第70話 アクエリスタン教会
ここから三章です。
「えっ、なによ?」
セイヤが急に腕をつかんだことにより動揺するセレナ。
それはセレナだけではなく、ユアやモーナ、アイシィまでも同じだった。ユアにおいては「何をしているの?」といったような視線でセイヤのことを睨んでいる。
しかしユアはすぐにセイヤの深刻な表情を見て察する。そして直後、セイヤの発言により、生徒会メンバーは新たに驚愕することになった。
「さっき、モカ=フェニックスさんが何者かに攫われたようだ」
「はっ?」
状況を理解できないセレナ。それもそのはずだ。なにせ、いきなり腕をつかまれたと思ったら、次には自分の母親が攫われたと言われたのだから。
信じることも難しいというのに、それを冷静に受け入れるなんて無理に決まっている。
だからこそ、セイヤはリリィから聞いた事実をそのまま伝える。
リリィとナーリがアクアマリンに行くために家を出ると、少したところで急に爆発音がした。二人が慌てて爆発した場所を見ると、そこはついさっき時まで自分たちがいた家の方だった。
二人が慌てて家に戻ると、やはり煙はフェニックス家から出ていた。二人は慌てながらも、まず教会に連絡し、すぐにモカのことを探し始めた。
教会には警察のような機関もあるため、事件などにも対応している。
しかし、二人がモカのことを懸命に探したが、見つかることはなかった。そして、到着した教会関係者の話によると攫われた可能性が高いと言われ、リリィはセイヤに念話を飛ばしたのだ。
「それは本当なのですか?」
セイヤの説明にモーナが確かめる。セレナはどこか心あらずという感じで、アイシィがセレナの手を握っていた。
「ああ」
「では一体どうやって? 念話石を使っているようには見えませんでしたが」
モーナの質問はある意味、当然の質問だ。普通の人は遠距離との連絡をする際、念話石という鉱石が必要になる。しかしセイヤには念話石を使っている様子は見えなかった。
だというのに、セイヤは急にセレナの母が攫われたと言い出したのだから、信じようにも信じられない。それはセレナとアイシィも同じだ。
セレナはどこかまだ嘘だと思い込んでいる様子である。しかし非常な現実をユアが告げる。
「セイヤとリリィは念話石を使わなくても念話できる……」
「それは本当ですか?」
「まあな」
信じられないという表情をするモーナ。
念話石を使わない念話など電話機を使わない電話と同じである。それに念話石を使う念話は、念話と書くが、実際には念話石を通して会話するため、声を発する必要がある。
しかしセイヤは念話石を使うどころか、声すら出さずに念話したというのだ。さすがにこれには驚くしかない。
「仮にその話が本当だったとして、どうするかですが、セレナ」
「えっ?」
急に名前を呼ばれ、マヌケな声を出してしまうセレナ。やはりまだ、どこかで話を信じられていないらしい。そんなセレナに対して、モーナが喝を入れる。
「しっかりしなさい、セレナ。これはあなたの問題です。私たちはあなたの選択に協力します」
「そうです。私たちはセレナ先輩に協力します」
「二人とも」
セレナはそこで初めて自分が直面している現実に目を向け始めた。
「そうだ鳥女。今はまず何をするかを決めろ」
セイヤの言葉を聞き、セレナは自分の頬を軽くたたいて切り替える。
「わかったわ。ロリコンに言われたのはしゃくだけれどやるしかない。まずは教会に向かうわ。リリィちゃんたちにも教会に来るように伝えて」
「わかった。じゃあ行くか」
「ええ」
セイヤたちはひとまず教会へと向かうことにした。だがこの時、セイヤはあることをまだセレナたちには伝えていない。
それは、モカが単純に攫われたのではなく、暗黒領の方に攫われた可能性が高いということだ。セイヤはまだこのことを伏せておきたかった。
まだ決まったわけではない。そう心に言い聞かせながら、教会を目指し、移動を開始する。
