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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第86話 セイヤの判断

 太陽が昇り、ダクリア二区にも朝の活気が出てくる午前八時頃、ユアたちの姿は、彼女らが泊まった宿の食堂にあった。


 彼女たちの前に広がる朝食は、ダクリア二区でも有数の宿だけあって、とても美味しそうである。ユアたち五人は一人を除いて、その朝食を食べて始めていた。


 食堂は大きな広間に長テーブルが複数あり、彼女たちはその一角に座っている。 

 基本的に食堂の席は自由なので、同じ宿に泊まっていた男性陣たちがユアたちとお近づきになろうと、相席の許可をとってきたが、そのすべての申し込みをユアがシャットアウトしていた。


 普段ならセイヤがいるので、相席を狙おうおとする者はいないのだが、残念ながら、この場にセイヤはいなかった。


 絶世の美少女や美少女たちとお近づきになろうとした男性陣たちは、ユアに速攻拒絶されて、肩を落としながらほかの席へと座っていく。


 ちなみに、なぜセイヤが食堂にいないかと言うと、ユアたちに先に朝食をとっておくようにと言い、部屋に籠っているからだ。


 セイヤには部屋に残ってやらなくてはいけないことがあった。それは現在得た情報を、こちらに向かっているであろうバジルに伝える事だ。


 一人部屋の中へと残ったセイヤは、制服のポケットからテニスボールほどの青い鉱石を取り出す。それはバジルとしか話すことのできない念話石であり、かなり貴重なものである。


 セイヤはその念話石に魔力を流し込みバジルへと念話を試みる。


 ツゥ―――――――ンンンン


 そんな音とともに、念話石に魔力が流し込まれていく。そして、数秒も経たないうちに、セイヤとバジルの念話が始まる。


 「キリスナ=セイヤか?」


 バジルが相手がセイヤかを一応確認する。と言っても、九割九分セイヤだと確信しているため、すぐに本題へと入った。


 「ああ」

 「どうだ? 今どこにいる?」


 バジルの声は、どこか落ち着きがないように感じられる。そのことに嫌な予感を覚えながらも、セイヤは自分の現在地と、持っている情報を伝えた。


 「今はダクリア二区内の宿に泊まっている。モカ=フェニックスの居場所は大体把握した」

 「そうか。ダクリア二区はどういうところだ?」

 「はっきり言って、レイリアとは比べ物にならないくらい発展してるぞ。技術力の差がありすぎる」

 「技術力?」


 バジルには、セイヤの言っていることが理解できなかった。技術力と言われても、バジルの脳内には魔法に関しての技術力しか浮かばず、まさか機械の技術力などと考えることもできない。


 なので、直後のセイヤの発言には言葉を失う。


 「ああ、信じられるか? 今、俺がいるのは地上から八階の部屋だぜ。人間は魔法を使わずに、こんな高さまで来られるなんて驚きだ」

 「八階だと!?」


 八階という数字に言葉を失うバジルだったが、そこは十三使徒。すぐに切り替えて、作戦について話を進める。


 「それで、モカ=フェニックスの居場所はどこなんだ?」

 「モカ=フェニックスはダクリア二区を出て、山を一つ越えた魔王の館というところで捕まっているらしい。まだ魔王の館とやらはどんなところか把握していないが、結構手ごわそうだ」

 「そうか……」

 「それで、増援はいつ到着する予定だ?」

 「それなんだが……」


 急にバジルが言葉に詰まり出し始める。念話にもかかわらず、セイヤの頭の中には、苦悶の表情を浮かべるバジルの姿が浮かんでいた。


 「どうした? そろそろ暗黒領の中間地点でもいい時間だが」

 「お前には悪いが、増援の到着はもう少しかかりそうだ?」

 「どういうことだ?」


 セイヤの顔が厳しくなる。


 「アクアマリンの観光客が例年の三倍近くいてな、モルの街から暗黒領に出るのが厳しくなった。そのため、私たちは他の街に一度向かってから、そこで合流し、暗黒領に出ることになりそうだ。だから最低でもあと三日はかかる」


 つまり、バジルたちが到着するころには、生存の望みが高い一週間を、半分も費やしていることになる。


 「なに? なら、ほかの十三使徒は?」

 「七賢人は私のほかに、二人の十三使徒を出動させてくれたのだが、残念ながらほかの十三使徒もすでにモルの街へと向かっていたため、時間がかかる。おそらく早くても二日はかかる」

