですよ。」


 学校では偽装の嘘をついていた。俺は、美咲さんの人を見る目に応えられる自信が無かった。


「仮に嘘を言ったとしても誰かのためなんだろう。それが羽依のためなら誰も責めやしないさ」


 美咲さんはロックグラスを回す。カランカランと響く音を楽しみながら、ウイスキーを飲み干した。


 どこまで知ってるんだろうか。何も知らないと思ってたけど、そこまで分かってしまうのが大人なんだろうか……。


「羽依の父親もそんな感じだったからね。しかしまあホントよく似てるね。魂がそっくりって感じなのかな」


 羽依も似ていると言っていたが、美咲さんもやっぱりそう思ったのか。似てるかなあ……。


「写真見せてもらいましたけど、正直そんなに似てるって思わなかったです」


 ほう、と美咲さんがつぶやいた。その表情は、今、この状況をとても楽しんでいて、懐かしむような、満足感を感じているような、そんな深い表情を浮かべている。


「まあ自分じゃわからないモノなんだろうね。悪いやつには騙されないようにするんだよ」


 「あっはっは」と、美咲さんは肩を揺らしながら楽しげに笑った。


 しばしの談笑の後、おひらきとなった。


 とてもごきげんな美咲さんは、「羽依、ちゃんと避妊はするんだよ」なんて爆弾発言を残していった。


「うん、わかってるってば」


 羽依は恥ずかしそうに頷く。


「蒼真、行こう」


「え、あ、うん。美咲さん、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 俺の手を引き洗面所へ向かう。すでに用意してあった青い歯ブラシで歯を磨き、寝支度をすませて、お父さんの――俺の部屋に向かった。


 胸の高鳴りで音が聞こえにくい。呼吸がしづらい……。風呂上がりの羽依の香りがあまりにも艶めかしい。思考がおぼつかない。

 この子と今から……。


 二人でベッドに入る。俺は優しく羽依を抱きしめた。羽依は俺に身を委ねるように体を預けてきた。温もりが伝わってくる。羽依の鼓動はとても激しかった。


 ――そしてキスをしたときに。

 羽依が「ちょっとトイレ」と行ってしまった。


 戻ってきたときの羽依は、とても残念そうな顔で「きちゃった……」と言ってきた。


 心のどこかで、ほっとしてしまった。

 ――俺は、ほんと、とことんヘタレだ。


「ちょっと急すぎたね、もっとゆっくりでも良いんだよ」


「うん、私もちょっと焦っちゃってたかも。恥ずかしい……」


 そういって布団に深く潜る羽依。可愛すぎるその仕草に、俺の心臓がまたも激しく高鳴っていた。


「――あっつい!」


 しばらくして布団から出た羽依。なんだか顔が真っ赤だった。


「――ところでさ、羽依は俺のこと好きなの?」


 実に何気なく聞いてみた。

 分かってはいるつもりだが、言葉で確かめ合いたかった。


 羽依は笑顔が固まり、だんだんと冷えていく。

 何を今更みたいな、呆れた顔をしている。


「蒼真ってホント鈍感だよね。――好きじゃない人の家に、泊まるはずないじゃない」


「え……てことは、その前から俺のこと好きだったと?」


「……ばか、しらない」


 羽依はそっぽを向いて寝てしまった。


 俺の顔は燃えるように熱くなっていた。

 鈍感が過ぎるだろう……俺。






面白いとおもっていただけたら、ブックマークをしてもらえると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