五人がいた場所は、街の中心より教会側にあったため、比較的すぐに教会へと到着することができた。アクエリスタン教会は周りの建物と比べても、とても大きく建てられており、子供でも分かるぐらいの威厳を放っている。
そして教会の門の前には、すでにリリィとナーリの姿があり、ナーリはセレナのことを見つけると、泣き始めた。
「お姉ちゃん!」
「ナーリ!」
「お母さんが、お母さんが。私がもっと遅くに家を出ていたら、防げたかもしれないのに。私が……」
それはナーリの後悔。もし自分があの時、少しでも遅く家を出ていたのなら……ナーリの心は今にも押しつぶされそうになっていた。
そんなナーリに、セレナは優しく言う。
「違うわ。ナーリのせいじゃないから安心して」
「でも……」
モカが攫われたのは自分の責任だと言うナーリの頭をセレナは優しく撫でる。
それはナーリのことを落ち着かせようとするためであり、同時にセレナが自分の心を落ち着かせるためであった。
しばらくして、ナーリが落ち着くと、七人はその大きな扉を開けて教会の中へと入る。
扉の先に広がる教会は広い酒場のようなところになっており、カウンターには受付嬢、広場には多くの魔法師らしきものたちがいた。
広場の魔法師たちは、入ってきたセイヤたちのことを一斉に見つめる。
その視線は非友好的な視線だった。だが、無理もないことだろう。なぜなら教会のなど、魔法学園の生徒が来ていいところではなかったから。
教会の広場には、大きな掲示板があり、そこには数々の依頼書が張ってある。その依頼書には、討伐やら採集やらの仕事が書いてあった。
教会のシステムはクライアントから依頼された仕事を掲示板に張り、各魔法師一族がその中から仕事を選び、実行することになっている。
依頼には難易度などがあり、その難易度によっては上級魔法師以上などと制限が加えられる。中には教会側から直接指名されることもある。
その具体例が魔獣討伐だ。魔獣討伐は迅速に対応する必要があるため、いちいち掲示板に張っている時間がない。だから教会側が有力な魔法師一族に仕事を依頼し、迅速の魔獣の殲滅などに務めているのだ。
つまり教会の広場には真剣に仕事を探す魔法師たちが数多くいる。そしてそこに魔法学園の生徒がいると、どこか遊んでいるように見えてしまうのだ。
よって、セイヤたちはあまりいい目では見られなかった。
教会に入った瞬間、数多くの大人たちに睨まれたことで、ユアはセイヤの袖を握り、リリィもセイヤの背中に隠れる。ナーリもセレナの手を握りながら怖がっていた。
これは仕方がないことだ。学生魔法師と本職魔法師ではそもそも種類が違う。
片や魔法を教わりながら暮らす存在、片や魔法で飯を食っていき、その上で家族を養ったりもする存在。
どう頑張ったところで、経験の差というものが出てしまう。そもそも纏う雰囲気が違う。
ナーリが周りの魔法師たちに恐怖を抱いてしまうのも無理はない。
補足だが、ダリス大峡谷を経験しているユアとリリィは、広場の魔法師たちに対して全く恐怖心を抱いてはいない。ただセイヤにくっつきたかっただ。
セイヤはそんな大人たちを無視してカウンターへ向かう。その動作には一切の恐怖や、ぎこちなさはなく、完全な自然体。
自然体で歩くセイヤの姿に、周りにいた大人たちの一部が面白そうな視線を送る。
カウンターには二十代の美女が座っていた。
ユアやリリィには及ばないものの世間的に見れば美人に入る部類だ。そんな美女がセイヤに向かって笑顔で用件を聞く。
その際、全くデレていないのだが、なぜかユアがセイヤの手首をつねった。
「こんにちは。ご用件は何でしょうか?」
さすがは教会の受付嬢だ。学生が来ても、ここまでは完璧な応対をする。しかし、セイヤの用件を聞いた受付嬢は、その完璧な応対を崩してしまう。
「ここに十三使徒バジル=エイトがいるはずだ。呼んでもらいたい」
「はっ?」
いつも読んでいただきありがとうございます。このお話から三章がはじまります。三章ではバンバン闇属性、聖属性を使うのでお楽しみに。それではよかったら次のお話も読んでみてください。次は水曜日の19時に投稿予定です。