 「二日だと!?」


 あまりの長さに驚きを隠せないセイヤ。


 セイヤの中では今日中にもバジルたちと合流して、魔王の館に夜襲を仕掛けようと考えていた。しかし二日と聞き一瞬、物事を考えられなくなる。二日と言う数字はあまりにも絶望的だ。


 「二日はいくらなんでも長すぎる。どうにかならないのか? どうにかアクアマリンを突っ切って」

 「こちらとしてもそうしたいのは山々なのだが、アクアマリンの観光客が多すぎる。それに観光客が多い分トラブルも多くて、中々モルの街から出られないんだ」

 「そうか。それで、そもそもなぜそんなに観光客が多いんだ?」


 セイヤの疑問はもっともだ。いくらなんでも、このタイミングで今年のアクアマリンの観光客の増加は都合が良すぎる。それはバジルも感じていたことだった。


 「おそらくこれも敵の作戦の一種だと思われる」

 「いったいどうやって?」


 今回の犯行はすべてダクリアの人間の犯行であり、ダクリアの人間がレイリアの大勢の人間を動かすのは難しい。


 そうなると、今回の犯行にはレイリアの、それもかなり有名な人間がかかわっている可能性が出て来る。そうなると、セイヤにはレイリアの人間を信じていいのかという疑念がよぎった。


 「それはわからない。しかし、私たちは敵の術中にはまってしまったというのは確かだ」

 「くそ……」


 この時、セイヤの中では二つの選択肢が浮かんでいた。しかし、そのどちらともリスクがある。


 「どうするんだ、バジル?」

 「お前たちはその宿で待機をしてくれ。早くても二日後には十三使徒のうち、どこかの部隊が合流するはずだ。そしたらすぐにモカ=フェニックス救出作戦を行う」


 バジルの選択は上に立つ者として最善の選択である。部下の命を危険にさらすことを避け、より安全に作戦を遂行することは、隊長にとって大切なことだ。


 しかしそれは同時に人質の生存確率がどんどん下がっていくという事にもなる。


 セイヤはこの街に来て、うすうす勘付いていた。


 モカが一週間は無事という当初の予想は、希望的観測であり、本当は今にでも助けなければ危ないと。


 それはこの街の技術水準の高さが示している。自分の価値観はこの国には通じない。魔装馬よりはるかに速い移動手段を持つこの国の技術力では、すでにモカが生存しているのかも怪しい。


 けれども、もしかしたらまだ生きているかもしれない。そんな考えが、セイヤの脳内を渦巻く。


 「いいか、お前らはあくまでも先遣隊であって、本体ではない。決してそのままで救出を行おうなどと考えるなよ? わかったかキリスナ=セイヤ?」


 バジルはセイヤの沈黙に嫌な予感を覚え、くぎを刺したが、すでに遅かった。セイヤの中ではもう答えは決まっていたのだ。


 「悪いな。俺らは六人でモカ救出作戦を実行する。お前ら十三使徒の部隊を待っている余裕はなさそうだ。事態は一刻を争う」

 「待て! そんなの自殺行為だ! 相手はどんなやつかわからないんだぞ? それに、そんなの魔法学園の生徒から逸脱している」


 バジルの言うことは最もだ。しかし、セイヤとしても引くことはできない。


 「お前らを待っていたら、モカ=フェニックスがどうなるかわからない。それに俺らは魔法学園の生徒としてやっているんじゃない。フェニックス家の友としてやっているんだ」

 「許さないぞ。先遣隊が任務を放棄するというのか? 上官命令だ、お前らはそこで待機してろ」


 何としてでもセイヤたちを止めようとするバジル。


 普段なら絶対口にしない上官命令などと言う言葉まで出して、セイヤたちを止めようとする。しかし、そんなことをわかっているセイヤは、バジルに責任が及ばないように、建前だけは言っておく。


 「現時刻をもってキリスナ=セイヤ以下六名は十三使徒バジル=エイトの傘下を外れ独立部隊とする」


 セイヤたちはそもそもバジルの傘下になどなってはいないのだが、万が一の場合を考え、建前でバジルの傘下ではないと宣言する。


 これにより、セイヤたちは完全にバジルの命令を受ける必要はなくなった。同時に、バジルは責任問題になった際に少しは責任が軽くなる。


 「じゃあまた後で連絡する」

 「待て! キリスナ……」


 セイヤはそういうと、一方的に念話を切り上げた。そして、バジルからの念話を受け付けないように魔力コントロールをして、ユアたちのいる食堂へと向かう。


 「さて、これからどうするか」


 食堂に向かいながら、そういうセイヤであった。


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