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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第215話 愛の囁き

 土曜日の朝、カーテンの隙間から部屋に入る朝日で目が覚めた。


「蒼真、起きたのね」


 声のほうを振り向くと、真桜が隣で寝ていた。


「おはよう……今度は真桜が看てくれてたのか。ありがとうね」


 真桜の方を向くと、肩から胸にかけて白い肌が見えていた。

 そっと布団の中を覗くと……何も着けていなかった。


「……なんで裸なの」


「貴方が寒そうに体をがたがたと震わせてたのよ。ぎゅって抱きついてたら私が汗かいちゃった……」


 真桜の顔は妙に火照っていた。まさか風邪をうつしてはいないだろうか。


「真桜、具合悪かったりしない? 大丈夫?」


「大丈夫よ。そもそも風邪なんて引いたことないし。どんな感じなのか興味はあるわね」


 さすがは真桜。健康の秘訣は日々の鍛錬か。もっとも俺も風邪を引いた記憶は小さい頃ぐらいしかなかった。この感覚は懐かしいけど嬉しくはない。


「真桜、あまりくっつかないほうがいいかも……んむっ」


 言い終えるより前に真桜が唇を重ね、体を蛇のようにしなやかに絡めてきた。

 長い口付けのあと、満足そうにそっと離れる。 


「ふふ、これなら伝染るかしらね。貴方から風邪を貰えるなら嬉しいかも」


 真桜の言葉にゾクッとした。その愛情の重さと深さを、ようやく本当の意味で理解した気がした。

 そんな彼女と付き合っていくということも。


「――真桜は俺のこと好きだよね」


「ええ、もちろん好きよ。私がこんなにも誰かのことを好きになるなんて……想像できなかったわ」


 真っ直ぐに俺を見てそう言ってくれる。


「俺も……真桜のこと好きだ。愛してる」


 真桜は俺の顔をまじまじと見つめた。その目はじわっと涙を浮かべていた。


「あ、あれ、蒼真がそう言ってくれるとは思ってなかったわ……」


「……ごめん。羽依への罪悪感からそういう言葉を言い難かったと思う。でも、それってやっぱり違うって思ったんだ」


「そう……私は別に気にしなかったわよ。貴方はちゃんと私の想いに応えてくれていたし。でも、そうね……。言われたらこんなに嬉しいんだ……」


 真桜は大粒の涙をポロッとこぼした。その涙があまりにも綺麗で、胸が締めつけられた。

 きっとそれは、俺の不甲斐なさのせいなんだろう。


「二人の時はちゃんと言葉にしようって思ったんだ。学校では真桜は俺の友達だけどさ、辛かったり寂しかったりしないのかなって……」


 俺の言葉に真桜は苦笑いを浮かべる。そして視線をそっとずらした。


「そう……まったくないとは言えないわね……」


 真桜の本音が聞けて嬉しいと思う反面、辛い思いがやっぱりあったという罪悪感が胸を抉る。熱ばった頭の中では思考がうまくまとまらなかった。


「大っぴらに三人で付き合っていますって言えたらどれだけ楽なんだろうって……最近ずっと考えてるんだ」


「ふふ、そんなこと考えてたんだ……じゃあ言っちゃう? 学校のみんなに、美咲さんに、お祖父様に。みんな何て言うかしらね」


 意地悪そうに口角を上げて真桜が言う。――少し想像してから身震いした。


「学校には居られなそうだ……。理事長に殴り殺される未来しか想像できない」


「そう? お祖父様は案外認めるかもしれないわね。ああ見えて多様性を理解しようとしてるわ。納得できるかは知らないけど」


 くすくすと笑いながら真桜が言う。


「美咲さんはどうだろう。考えるのも怖いや……」


 俺の言葉に真桜が頷いた。そして優しく口付けを交わす。


「結局、私たちのしていることはそういうこと。無理にみんなに知ってもらう必要なんてないのよ」


 俺が思う以上に真桜は達観していたようだ。


「真桜は辛くない? 寂しくない? 俺は真桜を傷つけてるのかな……」


「ふふ、辛くて寂しいわ。だから二人の時はいっぱい愛を囁いて、私に触れてね。それで十分すぎるの」


「……っ!」


 真桜の素直な言葉がとても沁み入った。寂しい思いをさせた分を取り戻すことが俺にはできるんだ。

 靄がかかった頭の中が途端に澄み渡ったように感じた。


 真桜が望む通りに精一杯彼女の体に触れた。

 声を出さないように辛そうに我慢する姿がとても愛おしい。


「蒼真も羽依も私にいじわるよね……んっ……」


「呼んだ?」


 その声に心臓が止まりそうになった。気づけばベッドの横に羽依がちょこんと顔を乗せていた。


「えっ!? きゃあっ!」「羽依、いつの間に!?」


「ドアの前でずっと聞き耳を立ててました!」


 まったく悪びれなく清々しいまでに言い放つ羽依。


「真桜、今まで寂しい思いさせてごめんね。私ひとりだけずるかったね……」


「はあっ、はあっ……羽依、ちょっとまって。体と気持ちが追いつかない……」


 息も絶え絶えな真桜がちょっと不憫だった。


「んふ、追いつかせないよ、ぶっちぎりだよ!」


 そう言ってベッドに飛び込み、真桜を容赦なく愛し始めた。


「あれ……なんだかんだで『なかよし』を見せつけられるの?」


「ほら蒼真、具合よくなったんでしょ。目いっぱい『なかよし』してあげよっ! もう寂しいなんて絶対思わないぐらいにね!」


 心底楽しそうな羽依と対象的にへろへろになっている真桜がちょっと可哀想だけど……。


「わかった。まだ体がしんどいけど……がんばる!」


 その後、持てる体力を振り絞り『なかよし』を頑張った。

 その結果、悪いものが出し切れたのか、体はすっきりと回復した。

 やっぱり健康な体って大事だな。



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